わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

かみやなおあき

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牢の中のメシア (アカイ5)

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 俺が牢屋に入ったいきさつはこういうこと。

 裸であることを指摘され呆然としているとお爺さんはふたたび叫んだ。
「君ちょっとついてきなさい!」
 お巡りさんにしょっぴかれるような強めな誘いを受けたために俺はお爺さんの馬車へと乗った。考えてみると断る理由もないしね。町に行くみたいだし馬車で移動するのならそれに越したことはない。

 おまけに裸だし・これ以上のストリーキングをするのはよろしくはないだろう。俺にはそんな趣味はないし美しい身体だとは思ってもなくこちとら弁えているんだ。

「ありがとう、感謝するよ」
「うっうん」
 あまり関わりたくないよう反応であり、お婆さんの方は俺に視線すら当てはしない。当然だなと俺は思う。裸の中年男には可能な限り関わりたくはない。誰だってそうで俺だってそうだ。街中に居たら見えていない振りして遠ざかるさ。だからこのお爺さんは良い人だと俺にはすぐわかった。

 それにしても着物っぽい服を着ているな。けど髪形は時代劇みたいには結ったりしていない。だからどうもチグハグな印象すら抱いてしまう。身体は日本で頭が外国みたいな感じといったところか。まぁ言葉は通じるようだからなそこは良かった。俺は英語はまるでできず成績は万年2で何もわからないも当然だったからな。1は不登校の奴らで占められていたから自動的に2ってことさ。

 それにしても、と俺は内心嘆息した。あの『おおいなるもの』は俺を裸一貫でこの世界に落としたという事実。全く以て信じられない。俺だからいいものの他の奴らだったら耐えられぬ恥辱であったかもしれないのに。

「酷い奴だ。裸で放り出すだなんて」
「そっそうだな、うん」
 俺の独り言に対してお爺さんは相槌を打ってくれた。ますます良い人だ。これから偉くなる俺に対して親切できて良かったな。本当に良かったなお爺さん。ここだけの話、俺はメシアなんだぜ?

「ぐふふふ」
 俺が含み笑いを漏らすと馬車内に緊張が走り、お爺さんの顔が引きつった。恐がらせてしまったかすまない。でも言えないんだ。俺がメシアだってことをな……徐々に近づいてくる町は打って変わってウェスタンな感じで乾いた香りが漂ってきている。何だろうこの世界観は? 修羅の国とはこういうことなのかな?

 疎らな人だかりを割きながら馬車はそのまま先へ奥へと入ってきて交番へそれから俺は牢屋に入った。

 途中で鏡があり期待しながら顔を確認したが特に変わりはなかった。下の中あたりの俺の歪んだ顔。若干醒めたが、まぁいい。男の価値はそこじゃない。なにをしたかだ。いまの俺は何もしていないからこんな顔であってつまりは本当の俺じゃないんだ。


「どうやらこの世界は裸が罪だから俺は捕まったというわけか」
「いや裸が罪というよりかは怪しいから捕まったわけであってな」
 取り調べに現れた着物姿の男がそう言った。

 短髪で厳つめな瓦みたいな男だが肌を見て年下っぽいから俺はリラックスした。優位だからな。そう男同士なら年上は年下に対して、偉い。何があっても偉い。無条件に偉い。これは俺が自信を持っている数少ない真理なのである。この上下関係が崩れたら天下秩序が滅んじゃうだから従え!

 年下ならちゃんと自分の年齢を弁えろ! 俺はいつだって弁えているんだからな! だいだいなぁ年上相手なら己の不明さを年齢を盾にして言い訳に出来るが年下だとそうはいかない。年下相手は言い訳不能で自分の未熟さと幼稚さを剥き出しのまま見せつけられる感じがしてとても傷つく。これは俺だけじゃなくてみんなもそう思っているからね? 言い訳させてくれないってだけでその罪は重いんだよ!

 それはそうとそうか俺は怪しいか、と自分の言葉に笑いながら頷いた。
「なにがおかしい?」
「いや怪しいと言われて笑ったんだ。そうか怪しいか」
 昔からよくこんなことを言われたなと学生の頃を思い出す。

 怪しい・怖い。これが俺という存在の短評かつ適評でもあった。恐いから怪しいのか、怪しいから怖いのか、はたまた怪しくて怖いなだけか。どれも同じか。なにを考えているのか分からない不気味な奴。名前よりもしっくりくるなんか怖いなんか怪しいという呼び方。
 
 ある意味、二つ名。
 
 席替えで隣に座った女子の嫌がりかたを思い出すと胸が痛んだ。なんかジロジロ見て来てきもちわるーい! もうあの席やだー! 記憶の底から甦るあの女子の声。俺はただ仲良くなりたい嫌われたくないと思っていただけなのに。ああそれはまるで己の醜さに苦悩するモンスターのようで……

「まぁ裸で陽気になって狂喜乱舞に走っていたらそれは怪しいもので」
「裸になったらこの際開き直って解放感一杯になったほうが楽しいかと思って」
 えっ! と取り調べの男は驚いたが俺は続けた。勢いで行け、いつも通り開き直るのだ。

「俺がやだ恥ずかしいともじもじと股間を隠しながらとぼとぼ歩いている方が卑猥でないか? 動物はそういうことをしない。服が無くなったら人は動物と同じだし。そもそも俺は身ぐるみを剥がされてあの野原に捨てられたんだ。なにも悪いこともしていないしやましいところなんてないし」
「まっまぁそうだろうがしかしその」
「だから俺はやましいところは、ない。犯罪者でもなければ露出狂でもない。いつの間にか裸にされた被害者だ。こちらでは被害者を加害者だとして牢屋にぶちこむのか?」
「うーむ、そのだな。身分の証明は……できないな」

 そう、できない。なにも身に着けずなにも持ち合わせてはいないこの俺。ちょっと待てよ? これの方が実は便利なのでは?なまじっか変なものを持っていて疑われるよりかは産まれたままのように素寒貧のほうが都合のいい話に持って行けるわけで。

「肌はきれいだな。刺青といった刑罰の痕もなく前科は、無し。名前はアカイキリヒトであったが出身は山のずっと向うのナザレと申したが、何用あってここまで?」
「お参りに向かっている途中だったな」
「お参りか、なるほど」

 そう酒を買いに近所のコンビニまで行くお参り。あそこのコンビニの隣にはお地蔵さまがあるしね。俺はそこを通るたびに頭をちょっとだけ下げている。振り返りもしないし夜も極力通らないようにするぐらいには敬していたわけよ。でも階段で事故ってしまった。別にそのことは俺は気にしていないけどお地蔵さんの方は気にした方が良いと思うよ。人が死んだんだしさ。

「行く途中で突然意識を失ってね。気が付いたら草原を転がってな。あとは知っての通りだ」
「そう、なるな。うん、そうだ。それしかないな。被害の報告とか届いていないし、あいわかった解放しよう。なにか聴きたいことはあるか? 捜査のこととか」

 それなら、と俺はさっきのお爺さんとお婆さんとの面談を希望した。会ったのは縁だからね、縁。何か俺の使命について知っているかもしれない。
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