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俺の嫁の悲鳴 (アカイ7)

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 親切なお爺さんによって俺は服と靴にお金を借りることができた。がまぐち的な財布ごと借りられとても助かった。王子に会ったら返してくれともお願いされる。

「服は大きめなものだがあんたにはちょうどいいサイズだな」
 馬車のお爺さんたちはどうやら貴族の関係者らしくこの服はとてもいいものらしい。お婆さんの方は非協力的どころかお爺さんに対して文句を言いっぱなしだ。

「もう使わなくなったお古とはいえこんなの渡しちゃ駄目だよあんた。もしこんなことがバレてごらん。お役御免となっちゃうよ」
 いくら訴えてもお爺さんは大丈夫大丈夫を繰り返すだけで仕舞いにはお婆さんは睨み付けることしかできなくなった。俺に対してもガンをつけて来る。

「なにからなにまでありがとう。お礼は必ずする。それとあんたはとても目が良いし幸運な男だぜ」
 なんたってあんたはメシアの恩人になれたんだからな……ハハッ。

「アハハハハッ!」
 また笑いだすとお爺さんは小声の早口でお経みたいなもの言いながら先に逃げ出しているお婆さんの後を追って馬車に乗り遠ざかっていった。いけないいけない。突然の高笑いは危ない奴に見えてしまうな反省反省と俺は気を取り直して街へと向かった。

 俺は救世主でありこの世の中を救う存在。世界の滅びに立ち向かうもの。そこを自分に言い利かせないといけない。いきなり笑いだしたり独り言を言いだしては、いけない。決心を改め、いざ! 足を踏み入れたそこは田舎の街であるが活気があるなと俺は思った。
 
 それどころかお祭りのように男達があちこち動き回っているしかも見た目がちょっといかつい男達。いわゆるヤンキーでチンピラあるいはヤカラといった連中だ。学校にいたころはこういうやつらが怖かったなぁ。イキリとイカクだけのために生きているような連中。いわゆるマジでヤンキーがモテる。

 なにか事件が……こういう時は、と俺は門の傍に立っている人のよさそうなおじさんに声を掛けた。基本に忠実に、と心中でRPGゲームを思い出し笑いながら尋ねる。

「あっすみません。なにか事件でもあったの?」
「……あん? 事件ってあんたもそれ目当てできたんだろ?」
 ちょっと会話が難しいなと思いつつ俺は話に乗ることにした。

「そうなんだけど、詳細を教えてもらいたいんだ。噂だけしか聞いていないもので」
「妙な奴だな。何も知らないでここに来るとかあるんか? まぁいいや、あれだよあれ、王族を暗殺しかけた女がこの町にいるかもしれないんだよ。すごい賞金もかけられたおかげで町中の男達が浮足立つし、変な男達も集まって殺気立ってるしいい迷惑だよほんとうに」

 不機嫌そうに愚痴る男を無視して俺はしばし頭の中が真っ白となり意識が遠ざかりだすなか両の拳を力強く握った。
「これだ!」
 俺は叫んでいた。
「はい?」
 男の問いを無視し俺は町の中心へと駆けだし勢いのなかようやく思考が回転しだす。

 つまりその女こそが俺の運命の人なんだ! よって全てが分かる。俺、わかっちゃった! つぎからつぎへと直感が湧きだし全身の筋肉が躍動するのを感じながら思考は更に高速回転し続ける。つまりその女は世界の危機に関わるなにかのために悪の組織から賞金を掛けられ追われている。世界の危機の鍵を持っているかあるいは知っているか、どちらにせよすなわち世界の滅びについての関係者、とにかくなんでもいい! 肝心なのは世界の危機ってこと! メシアに対応するなにかであれば俺にとってはそれが全て。大事なことはその女はゴロツキ達に追われ助けを求めているのだ。助けを求める相手はすなわち、この世を救うために転生したもの。

「この俺だあああああああ!」
 道の真ん中で俺は咆えながらジャンプし、周りにいた人々が一斉に距離を取りだし遠ざかる。その発生した人垣のなか俺の正面には逃げ遅れ棒立ちしている女がいた。

「あっすみませんおばさん! 怪しい人を見かけませんでしたか」
 いまここで私の目の前にいるんだけど……と尋ねられた女は思ったものの怖くて言葉が出ず、その震える手で遠くを指差した。早く私の前から去ってもっと言えば町から出ていっておくれ、という意味で。

「あっちですか! ありがとうございます」
 俺が指差す方向へ走り出すと人垣が割れた。早くこの危なそうな男を外に出さないといけない、そんな集合知が働いたかによって生まれた道を走り進む彼は恍惚感を覚えていた。

「俺は……確かに導かれている」

 追い出されているのである。拒絶され迫害されているだけなのである。しかしそんなことは露知らずぐんぐん走りアカイは道を抜け草原に入ると、声がしたような気がした。

 悲鳴が聞こえる? それは俺にとっての無関係な声であるはずがない。そうだこれはただの女の悲鳴ではない。

「俺の嫁の悲鳴だ!」
 ああ俺はどこまでも導かれている! アカイは駆け出すもそれはもはや跳ねているといってよく、もっと正確にいえば飛んでいた。無意識のなか不思議な力で宙に浮かび飛んでいる。だがアカイはそれに驚かずむしろ当然だと思いながら声の方向へと飛んで行くと、見えた!
 
男に組み伏せられている女の姿が、だからアカイは叫びそれから降下する。
「やめろー悪党!」
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