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寝ない忍者 (シノブ35)
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そうだ先手必殺。湯につかるシノブはいい気分で夢心地の中で思った。予防としての暗殺。それでこそ私なのでは……そうかもしれないとシノブは目を見開き、すぐに閉じた。
それは駄目だ、やるにしても正当防衛という形にしないと、いやでもリスクが高すぎる。失敗したら逆襲で人生が終わる……でもアカイの命よりも私の身の方が王子にとっても世界にとっても大切なものだし。アカイも私のためなら死んでくれると思うんだよね。だって君のためなら死ねるとか思っているでしょ? だったら私に討たれて死ぬことも受け入れるべきで。
「奥様? ずいぶんな長湯でございますがどうかなされましたか?」
えっ! と女将の声が聞こえシノブは立ち上がると頭がふらついた。しまった……またやってしまった危ない。昔から長考癖があってのぼせることが多いんだよね。よし逃げようとシノブは湯から出て服を着てふらつきながら部屋へと戻ろうとするも、鍵がない。そうだあいつが持っている。たしか奴は食堂にいて、と火照る頭のままそちらへ向かうと、はたして、いた。
「あっシノブこっちこっちだよ。ほら君の分をこれから注文するから」
待っていたのか、とシノブは呆れた。別に料理は冷めていてもこちらは構わないのにこれから注文するとはどうしてなのか? そうなると自然にこいつと食卓を長く囲むこととなるなと思っていたら、なんとアカイはまだ料理に手を付けていなかった。
「とりあえず先に注文してね。君と一緒に食べたくて」
こいつは一緒に食べることに異様に拘るなとシノブは苦々しく思った。なんでだろう? 一緒に食べると好意を抱かれるとでも思っているのか? そんなことないからそんなことないから、さきに食べていてくれたらどれだけ楽だったか。やがて料理が運ばれてきた。軽い夕飯であるがそれで十分なのである。
「それだけでいいの?」
「はい、もう夜だしこれから寝るだけですし」
そうそれだけでいい。もう夜だしもうこのあとは……寝る?
「いえいえちがいます。ちがいます! あっそうだ。もう少しだけ料理を頼みます」
シノブは我に返り追加の注文をする。寝るんじゃないんだよ私は。寝ないんだよ! とシノブは内心怒りながら出てきた練りものやら野菜やらを食べる。無意識に寝るという単語をアカイに向かって言ったことに対し我ながら腹を立てた。シノブはやつの表情を窺うもアカイは特に何も変化はない。よかった鈍感で! 意味深なものと受け取らずまた同意の言葉と勘違いせずに。
それにしても、とシノブは抜かったわ! とも怒ってもいた。眠り薬を忘れたのだ。まさかまだ食べていなかったとは思わず部屋の中に置きっぱなし。遅効性のを使えば同室でも安心して眠れたのに! なにを焦っているだとこんなことに気付かない己の愚かさへの腹立ちと後悔に苛まれながら食べ終わると一緒に部屋へと戻った。
同じ部屋に戻る……シノブの身体は緊張感で満ち髪の毛が逆立つのを堪えているようであった。こいつがもしも肩に手を当てたり身体に触れたら、殺そう。タッチアンドゴーでデスマッチ。それが死闘の合図だ。どこまでやれるか分からないがこの懐のクナイで腹を集中的に狙う。ほって掘って掘りまくれ。死を掘り当てるのだ。
正当防衛正当防衛お巡りさんどうかお聞きくださいと唱えながら歩き扉を開け中に入る。アカイが鍵を掛けその音が部屋に響いた。何かの宣告のように耳の奥へと入り込み鼓膜を叩く。突き破りそうなほどの鈍い力で以って。無言のままシノブはダブルベットまで歩くとその真ん中に荷物を置いた。
「壁を、つくります」
アカイが何か言っているが、聞かない。反対しているのだろう、だから、聞かない。鞄を置き部屋の小箪笥を置きとりあえずありとあらゆるものを置くと一つの壁が出来上がった。一跨ぎで乗り越えられる頼りのない壁。まるで自分たちの信頼関係にも似た貧弱な壁。
