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義務と演技と忍者 (シノブ47)
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なにその変ちくりんな声は、とシノブはアカイの言葉に対して先ずそう思いそれから言葉に疑念を抱いた。そりゃそうだよ、うん、でも、あれは変装中の顔だから違うのに、こいつは何を言っているのやら? 中年男用に薄めで地味なメイクをしていたけど、本来あの人は派手めな人であんたみたいな気が弱っちい男が委縮するタイプなんだけどね。
そもそもな話で私にそのことを話してどうしたいのだろ? うんそうだねと返してほしいのかな? それがお望みなら相槌を打っても良いけど、なにかがおかしいな。違和感がある。怪しい奴が更に怪しくこれぞ『ア怪』か。
だってそうだよね。こいつはカオリさんに誘惑され陥落寸前まで行ってギリギリそれを回避してさ……あんなに警告して約束までしたのにこいつはまったく……それのみならずバレているのに私に対して嘘を吐くとかいう恥の上塗りまでして聴いているこっちが戸惑い、目を覆いたくなるレベルの醜態さを曝け出していて、これ以上は触れないように気を遣ってやっているのに、こやつは言うに事を欠いてカオリさんって凄い美人だった? こいつぅ……全然懲りていないな。
なに? 私に叱られたいの? 説教とかされたいの? いや駄目でしょ。ずっと年下の青少年に倫理的なところを説教される大人とか。想像すると悲しくなるというか男どころか人間の尊厳にかかわる屈辱とかじゃないの? いい年こいて恥ずかしいなぁ。今までの人生なにしてきたの? 私はそこには気を配っているからそんなことしないけど、これはそうしたほうがいいのかな? 年齢とか子供と大人の関係とか取っ払って人間同士の平等な立場からお説教したほうがアカイのためになるとか。
いやいや待って。それがおかしい。アカイはすごく馬鹿だけどわざわざ自ら自分の顔を潰すようなことはしないと思うのよね。今までそういうことしたことないし、こいつって駄目人間特有なプライドが高いし、年齢の上下とかすごく気にしてそうだし、ましてや私に好意を抱いている。そんな男がわざと好きな女に馬鹿にされ嫌われるようなことを言うとは考えにくい。
いつも通りの言い訳とか誤魔化しをするのなら話は分かる。すんごく分かりやすいからそうしてもらいたい。そうしたらこっちは呆れてその嘘に付き合ってあげてもいいが、これはなんだ? ハニトラで引っ掛ったことに同意を求めている? そんな馬鹿な……これはいったい……逆に拒否して欲しいとか? なんで? 本当に私に叱れるたいの? 叱られるのが好きとか?
それは違う。こいつはそんな男じゃない。私はアカイに詳しいんだ。アカイ学の権威だといっても差し支えあるまい。長きにわたる観察からその生態について多くのことを知っている。よって今までにないこの不可解な行動は深い理由のもと行われている可能性が極めて高い。
あの変な声も何かの意図があって緊張したから出たものと推定されるとしたら、覚悟の上での発言だとしたらこれはもしや……私の反応を試されているとか? どういうこと? だってそんなのおかしいでしょ? あんたがカオリさんに誘惑されたからってなんだというの……ああそうか、この冷たい態度が、気にくわないのかな?
