私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸

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 アンジェラには手紙で話をしていたヴィクトアとの出会いの話から、彼の元での生活の話、それから自分の力とそれに伴う家族とのいざこざ。

 そういうものを吐き出すように滔々と語ってしまって、カイは途中で飽きたような様子だったけれど、私と婚約していた時のように別の話に無理やり変えようとしだしたりすることもなく、どうにか最後まで真剣な雰囲気のまま話し終えることが出来た。
 
 重たい空気の中、私は最後にこの問題についての私の考えを口にした。

「ああして、両親とは決裂してしまったけれど、アンジェラがどういう風に彼らをするつもりでも、私の家族で責任は私にあるのだから、この後の事についてもお母さまとお父さまとを……どうにかしなければと思ってる」

 自分にはどうにもできないだろうとは思っているし、どうにかする方法も思い浮かばない、それでも、何とかしなければならないという責任は私にあるだろう。

 アンジェラには何か策がある様子だったけれど、それに頼り切る形にならないようにしたいと思う。

 けれど、私の言葉を聞いて、アンジェラよりもカイが先に「え~」と不満の声を漏らした。

 その子供っぽい不満の声にアンジェラがギロリと睨みつけると、驚いてそれから、バツが悪そうにあっちこっち見た。

 しかし、言うべきだと自分の中で思った様子で、いつになく真剣にカイは私を見た。

 その瞳は真っ黒で、相変わらずとても純粋そうに見える神秘的な瞳だ。

「…………あー、うーん。フェリシアはずっとフェリシアだな」

 たくさん考えた後に口にした言葉は私にはあまりよく理解できず、思わず首をかしげて続きを促した。

「……俺様が言えたことじゃねぇ~って言われるかもしれないけど……俺は今の話聞いて、お前の家族嫌いだし、お前がそんなに優しくする価値ないっていうか」

 考えながらも、私に伝わるようにカイは言葉を探していて、彼も私をじっと見てから、ぱっと思いついたように笑って口にした。

「お前が優しすぎるから、お前の家族、お前の事しか眼中になくて、絶対いなくなんないフェリシアを骨になるまで貪り食いたいと思ってるぞ」
「……」
「お前は家族だから自分の問題だからなんて言っているけど、フェリシアは俺に言ったじゃん。フェリシアの為にも……俺の為にもそばにいられないって」

 それは私が彼に婚約破棄を言い渡した時の話だ。たしかに言った。このままではいけないと思った。

 私とカイは寄り添う事では良い方向に進めない。そう確信していた。

「お前の家族もそうなんじゃねーの。わかんないけど。俺様、フェリシアと一緒にいた時よりわがままになったか?」
「……いいえ」
「じゃ、立派になったか?」
「……うん、凄く」
「フェリシアが一緒にいてくれないって言ってから……居なくなってからやっと考えた。お前が俺にとってどういう人間で、何が悪かったのか」

 あの時の私の選択は、とても無責任だったと思っている。それでも彼にも私にも悪いと思ったから離れることを決められた。

 しかし、それでよかっただろうかと思わないわけではない。けれども放棄した私に、放棄されたカイがいう言葉はひどく説得力があった。

「でも、フェリシアがずーっと見捨てなきゃ俺は何も考えなかったし、お前を食いつくす事しか考えなかったと思う。お前の家族もきっとそうだ」
「……そう、なの?」
「うん。だって見ただろ、なんか言葉通じないし、お前の事なんか所有物みたいに思ってて、目が血走ってギラギラしてた! あれ普通じゃないだろ~」

 カイに言われて父と母を思い出した。たしかに彼の言った通りだと思う。

 ……私が寄り添っても、責任を持っても捨てない限りは良い方向に向かえない……。

 だとしたら、悪かったのは私の責任感だ、誰にも預けられず、頼れず抱え込んで何とか受け流そうとするこの性質。

 それが悪くしている。

「……」

 しかし今更どうしたら良いのかわからない。きっとカイが提案したことは、家族を捨てるという事だろう。

 不思議なことに自分の頭の中にはその選択がまったくなかった。

 そんな自分に、追ってこられないと知っているカイとの婚約を破棄することならまだし、もあんな風に執着をしてくる家族を捨てることなどできるのだろうか。

「そうですね。言葉は悪いけど、私もカイと同じように思います。フェリシア。貴方は誰も見捨てない、優しくて良い人。それはとても美徳です! 」
「うん」
「けれど、そうされるとどこまでも欲してしまう人間もいて、貴方がそれを許してしまうと本当に貴方を大切にしたいと思っている人間は、とても貴方が心配になって不安なんです」

 カイの言葉を補足するようにアンジェラが言った。

「貴方は全部自分事としてすべてを抱え込んでしまうし、こうして最後の最後に本当に危険な目に合うまで、自分だけで解決しようとしていた」

 隣にいる彼女を見る。その瞳は心配に染まっていて、既視感があって、やっと腑に落ちた。

「だから、貴方を大切だと思う私たちをいつでも頼ってください、何も言ってくれなければ、無理やりに手を差し伸べることは出来ないんですから! どうかフェリシアが抱えている責任の少しを私たちに分けてください」
「良いこと言うな! アンジェラ!」
「カイ、少しは空気を読みなさいって!」
「だってかっこよかったぞ!」
「それは、ありがとうございます!……はぁ、しまらないですね」

