龍を討つもの、龍となるもの

かみやなおあき

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第一章 なぜ私であるのか

私は龍の護衛をやめようと思う

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 ハイネの声が後ろから、来た。どこから追跡してきたのか分からないものの相手が相手なために、ジーナは再び足を回転させ更なる全力疾走を開始する。

 風景はもっともっと混沌を極め無意味なものへと変わっていき、この世界の何もかもが価値のないものだと思いつつある中で、また声が追ってきた。

「どこまで行くんですかー」

 おかしい、とハイネの声が迫って来るのが聞こえジーナはこれは呪いか? と切実に思った。

 この速さについてこれる人が、しかも女でいるとは絶対に有り得ない、が相手はあのハイネ。もしかしたらできるかもしれないと恐怖感が腹の中で湧き、なおも駆けていくもしばらくすると、声が来る。

「そろそろ休みませんかー?」

 しかもすぐ後ろで。今まで振り返ることができないままであったジーナは幻を期待し、ここではじめて後方に首を微かに傾けると、ハイネがいた。

 そのうえ目が合うと微笑みかえして来たので驚きでバランスを崩したのか、ジーナは地面を転がり草の上で止まった。

「あらやだ大丈夫ですかジーナさん!」

 すぐにハイネが近づき脇の下に手を入れ起き上がりを助けた。やはり幻で無かった。だから怖いとジーナは震えた。

「あっすぐに喋らないで、まずは呼吸を整いながら歩きましょう。心臓が止まりますから」

 別の意味で心臓が止まりそうだとジーナは思いながら苦し気に喘ぎ声を出した。やけに親切なのも新たな恐怖への前奏曲みたいでジーナは安心出来ない。

「そうそう一緒に息を合わせましょう。スーハ―スーハ―って感じで。私も息が上がっていますから呼吸を合わせて一緒にどうぞ」

 右側を歩きながらハイネはジーナの荒い息遣いに合わせることに楽しげであった。何が楽しいのやら。

 風景からして今いる場所が兵舎の裏の森の道であることがジーナは気づいた。

 リードしていく形でハイネがジーナの手を取り導いているが、この場合は確実にあそこで。

「落ち着いてきましたがまだ話さなくていいですからね。そういえば驚きました私の足? はい驚きましたね。それほで速くありませんが、持久走なら昔から得意ですよ。あなたがどれだけ短距離が得意でそれでリードを作っても、そのうちに疲れからか少しずつ足は遅くなります。けれど私はずっと一定のスピードであなたに近づいて行くので、短期戦ならいざ知らず長期戦となったら私が勝つ可能性が高いのです。あの調子で私を撒こうだなんて努々思わぬことですよ、ってフフッ追いかけっこは私の勝ちですよ。あの逃げ方じゃ甘い甘い」

 そんな遊びをした覚えはないがハイネの満足気な得意顔なのと自分の疲労感の考えたら反論はしたくはなかった。

 そのうえハイネにずっと喋らせておくと、あのことを思い出さずに済むと感じられ、それもまた救いだとジーナは感じていた。

「あの、あそこに行きますよ、いつものあそこへ。ほら、みんなの眼がありますし裏へ行きましょう裏に、こっそり」

 返事を聞かずにハイネはジーナの手を引っ張り裏の森の小道へと入る。逆方向から入ることは今までなく、逆さまから見るかのような風景にジーナはどこか非現実感を覚え出していた。

「到着するまえに前もって言っておきますけど、とりあえずあの、私はいま相当に怒っていますからね」

 言葉とは裏腹に声にはそんな感情が籠っているようにはとても思えなかった。

 それどころか明るく嬉しげで、自分には出せない言葉の響きであり、掌から伝わる温度もまた高くかつ、攻撃的なものではなかった。

 だから怒ってはいないだろうと分かるが、そのハイネの不可解な矛盾した心と言動にジーナは突然ヘイムのことを思い出し、首を振る、どうしてその連想が来るというのか? それではない、そうじゃない、あの人に矛盾は、ない。

 あるとしたらそれは……分裂したままの魂を抱える、私なのでは。もしもそれを今の私のようにあの人もまた、感じ取っていたのなら。

「私がなんで怒っているのか分かっていますか? 想像して今のうちに言い訳を頭の中で練っておいてくださいね」

 私が憎んでいる理由は分かりますか? ジーナは頭の中で浮かんだ言葉を消すために心の中で長い叫び声を上げ、いつしか息切れがし、頭が真っ白になるまで続けた。

 ここでの逢瀬を何度しただろうか? と数は思い出せないけれどハイネは多分覚えていそうなので聞かないことにしよう、とジーナはその周りを見回した。

 もうすっかり冬へと入ったため微かに残っていた緑も無くなり枯葉の色どころか、落葉しきった木々に囲まれ裸となった枝々から灰色の空ばかりが覗かせている。

 寂しげな雰囲気であるのに、ハイネは近づくにつれて小走りになっていく。なにがそこにあるというのか? 長椅子のごとき岩にハイネはバックから取り出した敷布をひろげ固定位置のようにこちらを左側に座らせ自分を右側へとあとから座る。