マジでさぁ、あんたがどうなろうが知ったことじゃぁないけど、そうだそうだ、これが、駄目なんだ。ひしひしとアカイに伝わっているんだ。この女は俺のことを利用しているだけなんじゃないかって。うんそうだよ、その通りだよ、あったりーやったねアカイ! とハイタッチと共に伝えられたらどれだけラクか。しかし私とこいつは一方的な好意のみで繋がっている関係。他に縄も紐も糸も繋がってなどいない。まぁアカイの首に縄をつけて引っ張っているようなものだけどさ。
まず確信できるのはこいつは金や物や地位などでは動かず靡かず怯まず、己の心のみで動く存在だ。なんて厄介な男だ。あんたと結婚はできないけど代わりに他の女の人をいくらでも紹介してあげる。だから私に協力して、と伝えたらどうだ? いや駄目だろう。一気にやる気が落ちるしあの炎の力も、不能となるはずだ。忌々しいがあの炎は、すごい。一流の魔術でありあの兄さんの忍術に対抗可能とか驚きだ。しかしその燃料は明らかに私への愛だ。他のもので燃やせればいいのに! 自分自身の脂肪とかどうかな? しかもあのカオリさんの誘惑術にも最後の一線は耐えられるとか、こいつ死ぬほどに面倒くさいな。
それでこの場合において私に求められている最適解とはなんだろう? つまりこれは「俺はカオリさんに誘惑されたけどシノブはどう思う?」ということなんだよな。スケベで間抜けで愚かなおっさん早く死んで、としか思えないけどそんなのは絶対に求められていない答えに決まっている。これなら、聞かない。
これ以外はなんだ? だが考えろシノブよ。この複雑怪奇に歪んだ心理状態の中年男はいったいに何を求めて私に質問してきたか。きちんと答えられないとアカイがやる気を失いどこかに行ってしまうかもしれない。その事態だけは避けなければならない。研究が出来なくなってしまう、じゃなくて私には彼の身体がどうしても必要なのだから。しっかしなんでこの若い身空で異常独身中年の心理を考えないといけないのよ。同い年の男の子とか少し年上のお兄さんのことを考えたいのに酷い話。
そう試験なら得意だ。難題であっても試験官の心の分析すれば解けるのだ。その試験官はアカイ……こしゃくな、このシュ・シノブを試そうなど身の程知らずめ。難解ではあるがこれは……アカイは私を嫁にしたいと愚かにも程がある夢を抱いていて……その未来の嫁ならこう答えてくれるという変な妄想を憑りつかれていて……よってつまりは私は未来の夫に浮気された嫁という設定で……えっ? 嘘?
それってまさか私に焼きもちを焼けってこと? マジで? ちょっと冗談は止してよ。なんで私があんたに焼きもちを焼かなきゃいけないの? 他人でしょうが。しかも付き合いたくもない相手。迷惑にならない程度に他の女と遊べばいいでしょう。でも私の荷物は持ってよね。
駄目だ駄目。この私の正論と正しい認知はこの男には伝わるはずがないし伝わっちゃいけないんだ。そうだ私よ、この異常独身男性の心理をもっと理解しその生態を正しく捉えなければならない立場でもあるんだ。それが上手くできているからこそここまで連れてこれているわけなんだし。このアカイという男の脳内では私は嫁候補者という設定になっている。なっているんだ! 嫌っ嫌っ嫌っ!
いくら否定してもこれは変わらない。とにかくこいつの頭の中はそうなっている。だから私の荷物は持つし旅はするし私を守ってくれている。そうでなきゃこんなことなんてしない。私がいくら拒否反応をしてもこいつはそれを正しく理解していないのだろう。頭はかなり危ないから当然だ。そんでもってそのアカイはカオリさんと浮気をした。ではこの私のことだ。
私の取るべきというか取らなければならない行動とは……この浮気を詰ること。なんでこんなことを……よりによってあのカオリさんを非難しないといけないなんて。兄さんには出来過ぎた嫁だし私にも理想の義姉さんになる人なのに。あと違う意味で別にアカイを非難とかもしたくない。だってそんなに思い入れとかないしあの行動はガッカリしてもいないし当然のことだし。こいつならカオリさんに負けて当然だし。あの場合はカオリさんの罠にかかった私が軽率だったことでもある。あの時点でこの旅は終わりだった可能性の方が高かったのだから、むしろ逆に褒めたいぐらいなんだけどこいつはそれを求めてはいないんだろうな。まーあんたが誘惑に負けるのは当然だから別に気にしなくていいよ、とか言ったら拗ねそう。めんどいなぁ。
