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第13章、東野編
【6】高校卒業、東野涼太
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翌日は、待ち合わせ時間ギリギリについた。
駅前の駐車場に車を停めることにし、俺だけ先に降りて待ち合わせ場所に向かう。
千晴はもう駅に着いているらしいが、白川は少し遅れているらしい。
噴水前での待ち合わせ。この地域じゃ定番だ。
……千晴はまだいない。
ちょうど3時、噴水が派手に噴き上がり、鳩時計が出たり引っ込んだり。
それを見ながら、俺はしつこく良心の呵責に苛まれていた。
やっぱり浅野に黙って会うのはフェアじゃない。
それに、セフレ話もやはり捨て置けない。
俺はクリアな気持ちで白川に告白したい。
ずるい真似はしたくない。
スマホを取り出し、浅野に発信する。
何度かコール音がした後、「なにー?」のんきな声で浅野が出て、イラッとした。
「……お前、セフレいるらしいな?」
『え?何て?聞こえね』
俺の質問がよくわからなかったらしく、もう一度言わされる。
「セフレだよ!いるんだろ?」
『は?いねえよ。誰がセフレだよ』
目力Bだよ!
「名前はわかんねーけど、経済史の時間に会った奴らだよ」
すると、浅野もはっきりしない様子を醸し出す。
『あー、……セフレじゃねえけど、新歓コンパの後で、酔ってたからあんまり覚えてないし』
何かあったことは事実なんだな。このヤリ○ンが!
俺は、激しめの水飛沫が己に掛かっていることにも気付かずに、浅野に宣言する。
「俺は、今から白川と会うんだよ。好きだったって言うつもりだし」
『あー。言えばいんじゃね?』
何だと?
まだ意地を張り続ける浅野に、俺は周りに人がいることも忘れて全力で罵った。
「興味ないふりしてんじゃねえ、寒いわ!お前がまだ未練あることぐらいわかってんだよ!『浅野はセフレ作って楽しくやってる』って白川に言っといてやるわ!バラされたくなかったらすぐ来い!」
通り過ぎゆく女性数名が、スマホ片手に大声を出して騒ぐ俺を見、早足に去って行った。
完全に危ない輩だと思われている。
浅野は数十秒黙っていたが、重々しく聞いてきた。
『…………そこ、どこだよ』
「学園駅前だよ!来い!」
それを告げるとすぐに電話が切れた。
つい、呼びつけてしまったが……本当に来るのか?
ていうか、今……自分の首を思いっきり絞めた気がする。
そして、俺も浅野も振られたら、世にも寒々しい展開になる。
早まったかもしれない……。
ちょっと後悔しながらスマホの画面を呆然と見ていると、ぽんっと背中を叩かれた。
「涼太ー?変わってないねー。久しぶり~。何でシャツ濡れてんの?」
千晴だった。
「ああ、久しぶりだな。白川は……?」
「碧は急遽午前中バイト入ったらしくて、さっき上がって今向かってる途中だってー。三浦君は?」
「今、駅前駐車場に車停めてて……あ、来た」
ミウが後ろから爽やかな笑顔で走ってきて、「あれ?涼太、何で服濡れてんの?」と一言聞いてきた。
「東野君、久しぶりだね!なんか私服だとイメージ違うね!」
白川が遅れてやってきた。
かわいい。やっぱりすげーかわいい。
白いフワッとしたシャツに、フワッとした膝上スカート。
セーラー服からのフワフワ私服がグッときた。
それを見抜いたのか、千晴が俺をちらりと確認し、“いつ告んの?”という視線を送ってきた。
“まだです……”と視線を返すと、千晴が“さっさとしなさいよ”という目をする。
わかってます……。
でも、さっき浅野に盛大に宣言した手前、逆に身動きが取りづらくなってしまった。
オウンゴールのフラグが立っている気もしてきて焦る。
浅野がバイクで来るとしても、1時間半はかかる。電車ならもっとだ。
「ボーリングするー?何か食べるー?どうしよう。碧、お腹空いてる?」
「あっ、大丈夫だよ!おにぎり食べてきたから」
「じゃあ、どうしよう?ボーリング?それにしても久しぶりだね~碧ちゃん」
千晴とミウと白川で俺の前を歩き、話を弾ませながら行き先を決めていた。
まずはボーリングに行こうという話にまとまったようだ。
