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しおりを挟む「…………ユキこそ、怖くなかった?俺、君があんな想定外の事を言わなかったら、止まってなかったよ」
「怖かったぞ?なんか怒ってて、でもセージは寂しがりだって聞いてたからな、告白するなら今だって思った」
「聞いたって誰から?」
「……リク」
すかさず聞き返されて、ボクは、サオリさんとリクを天秤にかけて、仕方なく、今日も手助けしてくれたのにリクの方を売った。このお詫びは今度お酒でもおごらせてもらおうと思う。
予想外の名前だったのかセージは少し驚いたように瞬きをする。
「知り合いだったの?」
「いいや?この間、忘れ物取りに来て鉢合わせた。リクまだこの家の鍵持ってんだろ」
「……そういうことか。じゃあ、バーに連れて行ったもの凛久だね」
「よくわかったな」
「俺と付き合ってた時もよく行ってたからね」
……付き合ってた時も行ってたのか?それはどうなんだ?
すこし不誠実な気もするが、もう過ぎた話なので特に何か言っても意味はないだろう。
「……じゃあ、俺が凛久と別れた原因も知ってるんだ?」
なんだか暗い声でそう問われて、気にしているのかな、なんて思いながら頷く。
「告白してくれたってことは、それでもいいてことで合ってるよね」
「ああ、そうだな」
「一応常識的な範疇は守るけど、本当に面倒だよ、俺」
「別にいい。あ、ただ、ボクからも一ついいか?」
「ん?」
「絵を描く時間だけはくれ。あと、ミノルに引き渡しに行くのも許してくれればいい。他は、そのたびに相談する」
「わかった。いいよ」
すぐに了承してくれて、よかったと思う。リクと遊びに行くのは、少し渋られそうに思うけれど、大丈夫だろう。一応信頼して付き合っていた仲なのだから、飲みに行くぐらいは許してくれると思う。
実際先程もバーに行ったことに怒っていたのではなく、アライが仲良さげにしていたことについて怒っていたようだったし。大丈夫だろうとあたりをつける。
「君の要求はそれだけ?」
「うん」
「じゃあ、付き合おう。でも俺からも一ついい?」
セージはボクの両肩を掴んで、自分の方に向ける。それから、地を這うような声で言う。見上げた彼の瞳は、暗くくすんでいるような気がして、やっぱりほんの少しだけ怖い。
「……恋人同士でも、俺は、君がここから居なくなるなんて考えられない。だから、君がいなくなったらそのときは」
手に力が入る。
大丈夫だ。きっとボクが、ここからいなくなったときは、ボクの意思じゃない。
「お前が見つけに来てくれるんだろ?待ってるよ」
「……」
「ま、ミノルのやつが、ボクを引っ張ってこうとしても突っぱねられるからだいじょうぶだと思うけどな。他にボクを誘拐したい奴なんかいないだろうし」
それに実際に、居なくなったら、多分それは事件だと思うので警察に届けてほしいのだが。
ボクの言葉にセージは、真偽を確かめるみたいにじっと目を見る。そんなに見つめたって、何にも映ったりはしないと思うのだが、そらさずに見返した。
「…………はぁ、……君には敵わないな」
「そうか?」
「あははっ、うん。ねえ、ユキ」
セージは丁寧に、プレゼントの紙袋をベットの端において、軽くボクを押し倒す。それから心底優しい笑顔で、ボクの頬を撫でる。
「好きだよ。愛してる」
今まで聞いた中で一番甘ったるい声だった。可愛いとか、いい子だって言ってくれた時だって優しくて、はちみつみたいな声だったのだが、この言葉だけはとびきり甘く鼓膜を震わせる。
「……乎雪」
「っ、お前にそう呼ばれると、なんか照れるな」
「そう?君にぴったりの響きだと思うよ」
女みたいだからと、よく揶揄われて嫌だったこの名前もセージに呼ばれると妙にしっくり来てしまって、心臓の音がうるさい。
「あはは……赤いね。リンゴみたい」
「せ、セージも赤い」
「そう?……そっか」
言いながら彼の表情はとろけきっている。普段はあんなに仕事ができそうなかっこいい顔をしているのに、今ばかりは表情筋が緩みすぎてて騙されやすそうな顔つきである。それに、こんな歳にもなって恋人ができたことに浮かれて顔が赤いなんて情けない。
多分、ボクはもっと情けない顔をしていると思うが。
「乎雪、好きだよ」
そんな言葉を囁かれながら、キスをされてなんだか緊張がやっとほぐれたのと幸福感に、涙がにじんでくる。
「ぼく、もセージが好き」
キスから離れたタイミングで、声が震えるのも気にせず口にした。
セージは堪らないとばかりに、ボクをきつく抱きしめて深く深く口づけた。
ボクらはそれから馬鹿みたいにお互いを求め合って、二匹の獣みたいになって、そろって眠った。
拾われてペットになって、恋人になった。
夜のまどろみの中でこんな出会いもあるものなんだなと思った。それと同時にこれから、恋人として歩いていく道が、もっと良い方向に続いていく道だったらいいと思う。
暗闇のなか、幸せそうに眠るセージの事をみて、違うなと思い直す。
いい方向に続いているのを祈るのではなく、いい方向に進むようにしていこう、となんだか漠然とした決意をして、セージの方に少し身を寄せてまた眼をつむる。
心地いい、彼の心臓の鼓動に耳を傾けながら、暖かな体温が体に移ってゆっくりと眠気がやってくる。明日起きたらまた、好きだと彼に言ってそれから絵を描こうと思う。今日のこの心底、満たされた気持ちをいつでも思い出せるように、ずっと忘れないように。
この気持ちを現した絵画はどんな絵になるだろうか、それを考えるのは、ボクが絵を描くことの意味と同義ような気がして、やっとずっと何かに駆られるように絵を描いてきた理由がわかったきがした。
the end
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