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回想 挑戦そして師弟
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「分かりました。では次はその稽古でお願いします」
木洩れ日を顔に浴びながら彼女は俺の申し出をすんなりと了承する。
次は反対にこちらが彼女の木刀を撃つ。
遠慮は、しない。元から出来ない。稽古の最中の俺はずっと本気だった。
本気で木刀を飛ばされないようにしてきた。
木刀の角度を変え重心を変化させ痛いぐらい柄を握っても駄目だった。
何度も飛ばされ落され崩され続け、その度に自分自身の自信が揺らいだ。
いや、そんなものはもともと無かったのかもしれない。
何者かであるかもしれないし、そういうものになれるかもしれない、といった自身への期待はただの妄想で勘違いであったのかもと疑念さえ生まれて来ている。
だからそれを覆し証明しないといけない。
逆に彼女の木刀を飛ばすことはできなくても落とすことが出来たら、いや崩すことが出来たら、いいやもっと現実的に、互角でありさえすれば、俺は自分を取り戻せる。
戦士であることに大人であることに男であることに。可能性があるということだ。
だからここは正念場だ。帰郷するにしてもどこへ行くにしてもこのままだと済まされない。
任務にしくじり醜態を晒しそのあげくに年下の女の子に一方的にやられて帰るとか、その先の俺にはどんな未来があるのか?
わからない。その先はまるで見えないもロクでもない、さらに惨めでロクでもない未来が待っているはずだ。
そこには進みたくはない。俺は英雄になるために村から出たんだ。
だからあの世界を捨てたんだ。
それなのにこんな結末は受け入れたくはない。
もっと惨めな気分となって帰るとか、嫌だ。
せめて違う結末を、こうではない終わりを求める。それが俺のせめてもの残された一片の矜持なんだ。
俺は、構えた。いいや違う、待つんじゃない。こちらが進むんだ。
受け手の彼女は既に構えていてその剣先にその身を隠している。
相変わらず俺は彼女の顔を見ることができていない。
距離感が狂う。そのためのものだが、本当に長く感じる。自分の未来の如く見えない。
だが良い。要はこの木刀を撃ち飛ばせばいいんだ。
飛ばし落とし崩したら中に踏み込む。
その先の未来へと進む。
木刀に力が宿る心地がする。全力がここに籠りだし本気の一撃が可能だと感じる。
呼吸を整え、その一番力が出るそのタイミングを取りながら距離を図り少しずつ詰め、いまだ!
思うより先に俺の木刀は最速に動きだし、軽い衝撃と共に宙へと回転した。
いつものように俺の手には剣は無く、首元には彼女の木刀の切っ先が当たる。
いつもの、いつまでも変わらぬ冷酷なその感触。
木刀が引かれると俺はいつものように背を向け落ちていた木刀の元へと向かい拾い、それから彼女の前に立った。
俺はいま試練のその先に立っている。
その間の俺は無心のままであり向き合い目に入るのは翠色の瞳。
俺を見上げている。そこには感動がなく、無に満ちていた。
どうしてそんな瞳の色でありそして表情が無いのだろう。
そう思うのなら、では俺は? 自分の瞳の色は? 表情は? 自分の心は?