このあたりは、カラオケ、ボーリング(オッサンにはゴルフの打ちっぱなし有)、あとはスーパー銭湯、大きな公園ぐらいしか娯楽がない。
数ヶ月ぶりに会い、やっぱり好きだなぁとしみじみ思いながら、ガーター連発の白川に癒されていた。
だらだらゲームをしながら、近況報告に興じる。
2ゲーム目が終わるころ、「……顔ニヤついてるよ。怪しいからやめな」と千晴に言われ、速やかに顔を元に戻した。
こいつの忠告にはどきりとさせられる。
「で、どうすんのよ。告るなら三浦君とジュース買いに行くけど……早く決めてよね」
「せ、急かすなよ」
「アンタが頼んできたんでしょ。こっちにも都合があるのよ」
そりゃあそうか。千晴に協力を求めたのは俺の方だ。
でも、状況が変わってしまった。今、浅野はこっちに向かってるかもしれないし、すべては俺が招いた結果なんだけど……。
困惑する俺をしらっとした目で見ている千晴。
「じゃ、じゃあ、今から10分。10分したら戻ってきて」
鼓動が早鐘を打ち始め、汗がどっと噴き出してきた。
「……はーい。了解」
千晴は面倒くさそうにしつつも、ミウに声を掛けて立ち上がり、自販機へ行ってしまった。
「ボーリング、みんな上手だね~。私下手で……」
運動の苦手な白川は、ボーリングも苦手だろうに俺らに合わせてついてきてくれたんだよな。
いや、下手なのも可愛かったです……と思いながら、隣に座った。
心臓が口から飛び出るかもしれない。
ちらりと千晴たちの動向を確認すると、遠いところで俺らに背を向けて二人で楽しげに話している。
ミウは千晴にフラれたのにいい関係築いてるな……。
フラれても、あんな関係になれるもんなのかな?
俺が千晴たちを見ているのに気付いた白川が、にこにこと俺に話す。
「それにしても会えてよかったよね~。みんな全然変わってなくて、ホッとしたよ~」
う、可愛い。
ドキドキしながら足を組み、こほんと咳払いをする。
好きだって伝えなきゃ……。
彼氏いるの?
浅野とはどうなってる?
聞きたいこともあるけど、まずは、俺の気持ちを――。
駅前の駐車場に車を停めることにし、俺だけ先に降りて待ち合わせ場所に向かう。
千晴はもう駅に着いているらしいが、白川は少し遅れているらしい。
噴水前での待ち合わせ。この地域じゃ定番だ。
……千晴はまだいない。
ちょうど3時、噴水が派手に噴き上がり、鳩時計が出たり引っ込んだり。
それを見ながら、俺はしつこく良心の呵責に苛まれていた。
やっぱり浅野に黙って会うのはフェアじゃない。
それに、セフレ話もやはり捨て置けない。
俺はクリアな気持ちで白川に告白したい。
ずるい真似はしたくない。
スマホを取り出し、浅野に発信する。
何度かコール音がした後、「なにー?」のんきな声で浅野が出て、イラッとした。
「……お前、セフレいるらしいな?」
『え?何て?聞こえね』
俺の質問がよくわからなかったらしく、もう一度言わされる。
「セフレだよ!いるんだろ?」
『は?いねえよ。誰がセフレだよ』
目力Bだよ!
「名前はわかんねーけど、経済史の時間に会った奴らだよ」
すると、浅野もはっきりしない様子を醸し出す。
『あー、……セフレじゃねえけど、新歓コンパの後で、酔ってたからあんまり覚えてないし』
何かあったことは事実なんだな。このヤリ○ンが!
俺は、激しめの水飛沫が己に掛かっていることにも気付かずに、浅野に宣言する。
「俺は、今から白川と会うんだよ。好きだったって言うつもりだし」
『あー。言えばいんじゃね?』
何だと?
まだ意地を張り続ける浅野に、俺は周りに人がいることも忘れて全力で罵った。
「興味ないふりしてんじゃねえ、寒いわ!お前がまだ未練あることぐらいわかってんだよ!『浅野はセフレ作って楽しくやってる』って白川に言っといてやるわ!バラされたくなかったらすぐ来い!」
通り過ぎゆく女性数名が、スマホ片手に大声を出して騒ぐ俺を見、早足に去って行った。
完全に危ない輩だと思われている。
浅野は数十秒黙っていたが、重々しく聞いてきた。
『…………そこ、どこだよ』
「学園駅前だよ!来い!」
それを告げるとすぐに電話が切れた。
つい、呼びつけてしまったが……本当に来るのか?