しかし浮気を詰る、か。嫌だなぁ。それって愛情の裏側じゃないの。信じていたのに裏切られたから怒るって。私はアカイのことを信頼していないから特に怒りなんて感情は湧かないんだけど。でもここで塩対応をしたらまずいんだよね。私への愛が消えたらあの炎は使えなくなるだろうし。まったくそういうところで褒めたり認めたいのに、なんでこいつ違うところを求めようとするのかなぁ。愛に目が眩んで私に迷惑をかけて困ったやつだ。そういうところが自身の首を絞めて生き辛くしているのが分からないかなぁ。
もっと違う欲望を抱けってんだ。まっとにかく嫉妬すればいいのね。しっかし男って何故か女の焼き餅が好きなんだよね。なんだろ? それが好意の裏返しとでも思ってんのかな? 好きとか愛しているとか恥ずかしくて言えないし言わないから遠回しな表現の方が良いとか。言葉を信用せず感情を信用しているのかねぇ。ふぅまたもや義務と演技……でもやるしかないな。自分のためにも王子のためにも、世界を救うためにも。ああ私って本当に聖女さまだよ。我ながら徳が高い。流石は王妃様だなぁ。はいはい、じゃあ怒りまーす。
夜空に煌めく流星のような思考が脳内で輝き消えると同時にシノブの意識はこちらに戻ってきた。一呼吸したのち揺れる馬車のリズムに合わせてシノブは言った。
「なに? ふざけているのアカイ? ちょっと最低だと思わない? 私の前で違う人のことを美人呼ばわりするとかさ」
そもそもな話で私にそのことを話してどうしたいのだろ? うんそうだねと返してほしいのかな? それがお望みなら相槌を打っても良いけど、なにかがおかしいな。違和感がある。怪しい奴が更に怪しくこれぞ『ア怪』か。
だってそうだよね。こいつはカオリさんに誘惑され陥落寸前まで行ってギリギリそれを回避してさ……あんなに警告して約束までしたのにこいつはまったく……それのみならずバレているのに私に対して嘘を吐くとかいう恥の上塗りまでして聴いているこっちが戸惑い、目を覆いたくなるレベルの醜態さを曝け出していて、これ以上は触れないように気を遣ってやっているのに、こやつは言うに事を欠いてカオリさんって凄い美人だった? こいつぅ……全然懲りていないな。
なに? 私に叱られたいの? 説教とかされたいの? いや駄目でしょ。ずっと年下の青少年に倫理的なところを説教される大人とか。想像すると悲しくなるというか男どころか人間の尊厳にかかわる屈辱とかじゃないの? いい年こいて恥ずかしいなぁ。今までの人生なにしてきたの? 私はそこには気を配っているからそんなことしないけど、これはそうしたほうがいいのかな? 年齢とか子供と大人の関係とか取っ払って人間同士の平等な立場からお説教したほうがアカイのためになるとか。
いやいや待って。それがおかしい。アカイはすごく馬鹿だけどわざわざ自ら自分の顔を潰すようなことはしないと思うのよね。今までそういうことしたことないし、こいつって駄目人間特有なプライドが高いし、年齢の上下とかすごく気にしてそうだし、ましてや私に好意を抱いている。そんな男がわざと好きな女に馬鹿にされ嫌われるようなことを言うとは考えにくい。
いつも通りの言い訳とか誤魔化しをするのなら話は分かる。すんごく分かりやすいからそうしてもらいたい。そうしたらこっちは呆れてその嘘に付き合ってあげてもいいが、これはなんだ? ハニトラで引っ掛ったことに同意を求めている? そんな馬鹿な……これはいったい……逆に拒否して欲しいとか? なんで? 本当に私に叱れるたいの? 叱られるのが好きとか?
それは違う。こいつはそんな男じゃない。私はアカイに詳しいんだ。アカイ学の権威だといっても差し支えあるまい。長きにわたる観察からその生態について多くのことを知っている。よって今までにないこの不可解な行動は深い理由のもと行われている可能性が極めて高い。
あの変な声も何かの意図があって緊張したから出たものと推定されるとしたら、覚悟の上での発言だとしたらこれはもしや……私の反応を試されているとか? どういうこと? だってそんなのおかしいでしょ? あんたがカオリさんに誘惑されたからってなんだというの……ああそうか、この冷たい態度が、気にくわないのかな?