その疑問のなか俺たち二人の静けさの間に風が流れ、言いようのない心地よさを感じ、いまの気持ちをそのまま彼女に告げた。
「あの、いいかな」
「はい」
目が合った。翠色が光を放つ。
「俺に剣を教えてくれないか?」
「いいですよ」
彼女は答え俺は頭を下げそれから言った。
「ありがとう。でも考えてみると今までずっと教わっていたようなものか」
「そうですね」
俺が苦笑いすると彼女もまた笑った。
「気づかれて結構なことで」
「そうかそうか、これはまた気づくのが遅かったな」
「いいえ、気づくのに遅いなんてことはありませんよ。もっともあなたは気付くのが遅そうですから、この先かなり苦労するでしょうね。現にいまだってそうですし」
こうして俺達の師弟関係が始まった。
木洩れ日を顔に浴びながら彼女は俺の申し出をすんなりと了承する。
次は反対にこちらが彼女の木刀を撃つ。
遠慮は、しない。元から出来ない。稽古の最中の俺はずっと本気だった。
本気で木刀を飛ばされないようにしてきた。
木刀の角度を変え重心を変化させ痛いぐらい柄を握っても駄目だった。
何度も飛ばされ落され崩され続け、その度に自分自身の自信が揺らいだ。
いや、そんなものはもともと無かったのかもしれない。
何者かであるかもしれないし、そういうものになれるかもしれない、といった自身への期待はただの妄想で勘違いであったのかもと疑念さえ生まれて来ている。
だからそれを覆し証明しないといけない。
逆に彼女の木刀を飛ばすことはできなくても落とすことが出来たら、いや崩すことが出来たら、いいやもっと現実的に、互角でありさえすれば、俺は自分を取り戻せる。
戦士であることに大人であることに男であることに。可能性があるということだ。
だからここは正念場だ。帰郷するにしてもどこへ行くにしてもこのままだと済まされない。
任務にしくじり醜態を晒しそのあげくに年下の女の子に一方的にやられて帰るとか、その先の俺にはどんな未来があるのか?
わからない。その先はまるで見えないもロクでもない、さらに惨めでロクでもない未来が待っているはずだ。
そこには進みたくはない。俺は英雄になるために村から出たんだ。
だからあの世界を捨てたんだ。
それなのにこんな結末は受け入れたくはない。
もっと惨めな気分となって帰るとか、嫌だ。
せめて違う結末を、こうではない終わりを求める。それが俺のせめてもの残された一片の矜持なんだ。
俺は、構えた。いいや違う、待つんじゃない。こちらが進むんだ。
受け手の彼女は既に構えていてその剣先にその身を隠している。
相変わらず俺は彼女の顔を見ることができていない。
距離感が狂う。そのためのものだが、本当に長く感じる。自分の未来の如く見えない。
だが良い。要はこの木刀を撃ち飛ばせばいいんだ。
飛ばし落とし崩したら中に踏み込む。
その先の未来へと進む。
木刀に力が宿る心地がする。全力がここに籠りだし本気の一撃が可能だと感じる。
呼吸を整え、その一番力が出るそのタイミングを取りながら距離を図り少しずつ詰め、いまだ!
思うより先に俺の木刀は最速に動きだし、軽い衝撃と共に宙へと回転した。
いつものように俺の手には剣は無く、首元には彼女の木刀の切っ先が当たる。
いつもの、いつまでも変わらぬ冷酷なその感触。
木刀が引かれると俺はいつものように背を向け落ちていた木刀の元へと向かい拾い、それから彼女の前に立った。
俺はいま試練のその先に立っている。
その間の俺は無心のままであり向き合い目に入るのは翠色の瞳。
俺を見上げている。そこには感動がなく、無に満ちていた。
どうしてそんな瞳の色でありそして表情が無いのだろう。
そう思うのなら、では俺は? 自分の瞳の色は? 表情は? 自分の心は?
その疑問のなか俺たち二人の静けさの間に風が流れ、言いようのない心地よさを感じ、いまの気持ちをそのまま彼女に告げた。
「あの、いいかな」
「はい」
目が合った。翠色が光を放つ。
「俺に剣を教えてくれないか?」
「いいですよ」
彼女は答え俺は頭を下げそれから言った。
「ありがとう。でも考えてみると今までずっと教わっていたようなものか」
「そうですね」
俺が苦笑いすると彼女もまた笑った。
「気づかれて結構なことで」
「そうかそうか、これはまた気づくのが遅かったな」
「いいえ、気づくのに遅いなんてことはありませんよ。もっともあなたは気付くのが遅そうですから、この先かなり苦労するでしょうね。現にいまだってそうですし」
こうして俺達の師弟関係が始まった。
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