 これも逆だな、とジーナは思うがそれが何の逆であるのかはそれ以上考えることなくハイネをちょっと見て、それから目を逸らし左を見る。

 そこには誰もいないというのに

「言い訳の準備は出来ましたか? 出来ないからって目を逸らしても無駄ですからね。とことん追求しますので覚悟を、どうぞ。予定としては怒りが終わりましたら次は喜びに行きます。私だって鬼じゃありませんのでこの度の戦いのお祝いもしたい所存ですので。そこのところをよくよくご理解の上で、では怒りますよ。私を見てください」

 言い訳の言葉の準備など一切考えずにジーナが右に顔を戻すとそこには怒っているように見える喜びの顔がそこにあった。

 表情は怒りであるのは分かるが、その眼の光りが違う。この一点において怒りと喜びは一線を分かつことをハイネは知っているのだろうか? 知らないのだろう、そんなことは自分ではわからない、ジーナ自身も今はじめて知り、そのうえで改めて想像する。

 あの人がもしもこのことを私よりも先に知っているとしたら……私を通じて知っていたとしたら。

「酷いじゃないですか。私と約束したのに先頭になって一番乗りを果たしたとか、話が違いますよ。私はあなたの言葉を疑いもせずにいましたからそのことを聞いた途端にびっくりしちゃって……なんで約束を破ったのですか?」

 憤激しながらハイネはジーナの手の甲を抓るとあらぬ方向からの攻撃かと思えて思わず悲鳴があがった。

「痛いですか? そうでしょう痛いように抓りましたからね。痛がって当然で良いリアクションありがとうございます。そうですよ、あの時の私の痛みはこれが心臓にきたのと同じですからね。それでどうして約束を破ったのか、言い訳をご説明をいただきましょう。そうでないともう一度抓りますよ」

 元より言い訳など考えていなかったジーナだがハイネはハイネで別に言い訳など求めていないようにも見えた。

 ただこうしている時だけが必要だと言うように、ひいてはそれはあの人が私に求めていたことと同じなのでは?

「すまない」

 誰に対してこれを言っているのか? ジーナは言葉を出したがこれ以上の言葉はどこからも出なかった。

「痛すぎてそれ以外の言葉が思い浮かばなないのですか? 駄目ですよそんな言葉じゃ、足りません」

 ジーナは痛みが耐え難いほどになりつつあった。それは手の甲のではなく自身の胸の中であり、思っていることはさっきの出来事の、ヘイムのことを思い今一度言葉を重ねる。

「すまない」

 同じ言葉であったが何かが違うことにハイネは気づき、怒りの仮面を捨て笑みをも消した。

「そういえば今の時間はあなたは龍の館にいるはずですよね? そもそもどうして走っていたのです? 私はあなたのことを見つけて、ついそこのところを……」

 質問と独り言で混ざった言葉を口にし混乱しながらハイネはジーナの顔を正面から今日初めて見た。だからすぐに気づいた。

 その表情の意味を、あれは走り疲れた男の顔ではなく傷を負い苦しむ男の顔であったと。そうと分かったハイネは自分の心に罪悪感と同時に怒りが巻き起こり黒い憎悪を抱いた。

 こんなことに気付かずにただ一人で幸福な気分であったことを。同時に自分がこんなに近くにいるというのに、この男は、私ではない女の事を懸想していることに。

 敵はそこにいる、とハイネは見た。だがその敵は心にいる、と。ならばと混沌を極めた感情と一体となったハイネは自己のうちにある全ての意思を総動員し眼の前にいる男に集中しだした。