「いや俺はその」
またアカイが何かを言っているが気にせずにシノブはベットの左側に座りこれで完了。シノブは決めた、寝ないと。いいやそっちのことではなく直接的な意味で。
「おやすみなさい」
お前は早く寝ろとシノブはこう宣言し横たわるも目蓋を閉じず、天井を見上げる。その手にはクナイを。頭の中ではイメージトレーニング。壁を乗り越えてきたらその手を刺し、顔を現したらその額を刺し腹に向かって……無限のごときアカイの死を想像を繰り広げさせていると灯りが消え横たわるアカイの音を聞く。そのまま、寝ろ。
お前の寝息を聞いたら私も寝る。だがそれが狸寝入りである可能性は十分に考えられるため、小一時間ばかりその寝息を確かめさせてやる。私ならその息遣いで寝たふりかどうかがすぐに分かる。呼びかけもする。絶対に分かるのだ。もしもそっちもこちらの寝息を伺い夜這い作戦を考え徹夜を決意してるのなら、望まないが望むところだ。
こちらは一晩徹夜しても問題ない訓練を受けている。自らの身であり王子のためならそれぐらいできる、できるのだ。私は王妃であり忍者であるのだからな。暗闇は静寂そのものであった。二人いるというのに息さえ聞こえてこない。息を潜め互いの様子を窺っているように警戒しているように、戦っているように全くの無音の世界の中。
シノブは闇の中で思い始める。眠い、と。徹夜にも当然体力を使う。その体力がないのが今の自分である。山越えによる身体的疲労に加えて宿に着いてからの緊張感。風呂は温かったし夕飯もなかなかうまいし量もそこそこに食べてしまった。
そしてこのふかふかのベット。これで徹夜は無理でしょ。しかしアカイが寝るまで私も寝るわけにはいかない、絶対にいかない。だけども眠い。ここで寝てしまったら取り返しのつかないことになるやもしれぬのに。こうなったら……とシノブは薄れゆく苦しみの思考の中で探った。どうにかしてアカイを眠らせる方法はないか。こいつを爆睡させられる手段が……危険でやむをえないがあった。
「……アカイ、起きていますか。よかったらお酒飲みますか?」
「えっ? 飲む!」
布団がまくられアカイが起き上がった。かかったなアホウが! とシノブは闇のなか微笑んだ。
やっぱり寝ていなかったのだこっちの様子を窺っていたのだ……こいつは私を狙っている疑惑の余地のない敵だ。
それは駄目だ、やるにしても正当防衛という形にしないと、いやでもリスクが高すぎる。失敗したら逆襲で人生が終わる……でもアカイの命よりも私の身の方が王子にとっても世界にとっても大切なものだし。アカイも私のためなら死んでくれると思うんだよね。だって君のためなら死ねるとか思っているでしょ? だったら私に討たれて死ぬことも受け入れるべきで。
「奥様? ずいぶんな長湯でございますがどうかなされましたか?」
えっ! と女将の声が聞こえシノブは立ち上がると頭がふらついた。しまった……またやってしまった危ない。昔から長考癖があってのぼせることが多いんだよね。よし逃げようとシノブは湯から出て服を着てふらつきながら部屋へと戻ろうとするも、鍵がない。そうだあいつが持っている。たしか奴は食堂にいて、と火照る頭のままそちらへ向かうと、はたして、いた。
「あっシノブこっちこっちだよ。ほら君の分をこれから注文するから」
待っていたのか、とシノブは呆れた。別に料理は冷めていてもこちらは構わないのにこれから注文するとはどうしてなのか? そうなると自然にこいつと食卓を長く囲むこととなるなと思っていたら、なんとアカイはまだ料理に手を付けていなかった。
「とりあえず先に注文してね。君と一緒に食べたくて」
こいつは一緒に食べることに異様に拘るなとシノブは苦々しく思った。なんでだろう? 一緒に食べると好意を抱かれるとでも思っているのか? そんなことないからそんなことないから、さきに食べていてくれたらどれだけ楽だったか。やがて料理が運ばれてきた。軽い夕飯であるがそれで十分なのである。
「それだけでいいの?」
「はい、もう夜だしこれから寝るだけですし」
そうそれだけでいい。もう夜だしもうこのあとは……寝る?
