わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

かみやなおあき

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俺の愛の告白は不幸を招く (アカイ16)

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「なるほど。あれは幻覚を見せて来る魔物か悪霊の類であったのか。それなら良かった」

 山の峠を越え下り坂に入りながら俺は本当に良かったと息を吐いた。あれは最低最悪であったと思い出すだけでも身震いしてしまう。自分の燃え盛る愛の決意の表明に怯えた女が恐怖に駆られ逃げ出しその結果滑落死……この世の終わりにもほどがある! 告白したら相手が自決してしまったら残されし男はどうすればいい? えっ? 死ねばいいじゃんって気軽にいってくれるなぁ。
 
 思うに俺の愛の告白は不幸しか招いていないのでは? まるで滅びを招く愛だがひょっとして呪い? それって世界を愛したら滅びちゃうのでは? 俺って救世主なのにどうして? これってむしろこれは魔王寄りなのでは? 前世の世界の滅びを願っているから……まぁまぁ気にしない。偶然だ、それよりもこれが本物でなくて良かった。本当にそれで良かった。シノブが生きてこうして隣にいて一緒に道を歩く、これに勝る幸いもないだろう。

「それでアカイはどんな幻覚を見せられたの?」
 シノブが尋ねてきたので俺はその場で飛び跳ねてしまった。あのことを話していいのかな? つまり君が僕に告白してきたのだけど僕は断り逆に自分の愛の大きさを表明したら怖がって逃げ出して、死んだ……言えない。

「いっいや、言えない」
「……言いなさいよ」
 シノブの冷たく怒気が籠った声に俺の額から脂汗が滲み出た。恐いので目を合わせられないがきっと危険な瞳の色をしているに決まっている。俺はそういうのには詳しいんだ。目の色が変わるってよくあることなんだ。当人だけは気付けないことなんだ。
 
 しかしなんで怒っているのか? どうして聞きたがるのか? 捜査か? 事件性があるとでも余罪の追及か? 俺の罪とは何ぞや? 俺は困惑する。これはもしも本当のことを言ったら……嫌がるだろうなと俺でも分かった。

「まっまぁいいじゃないか。無事に解決したんだから」
「よくない。これはこの先の旅のため、話した方がいい」
 譲らぬ決意に溢れる低めな声に引っ張られたように顔を向けると、透き通った瞳の奥から輝きを放つ鋭き眼差しのシノブがいた。恐さと同時に美しさと俺は感じるしかなかった。またこれは怖いだけだと心が持ちこたえられないから美も同時に感じているのかもしれない。どっちみち美女だから良いんだがね。嗚呼これが俺の嫁候補とは、なんて素晴らしい世界、転生。だからこそ、俺に怯えて逃げたとかいう話なんてしたくない! これ以上嫌われたら俺は捨てられてしまうじゃないか!

「こう、なんというか、偽シノブがあること無いこと言ってきたから反論したら逃げ出して崖から落ちて」
「全然説明になっていないんだけど。その内容が大事なんだから、話してよ」
 肝が冷えると同時にシノブの顔が近づいてきたので俺の心はときめいてしまう。美人で可愛い。良い匂いも近づいてきた。気持ちいいこの思いは何だろう? こんな追求されて怖いのに。あれかな? 脳が危険を察して快楽物資を放出しているのかな? 痛みが気持ち良さに変わる人体の不思議な構造ってやつで。それが出なかったら俺は痛みと苦しみで死んじゃのかな? 

「あっあることないことというか、まずね、その、君にそっくりだったけど違った。そこは分かった」
「すぐに分かった? 本当に? あなたが?」
 見破られている! と俺は睨むシノブの迫力に負けそうになるも堪えながら続ける。

「いや、そこは分かったんだよ。だってその偽者は俺の手を握ったんだよ」
「ええ!!」
 目を丸くして驚き顔となったシノブを見ながら俺は可愛いなと思いつつも脳は鈍い回転ながらも気持ち全開の最速で以って回りだす。次はどうする? 次は偽者はなんと言ったにする? 結婚してくださいと? 付き合ってください? と駄目だ駄目! 手を握った話の時点でこのドン引きな反応! 正直に好きですお慕い申し上げますお付き合いくださいと言われたとか言ってみろ! 相手に強く意識させて更に避けられるし最悪あんた来た道を戻ってこの山から下りろと言われてしまう。

 はぁ? 付き合って? それってアカイの願望ですよね? そうかあの魔物はその対象の妄想を読み取って変化の術を使うのでしょう。つまりそれはあなたが夜な夜な繰り広げている汚らしい妄想の産物。信じられない……いい加減にしないと警察呼びますよ、というか少し前に呼んでいてもう来ますから捜査に御協力をお願いしますよ、こうなってしまう! ならば、ここは事実をねじ曲げて……こうする! 真実よりも大切なことがあるんだよ!

「そっそれで偽者はこう言ったんだ。アカイいつもありがとうって」
 沈黙が、きた。シノブは黙っていながらもなにか音を出している。浜辺で聞く遠くから近づいてくる波の音色のように、静かな怒りがやってきているように。

「……なんでそれで偽者判定なんですか? 私だって感謝なんていつも言っていますよ。失礼ですね」
 いや、そんなに言っていない。いつもは、ない。たまにあるぐらい。俺はそこには詳しいんだ。人の挨拶にはうるさい質なんでね。だって俺への貴重な評価はいつも気にしてしまうし。たぶんシノブが言ういつもとは小声での「どうも」「はい」といったとりあえず言いましたといったお義理での言葉だと思うが、あれは俺の中では感謝にあまり含まれないなと思うが言い返すのはやめた。ここに拘ると見解の相違という不毛の荒野だしシノブが眉間に皺が寄せ睨んでいるからである。こんな威嚇的な表情なのに美人は美人だなと俺は再確認する。

「あっああそうだね、ごめん。いや、その声の感じとかがいつもと違っているからで別に感謝の有無がどうというかでなくて」
「まぁどうでもいいのですけど、それでその先は?」
 どうでもいいようには見えなかったが、と俺は思いながらも返した。

「そこでまぁ俺は君はシノブなのかと言い返していたら、その逃げ出してそのまま」
「そこで逃げるっておかしくないですか? 説明が下手なのか隠しているのかそれともその両方か」
 ごもっとも、と俺は背筋に冷や汗が流れる気持ち悪さを感じながら言った。

「正体がバレたと思って慌てたんじゃないかな」
「うーんその可能性は否定はできませんけど、まぁ魔物がなにを考えているかなんて結局わかりませんが」
 口に手を当てモヤモヤしやがらも納得しようとしているのを見ながら俺は聞いた。

「ええっと。君の方に出てきた俺はどんなのだったの?」
 シノブは、固まった。
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