ていうか、今……自分の首を思いっきり絞めた気がする。
そして、俺も浅野も振られたら、世にも寒々しい展開になる。
早まったかもしれない……。
ちょっと後悔しながらスマホの画面を呆然と見ていると、ぽんっと背中を叩かれた。
「涼太ー?変わってないねー。久しぶり~。何でシャツ濡れてんの?」
千晴だった。
「ああ、久しぶりだな。白川は……?」
「碧は急遽午前中バイト入ったらしくて、さっき上がって今向かってる途中だってー。三浦君は?」
「今、駅前駐車場に車停めてて……あ、来た」
ミウが後ろから爽やかな笑顔で走ってきて、「あれ?涼太、何で服濡れてんの?」と一言聞いてきた。
「東野君、久しぶりだね!なんか私服だとイメージ違うね!」
白川が遅れてやってきた。
かわいい。やっぱりすげーかわいい。
白いフワッとしたシャツに、フワッとした膝上スカート。
セーラー服からのフワフワ私服がグッときた。
それを見抜いたのか、千晴が俺をちらりと確認し、“いつ告んの?”という視線を送ってきた。
“まだです……”と視線を返すと、千晴が“さっさとしなさいよ”という目をする。
わかってます……。
でも、さっき浅野に盛大に宣言した手前、逆に身動きが取りづらくなってしまった。
オウンゴールのフラグが立っている気もしてきて焦る。
浅野がバイクで来るとしても、1時間半はかかる。電車ならもっとだ。
「ボーリングするー?何か食べるー?どうしよう。碧、お腹空いてる?」
「あっ、大丈夫だよ!おにぎり食べてきたから」
「じゃあ、どうしよう?ボーリング?それにしても久しぶりだね~碧ちゃん」
千晴とミウと白川で俺の前を歩き、話を弾ませながら行き先を決めていた。
まずはボーリングに行こうという話にまとまったようだ。
このあたりは、カラオケ、ボーリング(オッサンにはゴルフの打ちっぱなし有)、あとはスーパー銭湯、大きな公園ぐらいしか娯楽がない。
数ヶ月ぶりに会い、やっぱり好きだなぁとしみじみ思いながら、ガーター連発の白川に癒されていた。
だらだらゲームをしながら、近況報告に興じる。
2ゲーム目が終わるころ、「……顔ニヤついてるよ。怪しいからやめな」と千晴に言われ、速やかに顔を元に戻した。
こいつの忠告にはどきりとさせられる。
「で、どうすんのよ。告るなら三浦君とジュース買いに行くけど……早く決めてよね」
「せ、急かすなよ」
「アンタが頼んできたんでしょ。こっちにも都合があるのよ」
そりゃあそうか。千晴に協力を求めたのは俺の方だ。
でも、状況が変わってしまった。今、浅野はこっちに向かってるかもしれないし、すべては俺が招いた結果なんだけど……。
困惑する俺をしらっとした目で見ている千晴。
「じゃ、じゃあ、今から10分。10分したら戻ってきて」
鼓動が早鐘を打ち始め、汗がどっと噴き出してきた。
「……はーい。了解」
千晴は面倒くさそうにしつつも、ミウに声を掛けて立ち上がり、自販機へ行ってしまった。
「ボーリング、みんな上手だね~。私下手で……」
運動の苦手な白川は、ボーリングも苦手だろうに俺らに合わせてついてきてくれたんだよな。
いや、下手なのも可愛かったです……と思いながら、隣に座った。
心臓が口から飛び出るかもしれない。
ちらりと千晴たちの動向を確認すると、遠いところで俺らに背を向けて二人で楽しげに話している。
ミウは千晴にフラれたのにいい関係築いてるな……。
フラれても、あんな関係になれるもんなのかな?
俺が千晴たちを見ているのに気付いた白川が、にこにこと俺に話す。
「それにしても会えてよかったよね~。みんな全然変わってなくて、ホッとしたよ~」
う、可愛い。
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