 カイが茶化すつもりはなかったのだろうが元気に言って、馬車の中は和やかな雰囲気に包まれる。

 そんな中で私は、ヴィクトアのあの必死そうな表情を思い出した。
 
 たくさん言葉を掛けてくれていたのにずっと気がつかずにいた。

 彼が言いたかったのは、迷惑をかけるなという事ではなく、ただ、気を許して、私の手伝いをさせてほしいと切に願っていた言葉だった。

 ずっとずっと、優しくわかりやすく言ってくれていたのに、私の方こそ家族の事しか見えなくなって、一番身近で手を引いてくれようとしてくれていた彼に気がつかなかった。

「ああ、そろそろつきそうですね。雨も上がってきましたし、王宮に戻るときは濡れずに済みそうです」
「みろ、アンジェラ、フェリシア! 虹!虹!!」
「本当……随分、綺麗にかかっていますね」
「やった、しばらく幸運が続くな!」

 言われて窓の外を見た。すでに王宮の庭園が見える位置まで来ていて、たしかに美しい虹がかかっていた。

 ……本当だ、綺麗。

 素直にそんな感想を持ってから、早く帰ろうと思う。きっととても心配をかけていると思うから。

「?! 何してるんですかあの人、はぁ、必ず連れて戻るから応接室で待っているようにと言ってたのに!」
「馬車が見えて、急いで出てきたんだろー」
「そりゃそうでしょうけど」

 焦った様子のアンジェラの視線を追って、私も窓の外の王宮のエントランスを見た。

 そこには見慣れた彼の姿があって思わず、馬車の座席を立った。

 もう少し待っていたら、馬車はきちんと到着して彼に会えるとわかってはいたが、それでも緩やかに速度を落としていく馬車の扉を押し開いた。

「え! ええ?! フェリシア!?」

 アンジェラが私の名を呼んで混乱した様子で、私をこの場にとどめようと手をのばした。
 
 しかしその手は届かず、私は馬車からぴょんと飛んで躓いて転びそうになりながらも、とかとかと地面をけって走った。

 さっき私が気がついたことが事実ならば、ヴィクトアはすごく驚いているだろうし不安でたまらない……かもしれないと思うのだ。

 それを確かめたかったというのもあるし、なによりなんだか会いたくて堪らなくなってしまったというのもある。

 事実はどっちでもいいのだが、遠くに見えていたヴィクトアもこちらに向かって駆けてきて、私が必死で走っているというのに自分が進む速度よりもよっぽど早く目の前に迫ってきた。

 勢いに任せて抱き着いてしまおうか、そんな風に思ったけれどもヴィクトアはとても怒っている様子で、何も言わずに私の両肩を思い切り掴んだ。

「っ……」

 まだ肩の傷が少し痛くて、よく考えると頬の切り傷などはまだ治っていない。心配をかけてしまっただろうからと馬車から飛び出してきたのに、この風貌では余計に心配かけてしまうだろう。

「……」

 恐る恐る様子を伺うとヴィクトアは何か勢いに任せて言うとして、それから、震えると息を吐いて、ゆっくりと自分を落ち着けてから口を引き結んで私の頬の傷を指でなぞった。

 血は止まっているがピリピリと痛くて逃げ出したくなるけれど、こんなことになってしまったヴィクトアの方がずっと辛くて悲しいのだろう。

「ごめんなさい、ヴィクトア……勝手に飛び出して」

 迷惑をかけてとはもう謝らなかった。

 私の言葉に彼は、少し黙ってそれから、最終的にとても悲しそうな顔をして呟くように言うのだった。

「あんたが心配すぎて俺は死ぬところだったぞ」
「……うん」
「頼むから……俺が守れない場所に勝手に行かないでくれ、フェリシア。俺は、あんたを傷つけられたくないんだ」
「はい」

 振り絞るような声で言われた言葉にきちんと返事をすると、すぐに抱き寄せられて、彼の大きな体に包まれる。

 言葉はいつもよりも直球で、自分は彼に愛されているという自覚が足りなかったのだと後悔した。

 でも後悔しているのに幸せで、これでやっと大丈夫だと心の底から安心できた。

「……ヴィクトア、私の秘密、全部話します。だから私の実家の事、手を貸してください……助けてほしいんです……ゆるして、くれる?」

 抱き着きながら上を見て問いかけると、ヴィクトアは少し驚いてから、私の頬を撫でてしごく当たり前といった感じに返した。

「ああ、もちろん。やっと言ってくれたな」

 その言葉でやはり間違ってなかったのだと思えた。

 
 それからやっと私たちはお互いに対等な夫婦になった。

 アンジェラやカイにも助けられて、私は何とか花の女神の聖女として世間知られるようになり、公爵夫人としても慣れない社交に苦戦しながら何とかやっている。

 それは目まぐるしくも、幸福な結婚生活そのものだった。



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