わがおろか ~我がままな女、愚かなおっさんに苦悩する~

かみやなおあき

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覚醒する鬼人王 (シノブ56)

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 風を切った音と同時にシノブは叫んだ。

「マチョ、上!」

 ワンテンポ遅れたもののマチョはギリギリ反応できボウギャックの初弾を防ぎ捌いた。あの身体で本気の自分並の速さ! とシノブは戦慄も覚えるも、しかし安堵もした。だったらなんとか勝てるのかもしれないと。

 その振り回されるハンマーのような拳による連打にマチョは激しい痛みを覚えるも闘志が湧いた。強くなっているけれどもまだ手の届く範囲のパワーアップ。だったら、いける! 王子を護れる! マチョはボウギャックの手首を掴み動きを止めた。

「シノブ!!」

 マチョの呼び声が出る前に既にシノブはボウギャックの背面に跳び刀を抜こうとしていた。その際に施される術は貫手! 甲冑をまとった対武士用に編み出された忍者の術であり、この光によって施された手や刀は如何なる相手であろうと、あたかも豆腐に箸を突き刺せるようにその身体を貫き通す絶対的な攻撃! 鯉口を切るそのコンマ数秒の間に影が跳びシノブを飛び蹴りで以って襲った。

「お母様!」
「私を忘れるんじゃないよ」
「グッ!」

 蹴りを喰らい空中にて回転しながらシノブが着地をするその間にマチョは宙を舞っている。いや、投げられていた。気を取られたその隙にボウギャックによる鮮やかなまでの一本背負い!

「ガハッ!」

 悲鳴と破壊音を籠めた轟音とともに床石がへこみ、むせ返るマチョに容赦なくボウギャックが固め技の体勢を取りそのまま身体を固定させた。首を絞める寝技! 本気を出せば落すまで十秒どころか五秒もいらない!

「良いですよ王! あなた様なら三秒で首の骨を折ることが可能だわ!」

 窒息死という猶予も与えぬ宣告じみた歓喜の声の脇から、クナイが幾数本投げられ狙い違わずボウリョクの頭部に殺到! しかし全てがまるで鉄球によって弾かれる針のように全く以て受け付けない。だがそれの真の狙いは大臣夫人の身を反射的に後退させるフェイントであり本命は。

「はっ! 王よお逃げください」

 投擲されたクナイと同速にて駆ける神速でもってボウギャックの傍に到着したシノブは、もう鯉口は切り刀を振り上げている。夏の浜辺のスイカ割りをシノブは思い出しながら、貫手の術を施した刀は振り降ろされるも刃は静かに床を切り裂くだけ。

「速い!」

 瞬間移動並みに消え離れた場所まで跳んだボウギャックを見ながら、シノブは惜しいという感情と同時に手応えも感じた。あの量のクナイは避けずに全受けしたのに刀は警戒しているのなら自覚がある。この術は通じてしまうかもしれないという奴の不安。それならば自分の術であいつを斬ることができて勝てる! 次は必ず当ててみせる。

「失礼、あなたにばかり活躍をさせてしまっていますわね」
「別にいいんだけどさ。私がメインの戦いだしさ」
「そうはいきませんわよ。これは妾の戦いです。次は必ず」
「マチョ! 右!」

 慌てて大声をあげるシノブよりも先にそのマチョは先んじて反応していた。

「なんですって!」

 夫人の声が続き、それからボウギャックの襟首を掴んでいるマチョが言った。

「お忘れですか皆さん! 妾も封印の解放に伴ってパワーアップしているのですわよ。だから兄様、あなたの速さも少しは反応でき、そして」

 抵抗するボウギャックの引く力にマチョは瞬時に身体を捌き自分の力を加えようとする。そう! これは相手の力を利用して技を掛ける合気の呼吸!

「倒すこともできるのですわ!」

 今度はボウギャックの投げにはならず、そのままマチョは壮大な破壊の音色を奏でながら床に叩き付け、それから素早く寝技に持ち込む!

「しまった!」

 夫人がヘルプに駆けつけるよりも先に既にシノブがボウリョクの傍に立っている。

「私達の勝利だ!」

 忍術によって身体を白光させながら刀を振り上げるシノブ!同じ過ちは犯さずにその動きの全ては完璧であった。マチョとのコンビネーションから技の入りかたにその立ち位置。大臣夫人は最速にて駆けつけるもギリギリ一歩及ばない距離。もはやボウギャックは逃げることは叶わずそのシノブの一撃を首に受けるしかなかった。

「妾達の勝ちですわ」

 同時に発せられた互いの勝利宣言をもって刀は振り降ろされ狙い違わず刃が首筋にあたり、それから刀は木っ端微塵に砕け散り儚く絶叫を上げた。宙を舞う刀の残骸を見ながらシノブは放心する。なにが起こったのか分からず意識が無となる。鉄をも岩をも裂けられる自分の術。そしてその自分の無敵の術を叶え支え続けてきた愛刀が敗れ、破壊したことをすぐには受け止められない。

「シノブ? シノブ!」

 マチョの絶叫が届かない。だからシノブは気づかない。ヘルプに駆けつけた夫人が眼の前にいることをそして蹴りが入って吹っ飛んだことを。無意識に受け身をとり立ち上がるシノブであるが、まだ意識はこの世に戻ってきていない。まだ現実を受け入れられない。そしてボウギャックがマチョの技を解き、投げ飛ばした。

「さては時を経て更にお強くなられましたね王よ! さぁそっちのはそのままでよろしいですわ! 先に倒すのはあっちです。攻撃力なら廃妃よりあの忍者の方が上!」

 夫人の指示によってボウギャックはさらなる瞬間移動。もう人間の目でその姿を追うことができない。よってシノブは呆けたように空間を見ることしかできない。すると眼の前の影が現れ右貫手の態勢であることが見えた。シノブはその右手が自分の身体を貫くことを他人事のように予想しながらその時を待った。意識はゆっくりと流れていく。自分は敗れた……その一念だけが心に満ちているなかシノブは覚悟を決めた。
 

 その瞬間、見慣れた背中が自分の前に現れたのを見た。それからボウギャックの貫手がその壁を突き破ったのを見た。血が顔に被る、温かなその命の源が。シノブはアカイの血を被った。
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