マジでさぁ、あんたがどうなろうが知ったことじゃぁないけど、そうだそうだ、これが、駄目なんだ。ひしひしとアカイに伝わっているんだ。この女は俺のことを利用しているだけなんじゃないかって。うんそうだよ、その通りだよ、あったりーやったねアカイ! とハイタッチと共に伝えられたらどれだけラクか。しかし私とこいつは一方的な好意のみで繋がっている関係。他に縄も紐も糸も繋がってなどいない。まぁアカイの首に縄をつけて引っ張っているようなものだけどさ。
まず確信できるのはこいつは金や物や地位などでは動かず靡かず怯まず、己の心のみで動く存在だ。なんて厄介な男だ。あんたと結婚はできないけど代わりに他の女の人をいくらでも紹介してあげる。だから私に協力して、と伝えたらどうだ? いや駄目だろう。一気にやる気が落ちるしあの炎の力も、不能となるはずだ。忌々しいがあの炎は、すごい。一流の魔術でありあの兄さんの忍術に対抗可能とか驚きだ。しかしその燃料は明らかに私への愛だ。他のもので燃やせればいいのに! 自分自身の脂肪とかどうかな? しかもあのカオリさんの誘惑術にも最後の一線は耐えられるとか、こいつ死ぬほどに面倒くさいな。
それでこの場合において私に求められている最適解とはなんだろう? つまりこれは「俺はカオリさんに誘惑されたけどシノブはどう思う?」ということなんだよな。スケベで間抜けで愚かなおっさん早く死んで、としか思えないけどそんなのは絶対に求められていない答えに決まっている。これなら、聞かない。
これ以外はなんだ? だが考えろシノブよ。この複雑怪奇に歪んだ心理状態の中年男はいったいに何を求めて私に質問してきたか。きちんと答えられないとアカイがやる気を失いどこかに行ってしまうかもしれない。その事態だけは避けなければならない。研究が出来なくなってしまう、じゃなくて私には彼の身体がどうしても必要なのだから。しっかしなんでこの若い身空で異常独身中年の心理を考えないといけないのよ。同い年の男の子とか少し年上のお兄さんのことを考えたいのに酷い話。
そう試験なら得意だ。難題であっても試験官の心の分析すれば解けるのだ。その試験官はアカイ……こしゃくな、このシュ・シノブを試そうなど身の程知らずめ。難解ではあるがこれは……アカイは私を嫁にしたいと愚かにも程がある夢を抱いていて……その未来の嫁ならこう答えてくれるという変な妄想を憑りつかれていて……よってつまりは私は未来の夫に浮気された嫁という設定で……えっ? 嘘?
それってまさか私に焼きもちを焼けってこと? マジで? ちょっと冗談は止してよ。なんで私があんたに焼きもちを焼かなきゃいけないの? 他人でしょうが。しかも付き合いたくもない相手。迷惑にならない程度に他の女と遊べばいいでしょう。でも私の荷物は持ってよね。
駄目だ駄目。この私の正論と正しい認知はこの男には伝わるはずがないし伝わっちゃいけないんだ。そうだ私よ、この異常独身男性の心理をもっと理解しその生態を正しく捉えなければならない立場でもあるんだ。それが上手くできているからこそここまで連れてこれているわけなんだし。このアカイという男の脳内では私は嫁候補者という設定になっている。なっているんだ! 嫌っ嫌っ嫌っ!
いくら否定してもこれは変わらない。とにかくこいつの頭の中はそうなっている。だから私の荷物は持つし旅はするし私を守ってくれている。そうでなきゃこんなことなんてしない。私がいくら拒否反応をしてもこいつはそれを正しく理解していないのだろう。頭はかなり危ないから当然だ。そんでもってそのアカイはカオリさんと浮気をした。ではこの私のことだ。
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夜空に煌めく流星のような思考が脳内で輝き消えると同時にシノブの意識はこちらに戻ってきた。一呼吸したのち揺れる馬車のリズムに合わせてシノブは言った。
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