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濃霧の中の忍者 (シノブ30)
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必要以上に触らないでとシノブは思いながら身体を反転させ肩から手を離させた。待てよ、こいつに触れられないといけない必要な時ってほぼ無いよね。よって触るな。けれどもどうしてもという時に限って触れても良いが基本触れるな近寄るな。
しかし疲れたな、とシノブは思った。歩き続けてからしばらく経ちもう山の中腹よりも上に来ているはず。順調な程に順調だ。いまのところトラブルは何も起きてはおらず起こる気配もない。
「油断は禁物です」
独り言のように言うとシノブは自らの言葉にうなずく。何かが起こるに決まっている。ここで起こらなければ呪山などという名は付かない。誰もが利用する。そして帰山者もたくさんいるはず。起こってしまうからこそ帰山者の数が極めて少なく、足を踏み入れてはならない場所となっているのだ。神聖ささえ感じるこの静けさもまたこちらの油断を誘うものだろう。鳥の鳴き声すらしない山など死の世界そのものだ。
「でも……ひとまず休みましょう」
そう言うと待っていたとばかりにアカイは敷物を山の緩やかな傾斜の上に敷きシノブが座るのを待っていた。先に座ればいいものを、あともうちょっと大きめに広げて使えば良いのにと思いつつ自ら広げ直しそれから座り、その隣にアカイが続いて座った。
近いなぁ、とシノブは感じた。あれだな若い女の席の隣に座りたがる変な男の動きと同じく、この人は本当になんというか私の傍に寄りたがると呆れて寒々しい気持ちでいるとアカイが話しかけてきた。休みたいのだがな、と思いつつもシノブはその気持ちを押し殺した。
この男の前ではあまり疲れたとか辛いとかそういった弱音を吐いてはならない。弱味も本音も打ち明けてはならない! そこを付込まれるのだ。そうだ自分よ心を弱らせてはならない。女が心を弱らせると隙間が発生しそこに男が入り込んでくるのだと。いつだって対決姿勢でないとならない。これは毎度毎度自らに言い聞かせねばならない呪文みたいなものだ。
「まだ何も起こらないけれど、いったいなにが起こるとか知っているの? 噂があるのならここでひとつ教えてもらいたいな」
そういえばこの男はそこは何も聞いてこなかったな、とシノブは思い出した。なんでこう出たとこ勝負で無謀で無思考なんだろう。今までの人生もなんにも考えずに生きてきたことが丸分かり。まぁ次期王妃となるこの私を嫁にしたいと言うぐらいだから無謀帝国の末期的皇帝みたいな男ではあるなと納得しながら答えた。そうであるからこそ都合よく扱えるわけだ。
「詳細は不明ですね。というのも登山者が山から下りてこない率が高すぎるから呪山と呼ばれていまして。かつて大規模な捜索が行われた際に発見したのが崖下の大量の死体。これであったようで。足を滑らせたかまたは獣に襲われたか。だが凶暴な獣がいるという情報もまたなく、あるのは霧だけだとか」
「霧が発生? だとしたら滑落事故といったものなんじゃ」
「普通なら霧が発生したら危険なので動かないものです。晴れるのを待ってから進む、または引き返す。無理に前に進むのは有り得ないことで……うん、これは?」
シノブがそう語るうちに微かに辺り一面に靄が掛かってくるように思われた。だんだんとそしてすぐさま辺り一面は白みがかりまるで生き物のようにあたりが一色に満ちていく。
「噂の、霧か。アカイ、動かないように」
話す間もなく見る見るうちにあたりは何も見えないようになっていき、シノブの声も霧の中へと消失していく。その霧の中でなにか獣じみた笑い声がこの山で初めて鳴った。
しかし疲れたな、とシノブは思った。歩き続けてからしばらく経ちもう山の中腹よりも上に来ているはず。順調な程に順調だ。いまのところトラブルは何も起きてはおらず起こる気配もない。
「油断は禁物です」
独り言のように言うとシノブは自らの言葉にうなずく。何かが起こるに決まっている。ここで起こらなければ呪山などという名は付かない。誰もが利用する。そして帰山者もたくさんいるはず。起こってしまうからこそ帰山者の数が極めて少なく、足を踏み入れてはならない場所となっているのだ。神聖ささえ感じるこの静けさもまたこちらの油断を誘うものだろう。鳥の鳴き声すらしない山など死の世界そのものだ。
「でも……ひとまず休みましょう」
そう言うと待っていたとばかりにアカイは敷物を山の緩やかな傾斜の上に敷きシノブが座るのを待っていた。先に座ればいいものを、あともうちょっと大きめに広げて使えば良いのにと思いつつ自ら広げ直しそれから座り、その隣にアカイが続いて座った。
近いなぁ、とシノブは感じた。あれだな若い女の席の隣に座りたがる変な男の動きと同じく、この人は本当になんというか私の傍に寄りたがると呆れて寒々しい気持ちでいるとアカイが話しかけてきた。休みたいのだがな、と思いつつもシノブはその気持ちを押し殺した。
この男の前ではあまり疲れたとか辛いとかそういった弱音を吐いてはならない。弱味も本音も打ち明けてはならない! そこを付込まれるのだ。そうだ自分よ心を弱らせてはならない。女が心を弱らせると隙間が発生しそこに男が入り込んでくるのだと。いつだって対決姿勢でないとならない。これは毎度毎度自らに言い聞かせねばならない呪文みたいなものだ。
「まだ何も起こらないけれど、いったいなにが起こるとか知っているの? 噂があるのならここでひとつ教えてもらいたいな」
そういえばこの男はそこは何も聞いてこなかったな、とシノブは思い出した。なんでこう出たとこ勝負で無謀で無思考なんだろう。今までの人生もなんにも考えずに生きてきたことが丸分かり。まぁ次期王妃となるこの私を嫁にしたいと言うぐらいだから無謀帝国の末期的皇帝みたいな男ではあるなと納得しながら答えた。そうであるからこそ都合よく扱えるわけだ。
「詳細は不明ですね。というのも登山者が山から下りてこない率が高すぎるから呪山と呼ばれていまして。かつて大規模な捜索が行われた際に発見したのが崖下の大量の死体。これであったようで。足を滑らせたかまたは獣に襲われたか。だが凶暴な獣がいるという情報もまたなく、あるのは霧だけだとか」
「霧が発生? だとしたら滑落事故といったものなんじゃ」
「普通なら霧が発生したら危険なので動かないものです。晴れるのを待ってから進む、または引き返す。無理に前に進むのは有り得ないことで……うん、これは?」
シノブがそう語るうちに微かに辺り一面に靄が掛かってくるように思われた。だんだんとそしてすぐさま辺り一面は白みがかりまるで生き物のようにあたりが一色に満ちていく。
「噂の、霧か。アカイ、動かないように」
話す間もなく見る見るうちにあたりは何も見えないようになっていき、シノブの声も霧の中へと消失していく。その霧の中でなにか獣じみた笑い声がこの山で初めて鳴った。
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