「いえいえちがいます。ちがいます! あっそうだ。もう少しだけ料理を頼みます」
シノブは我に返り追加の注文をする。寝るんじゃないんだよ私は。寝ないんだよ! とシノブは内心怒りながら出てきた練りものやら野菜やらを食べる。無意識に寝るという単語をアカイに向かって言ったことに対し我ながら腹を立てた。シノブはやつの表情を窺うもアカイは特に何も変化はない。よかった鈍感で! 意味深なものと受け取らずまた同意の言葉と勘違いせずに。
それにしても、とシノブは抜かったわ! とも怒ってもいた。眠り薬を忘れたのだ。まさかまだ食べていなかったとは思わず部屋の中に置きっぱなし。遅効性のを使えば同室でも安心して眠れたのに! なにを焦っているだとこんなことに気付かない己の愚かさへの腹立ちと後悔に苛まれながら食べ終わると一緒に部屋へと戻った。
同じ部屋に戻る……シノブの身体は緊張感で満ち髪の毛が逆立つのを堪えているようであった。こいつがもしも肩に手を当てたり身体に触れたら、殺そう。タッチアンドゴーでデスマッチ。それが死闘の合図だ。どこまでやれるか分からないがこの懐のクナイで腹を集中的に狙う。ほって掘って掘りまくれ。死を掘り当てるのだ。
正当防衛正当防衛お巡りさんどうかお聞きくださいと唱えながら歩き扉を開け中に入る。アカイが鍵を掛けその音が部屋に響いた。何かの宣告のように耳の奥へと入り込み鼓膜を叩く。突き破りそうなほどの鈍い力で以って。無言のままシノブはダブルベットまで歩くとその真ん中に荷物を置いた。
「壁を、つくります」
アカイが何か言っているが、聞かない。反対しているのだろう、だから、聞かない。鞄を置き部屋の小箪笥を置きとりあえずありとあらゆるものを置くと一つの壁が出来上がった。一跨ぎで乗り越えられる頼りのない壁。まるで自分たちの信頼関係にも似た貧弱な壁。
「いや俺はその」
またアカイが何かを言っているが気にせずにシノブはベットの左側に座りこれで完了。シノブは決めた、寝ないと。いいやそっちのことではなく直接的な意味で。
「おやすみなさい」
お前は早く寝ろとシノブはこう宣言し横たわるも目蓋を閉じず、天井を見上げる。その手にはクナイを。頭の中ではイメージトレーニング。壁を乗り越えてきたらその手を刺し、顔を現したらその額を刺し腹に向かって……無限のごときアカイの死を想像を繰り広げさせていると灯りが消え横たわるアカイの音を聞く。そのまま、寝ろ。
お前の寝息を聞いたら私も寝る。だがそれが狸寝入りである可能性は十分に考えられるため、小一時間ばかりその寝息を確かめさせてやる。私ならその息遣いで寝たふりかどうかがすぐに分かる。呼びかけもする。絶対に分かるのだ。もしもそっちもこちらの寝息を伺い夜這い作戦を考え徹夜を決意してるのなら、望まないが望むところだ。
こちらは一晩徹夜しても問題ない訓練を受けている。自らの身であり王子のためならそれぐらいできる、できるのだ。私は王妃であり忍者であるのだからな。暗闇は静寂そのものであった。二人いるというのに息さえ聞こえてこない。息を潜め互いの様子を窺っているように警戒しているように、戦っているように全くの無音の世界の中。
シノブは闇の中で思い始める。眠い、と。徹夜にも当然体力を使う。その体力がないのが今の自分である。山越えによる身体的疲労に加えて宿に着いてからの緊張感。風呂は温かったし夕飯もなかなかうまいし量もそこそこに食べてしまった。
そしてこのふかふかのベット。これで徹夜は無理でしょ。しかしアカイが寝るまで私も寝るわけにはいかない、絶対にいかない。だけども眠い。ここで寝てしまったら取り返しのつかないことになるやもしれぬのに。こうなったら……とシノブは薄れゆく苦しみの思考の中で探った。どうにかしてアカイを眠らせる方法はないか。こいつを爆睡させられる手段が……危険でやむをえないがあった。
「……アカイ、起きていますか。よかったらお酒飲みますか?」
「えっ? 飲む!」
布団がまくられアカイが起き上がった。かかったなアホウが! とシノブは闇のなか微笑んだ。
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