ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
75 / 75

76

しおりを挟む






「…………ユキこそ、怖くなかった?俺、君があんな想定外の事を言わなかったら、止まってなかったよ」
「怖かったぞ?なんか怒ってて、でもセージは寂しがりだって聞いてたからな、告白するなら今だって思った」
「聞いたって誰から?」
「……リク」

 すかさず聞き返されて、ボクは、サオリさんとリクを天秤にかけて、仕方なく、今日も手助けしてくれたのにリクの方を売った。このお詫びは今度お酒でもおごらせてもらおうと思う。

 予想外の名前だったのかセージは少し驚いたように瞬きをする。

「知り合いだったの?」
「いいや?この間、忘れ物取りに来て鉢合わせた。リクまだこの家の鍵持ってんだろ」
「……そういうことか。じゃあ、バーに連れて行ったもの凛久だね」
「よくわかったな」
「俺と付き合ってた時もよく行ってたからね」

 ……付き合ってた時も行ってたのか?それはどうなんだ?

 すこし不誠実な気もするが、もう過ぎた話なので特に何か言っても意味はないだろう。

「……じゃあ、俺が凛久と別れた原因も知ってるんだ?」

 なんだか暗い声でそう問われて、気にしているのかな、なんて思いながら頷く。

「告白してくれたってことは、それでもいいてことで合ってるよね」
「ああ、そうだな」
「一応常識的な範疇は守るけど、本当に面倒だよ、俺」
「別にいい。あ、ただ、ボクからも一ついいか?」
「ん?」
「絵を描く時間だけはくれ。あと、ミノルに引き渡しに行くのも許してくれればいい。他は、そのたびに相談する」
「わかった。いいよ」

 すぐに了承してくれて、よかったと思う。リクと遊びに行くのは、少し渋られそうに思うけれど、大丈夫だろう。一応信頼して付き合っていた仲なのだから、飲みに行くぐらいは許してくれると思う。

 実際先程もバーに行ったことに怒っていたのではなく、アライが仲良さげにしていたことについて怒っていたようだったし。大丈夫だろうとあたりをつける。

「君の要求はそれだけ?」
「うん」
「じゃあ、付き合おう。でも俺からも一ついい?」

 セージはボクの両肩を掴んで、自分の方に向ける。それから、地を這うような声で言う。見上げた彼の瞳は、暗くくすんでいるような気がして、やっぱりほんの少しだけ怖い。

「……恋人同士でも、俺は、君がここから居なくなるなんて考えられない。だから、君がいなくなったらそのときは」

 手に力が入る。

 大丈夫だ。きっとボクが、ここからいなくなったときは、ボクの意思じゃない。

「お前が見つけに来てくれるんだろ?待ってるよ」
「……」
「ま、ミノルのやつが、ボクを引っ張ってこうとしても突っぱねられるからだいじょうぶだと思うけどな。他にボクを誘拐したい奴なんかいないだろうし」

 それに実際に、居なくなったら、多分それは事件だと思うので警察に届けてほしいのだが。

 ボクの言葉にセージは、真偽を確かめるみたいにじっと目を見る。そんなに見つめたって、何にも映ったりはしないと思うのだが、そらさずに見返した。

「…………はぁ、……君には敵わないな」
「そうか?」
「あははっ、うん。ねえ、ユキ」

 セージは丁寧に、プレゼントの紙袋をベットの端において、軽くボクを押し倒す。それから心底優しい笑顔で、ボクの頬を撫でる。

「好きだよ。愛してる」

 今まで聞いた中で一番甘ったるい声だった。可愛いとか、いい子だって言ってくれた時だって優しくて、はちみつみたいな声だったのだが、この言葉だけはとびきり甘く鼓膜を震わせる。

「……乎雪」
「っ、お前にそう呼ばれると、なんか照れるな」
「そう?君にぴったりの響きだと思うよ」

 女みたいだからと、よく揶揄われて嫌だったこの名前もセージに呼ばれると妙にしっくり来てしまって、心臓の音がうるさい。

「あはは……赤いね。リンゴみたい」
「せ、セージも赤い」
「そう?……そっか」

 言いながら彼の表情はとろけきっている。普段はあんなに仕事ができそうなかっこいい顔をしているのに、今ばかりは表情筋が緩みすぎてて騙されやすそうな顔つきである。それに、こんな歳にもなって恋人ができたことに浮かれて顔が赤いなんて情けない。

 多分、ボクはもっと情けない顔をしていると思うが。

「乎雪、好きだよ」

 そんな言葉を囁かれながら、キスをされてなんだか緊張がやっとほぐれたのと幸福感に、涙がにじんでくる。

「ぼく、もセージが好き」

 キスから離れたタイミングで、声が震えるのも気にせず口にした。

 セージは堪らないとばかりに、ボクをきつく抱きしめて深く深く口づけた。




 ボクらはそれから馬鹿みたいにお互いを求め合って、二匹の獣みたいになって、そろって眠った。

 拾われてペットになって、恋人になった。

 夜のまどろみの中でこんな出会いもあるものなんだなと思った。それと同時にこれから、恋人として歩いていく道が、もっと良い方向に続いていく道だったらいいと思う。

 暗闇のなか、幸せそうに眠るセージの事をみて、違うなと思い直す。

 いい方向に続いているのを祈るのではなく、いい方向に進むようにしていこう、となんだか漠然とした決意をして、セージの方に少し身を寄せてまた眼をつむる。

 心地いい、彼の心臓の鼓動に耳を傾けながら、暖かな体温が体に移ってゆっくりと眠気がやってくる。明日起きたらまた、好きだと彼に言ってそれから絵を描こうと思う。今日のこの心底、満たされた気持ちをいつでも思い出せるように、ずっと忘れないように。

 この気持ちを現した絵画はどんな絵になるだろうか、それを考えるのは、ボクが絵を描くことの意味と同義ような気がして、やっとずっと何かに駆られるように絵を描いてきた理由がわかったきがした。









the end



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

やけ酒して友人のイケメンに食われたら、付き合うことになった

ふき
BL
やけ酒の勢いで友人に抱かれた榛名は、友人の隠された想いに気付いてしまう。 「お前、いつから俺のこと好きなの?」 一夜をなかったことにしようとする瑞生と、気付いたからには逃げない榛名。 二人の関係が、少しずつ変わっていく。 瑞生(ミズキ)×榛名(ハルナ)

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

処理中です...