 敵がそこにいるように、挑むように、涙をにじませ睨みながらジーナの心と体の動きを眼を見開いて見つめる。

 一方でジーナはどうしたらいいのか混乱した心の中で言葉を探すとキルシュの言葉がそこにあり、手探りで取りだす感覚の中で動き出す。

 確か、とジーナは心の中で復唱する。この時はただ、優しく抱きしめる、と。ジーナは内心で苦笑いした。そんなことをする必要は……

 突然に、と言っていいぐらいにジーナから見たハイネは変わった。ジーナに向ける表情も眼も何もかもを。

「許されないということか」

 怒りに満ち溢れたハイネのその顔が返事だとジーナは受け止めた。

 そうだ私は許されるはずがない。それでいい、それでしかない。あの人にもこの人にも私は結局のところ……新しい痛みが、来た。

 知らない痛みがジーナの胸を走りハイネを見おろす。今日はじめてジーナは目が合った気がし、なにを思って彼女は、私を見ているのか?なにを睨み、なにを許さないのか? そして私は本当に、許されなくていいのか? 疑問と共に触れていたハイネの手がゆっくりと引いていくのをジーナは肌の感覚の中で知る。

 ハイネは震えながら眼を見開き、息を止め視線を外さない中でジーナは再び疑問を思い浮かべる。

 私は本当にこのままハイネに許されなくていいのか? 手の動きが答えとなって去ろうとするハイネの手を追い、指先がその中指が触れた瞬間にどちらが動いたのか不明なぐらいに同時に絡まり合い、ジーナはキルシュの声を再生させながらハイネを引き寄せ抱きしめた。

「すまない」
「許します」

 胸に顔を押し付けられながらハイネは答える。

「見て触れ語るその声が私に来たことで許します。ここに帰って来て私は……」

 ハイネの手が背中に回りジーナを抑えつける。抱きしめ合うこの縛り付けられている状態でジーナはどうしてか解放感の中にいた。

 このままずっとこうしていられたら、とジーナは思い、もしもそれが可能であるのなら……

「ハイネさん」

 呼びかけるとハイネは胸の中で首を振った。

「嫌です」

「ハイネさん?」

「その呼び方はもう嫌です。ハイネって呼ばないとその先は、聞きませんよ」

「ハイネ」

「はい、なんでしょうジーナ」

 返事をとったジーナはハイネの顔をあげさせ告げた。

「私は龍の護衛をやめようと思う」

 いつかはこうなる予感があっただけであり、誰に言っても誰からも反対されるこの言葉をジーナはハイネにはじめて語った。

 ハイネは予想通りに歓喜に満ちた表情を示した。どうして喜ぶのかをその理由を知らなかったというのに。

「仕方がありませんね。私は賛成します。たとえ他の誰かが反対しても」

「他の誰かなんて関係ない。ハイネが賛成してくれるだけでもう十分だ」

 ハイネの表情に驚きも加わり、絡み合ったままの二人の手が震えだした。その震えがどちらのものであるのかも分からなくなっていた。

 そんなのはどちらでもいいという心境のままジーナは目をよく見えるようハイネの乱れた前髪を脇に指でどけると、自分の指が震えていることに気が付き、離そうとするとハイネがその手を掴んだ。

「止めないで」

 その手には力が入り声が迫ってくる。

「止らずに、言って。もっと求めて」

 呪文の如くにハイネは唱え息が心にかかる。

「私はここにいます。来て」

 来てとは? どこに行くというのか? 私達は……私達? そういうことかと導かれるようにジーナはハイネの手を強く握り、どうしてそんな言葉が湧いてきたのか分からないままに、願った。

「私は前線に行く。ハイネも来てほしい」

 伝えた途端に全身の熱が上がっているというのにジーナは見えない鎖が解けていく感覚に全身が襲われた。ハイネは笑った。いかにも困惑気味になるように作るも、だが眼は笑い涙も流しながら少し顔を近づけ、答える。

「龍の護衛をやめるのと私の付添えを依頼とかずいぶんとわがまま放題ですね。そんなこと、許されるとでも思っています?」

 咎めの言葉だというのにそれは柔らかく、真綿のように身体を、首を包み込んできた。

「ハイネが許してくれるのならいいんだ」

 表情が堪え切れず崩れる兆しのように涙がまた一筋流し、それを拭うようにすハイネは顔をジーナの胸に飛び込ませ埋めてきた。

「なにを、言っているのですかね。私はまだ許すとか言っていないのに。まぁいいです、ひとまず申請します。前線の状況報告とあなたの監視を兼ねてということで」

「監視って、まるで私が危険人物みたいな言い方だな」

「だって、そうじゃないですか」

 本当にそうだ、というジーナの思いとハイネの思いはここでも重ならずに言葉が宙に浮いた。

「私はその認識の元で厳重監視でもって、あなたを地の果てでも空の彼方でもその傍にいますから、諦めるように」

 ああそうしてくれ、とジーナは思いハイネの髪に顔を沈める。その髪の香りのなかで思うはこのまま果ての果てへと行くこと。

 龍から離れ、龍へと向かう、これがたとえ矛盾しているとしても、行かなければならない。

 私は龍を討つものであるのだから。
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