【R-18】17歳の寄り道

六楓(Clarice)

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第1章、碧編

【1】17歳、白川碧

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白川碧しらかわあおい、17歳。

少子化の影響を受け、由緒ある男子校だったこの高校が共学になったのは2年前のこと。
女子第1期生として入学し、1年が経った。

当校にはコースが3つあり、特進、普通、スポーツとカリキュラムが分かれている。
私は特進コースで入学したのだが、クラス替えがなく、担任も変わらず、3年間同じメンバーで学校生活を送る。

生徒35名のうち、女子は2名。
普通科になるともう少し女子の割合が増える。
共学化した初年度はこんなものだと担任も話していた。


授業が終わり、帰宅部の私は廊下から運動場を見下ろした。
サッカー部が声を出し合い、ボールを追いかけ練習に励んでいた。

キーパーの東野君が私に気づき、片手を上げた。
私も、笑顔でブンブンと手を振り返す。

同じクラスの彼とはわりとしゃべる仲だ。
短髪でさわやかで優しくて、他の男子と違って下ネタはしない。
弱冠16歳で紳士的なだけあって他校に彼女がいるという噂があった。

好き、と言えるほど想いが強いわけではない。
でもあの優しさを独り占めできる子がいるんだなと思うと、ちょっとだけ羨ましかった。


少しの間サッカー部を眺めてから、帰ろうと階段に向かう。
必然的に仲良くなったクラスの女子、須賀千晴は今日は部活。ブラスバンド部で、音楽室からは管楽器の音色が流れてくる。

部活には入りたかったのだが、楽器はさっぱりダメだし、やっぱり女の子がいるクラブがいいなぁと考えあぐねているうちに入部するタイミングを失い、2年生になってしまったのだ。

「なんだ白川、まだ残ってたのか」

角を曲がってきたのは担任の村上先生。
担当は化学なのでよく白衣を着ている。
細いけれど背は高く、常に不機嫌に見える顔。
年齢は30半ばで、どことなく影のあるタイプだ。数年前に離婚したらしい。

変わり者だから捨てられてたのかな、などと、心の中で失礼な予想をしていた。

「先生、忙しそうだね」
と、村上先生の後を追うと、先生は鬱陶しそうな顔をして手で払う。

「忙しいですよ。早く帰りなさい」

なによー、感じ悪ーい。


村上先生が感じ悪いのはいつものことだ。
気にも留めずに帰り支度をして、高校を出る。

少し歩いた先には公園があり、私はいつもそこの木陰に自転車をとめていた。
自転車通学は禁止されているが、電車で通うのも難しかったし、バスも通っていないルートだったので、消去法で自転車の選択肢しか残らない。

その日は私の自転車の隣に、黒い自転車が置いてあった。
誰だろうと気になりながらも、遭遇することなく数日が過ぎて行った。


◇◇◇◇◇


「碧ー、学食行く?」

体育が終わった後、千晴に声を掛けられる。
4時間目の体育はお腹がすく。

「私、お腹鳴ってた」

そう千晴に言うと、隣で話を聞いていた東野君に吹き出された。
聞かれていたとは恥ずかしい……。

「おれもすげー鳴ってたよ。一緒」

笑いながらフォローしてくれていい人だ。

「ほんと優しいよね、東野君」

本心を伝えたら東野君の顔が少し赤くなったように見えた。
千晴が私の肩を叩き、小声で囁く。

「モテるねぇ、碧」
「モテてないよ、東野君彼女いるんでしょ」
「いてもだよー。あの様子じゃ碧の事好きでしょ。碧の事好きな奴多いもんね~」

そうかなぁ。本人にモテる自覚はない。
それなりに告白もされたけど、お付き合いはできないような感じばかりで…

それなら、美人の千晴の方がモテている。
彼氏がいるのに他科の子や、先輩からも告られてるの知ってるもん。

「女子少ないから、無邪気には喜べないんだよね…。男子校マジックっていうか」
「それはわかる」

ふふっと笑い合いながら、教室に戻った。


校舎も男子校だった当時のままなので、女子更衣室はない。
男子たちの着替えが終わったら、教室を私たちだけにしてもらってそそくさと着替える。

最初の頃は慣れなかった。覗かれているような気がしたからだ。
今は、覗かれたとしても大丈夫なように工夫をしながら早着替えが出来るまでになっていた。

急いで着替えて、男子たちに着替えが完了したことを伝える。
結んでいた髪をするりと解き、ゴムを唇に咥えて、髪を結び直す。

しゅるしゅると結びながら、誰かの視線を感じて顔を上げたら、廊下に3年生がいた。
……え、私を見てる?
目が合ったので手を止めたら、その人はふいっと向こうへ行ってしまった。

「……千晴、今の人知ってる?」
「えー?見てなかった」

まあ、いいか。
用事があるならまたアクションがあるだろう。
気を取り直して千晴と食堂に向かった。


◇◇◇◇◇


その日の放課後、またサッカー部を眺めていた。
東野君ばかり目で追ってしまう。

彼女になりたいだとか思ったりはしないが、東野君はやっぱり特別だ。
窓枠に頬杖をついて、心行くまで眺めていた。

すると、背後から頭をポンと叩かれた。
頭を押さえて振り向いたら、同じクラスの浅野君だった。
薄茶色の髪をしていて、背が高く、冷めた目をしている。

浅野君は、トラブルメーカーとまで言わないが、サボったり、良くない意味で目立つ生徒だ。特進の中でも成績は悪くはないが、休みがちだったりするので、先生によく呼び出されている。
他科の目立つ先輩とつるんでいたりして、関わるとロクな事がなさそうな、そんな人だった。

「こんなとこで何してんのー」

浅野君は気怠げに私の視線の先を追い、ふんと鼻で笑った。

「白川は東野狙いかぁ。俺あいつ嫌いだわー」

不躾な言い方をする浅野君を、キッと睨む。さすがに気分を害したことに気付いたらしい。

「ごめんごめん。でもあいつ、彼女いるだろ」
「……そうだね。でも、見てるだけだもん。見てる事しかできないもん……」

つい、弱音を漏らしてしまったら、浅野君が少し驚いた顔を見せた。
バカにされる!と身構えたら、浅野君は真面目な顔で私を見つめ返す。

「もったいねーな。白川とつきあいたい奴なんていっぱいいるのに」
「へ」
「知らねーの?」

慰めてくれてるの…?

すると、浅野君は神妙な顔で顎に手を当てて、私の耳元に少し近づいた。


「碧ちゃん、みんなのオナペットだよ」
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