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第二章 なぜ私ではないのか
手紙は渡すが渡さない
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ハイネは懐に手を入れ封筒が入っていることを、また確認をした。ここにあるのだと。
その封筒に手を触れると辺りの喧騒が消えて静かとなる、それは自分の意識が遠くなっているからだろうか?
式典は中央の広場で行われる予定であり今まさに幕に囲まれた会場が完成しようとしていた。
もう渡す時間は、ない。と言い訳としかいえない感慨を胸にハイネはもう手遅れだということを実感し噛みしめていた。自らの卑劣さを。
だがそれでもハイネは自分は一線を守っていると思っていた。封はまだ切られていない、そうまだ中身を読んではいないのだと。
自分は読みもせず、また読ませもせず、どこにも着地せずに宙に浮いたままのこの手紙。
渡すのはいつに? 式が終わったら? それに何の意味があるというのか?
脇から第一隊の戦士たちが正装で現れ用意された椅子に座っていくのを眺めながらハイネは考えた。もう何もかもが手遅れなのだと。
あの人は私に聞いてはこなかった。ちゃんと渡したのか、と。だが聞くはずもない。私が渡さない理由などないのだから。
そしてジーナも尋ねてはこないだろう。返事はあるのかと? また二人の間でもそうだ。
返事の手紙は届いたのか? また出さないのですか? など絶対に会話を交わさない。
第三隊の戦士達が続いて幕の中に入って来る。何人もの知り合いの戦士たちがいて眼で挨拶をした。彼らの正装を見るのはとても誇らしい事だ。
いや駄目だ現実に戻らなくてはとハイネはまた考える。何にせよこの手紙は渡さなければならない。
だがそれはいつ? どのタイミングで? 式がはじまってしまうというのに……
「ハイネ? なにをボーとしているのですか? いつまでも眺めていないでこちらに来て待機していなさい」
シオンの声に呼び覚まされハイネが振り向くとお偉方以外のものが全て椅子に座り開始の合図を待っていた。
ハイネは慌てて戻りシオンの横に座る。ここは定位置である。
「ヘイム様は準備中でしょうか?」
「いいえ。あなたが手伝ったあとはルーゲン師らと最後の調整です。そこまでしなくてもと思うぐらいに今回は念入りですね」
何の疑念も抱かずにシオンは言うもハイネは不安が募った。
ここまでする理由がもしもあの人の為だとしたら、晴れの舞台であるから完璧に行いたいとか、それとも久しぶりだから、もしくは単純に中央進軍のための士気向上のため ?あるいはその全て?
しかしその中で最も滑稽で皮肉な救いがあるとしたらそれは……全部自分の勘違いとか。
「ククッ」
ハイネが小さな妙な笑い声を出すと隣のシオンが背中をさすってきた。
「どうしました? 何か痛むとか」
「申し訳ありません姉様。いえちょっと思い出し笑いを」
「まぁ呆れますね。ここでそんなことを思い出すとか、どんな話です?」
「たいして面白くはありませんよ。私の友達が作ったお話なのですけどこうです。その子はある男の人が好きになりましたが彼は違う女が好きなようだと思いましてね、そうしたらその子はその女を仇だと意識してちょっかいを出したり色んな嫌がらせや策謀をするのですけど、実はそれは全部自分の妄想だったと分かってしまう話なのですけど、どうです?」
そう語るとシオンは凛々しい顔を頻りに縦に振り感心をしていた。ハイネは相変わらずこの人はかっこいいなと感じていた。
「ふんふんそれは中々に筋が面白い話で。しかしまぁお話という感が強いですね」
「そう思いますか?」
胸に強い鼓動を鳴るなかでハイネは尋ねた。
「思いますよ。だってそんな間抜けな女がいるのですかね。頭が悪くて聞いているだけでイライラしてきます。まぁそこはいたとして、全部が妄想だとしても、言えることは一つありますね。つまりその妄想は自分がその男に愛されていないという意識から生まれた、と」
鋭い痛みが胸を走るもシオンに気づかれぬようにハイネはあえて軽く笑った。自分の話ではないというために。
「妄想だと判明し二人は幸せに暮らしましたとさ、おしまい……にはなりませんよね」
「話はまだ途中なんでどうなるかは分かりませんけど、こういう可能性もありません? 愛されていると感じているけれどあと一歩足りないから、というのはどうでしょう?」
「随分と具体的になりましたね、ふむ」
指を顎先に触れながらシオンは思案に入りハイネは心中で祈りの姿に入った。どうか迷えるこの私に救いある言葉をください。
「ならば、こういうのはどうでしょうか?」
そう言うシオンの顔は自信というものに固まっていた。ここぞという時に絶対に頼りになるシオン姉様。
「その一歩はやはり女である可能性が最も高いでしょうが、そうしたらその男は相当の浮気野郎ですがね。二人を天秤に掛け軽重のゆれめきを楽しんでいる色魔とか。それはリアルですけれどここは穏便にロマンをとりまして、もう一つの要因は何らかの使命といったものを自らに架せているために女を愛してはならないとすると、どうでしょう?」
「使命? そんなの愛しながらでもできますよ」
反射的にそう言うとシオンは微笑んだ。
「そこは男の作者と女の作者の違いかもしれませんね。男はその両立は難しいから」
「極端な! やりなさいってば。じれったくてしょうがありませんよ。重いですって。もっと気軽にやればいいのに」
「あなたはそういう重い男ではなく、軽い男の方が好みでしたっけ?」
笑顔で問い掛けてきたシオンのその眼は笑ってはおらず見つめて来ていた。そのハイネが想い瞳に浮かべる男の顔を。
ハイネもその問いに対し一人の男しか頭に思い浮かばずにそれが瞳に映っているのだろうか?
だけどいまの心はそれに対しては浮気だろうが使命だろうがそうではなくても今は
「軽いのは嫌ですけど重いのも嫌です」
「分かります。どっちも結局のところ自分自身ことを一番に愛している厄介な男である場合が殆どですからね。そういうのは良くありません。要は中庸をね、ほどほどに真ん中普通あたりが良いのですよ、相手にするのにはね。だからあなたも……あらもうこんな時間ですね」
とシオンが手で制すとルーゲン師が壇上に現れ挨拶を始めた。いよいよ式が進行していく。
式場を一瞥すると席は埋まり勢揃いしたということだろう。だけども一人足りないのでは?
先頭から真ん中へそれから後ろの座席を見渡しても、見当たらない。いればすぐに目に入るはずなのにとハイネは疑問に思わずに探す。
第二隊のものたちがいる。最後尾であるからその中にいるというのに、彼はジーナは見当たらない。
ここにいないのなら……ある可能性にハイネの胸は熱を帯びてきた。
来れなかった、と。どうしてもここに来て姿を見ることも近くによることも、ましてや祝福を受けることなどは……そうであるならば来なかったらこのまま手紙を無かったことにする。
その場合はこの手紙は必要のないものであり、また彼には受け取る資格がないものである。
もう一つは、ここのどこかにいて表彰の際に現れたとして、何もかも私の勘違いであり何も起こらずに無事に式が終わったとしたら手紙を渡す。
二人が結びつかないということが分かったら、問題なく渡す。
遠く隔たった二人がここに来てどんな関係でここを迎えるのか。見ればわかる、私なら分かる、分からないはずがない。
この会が終わったのならば今度こそ決定的に二人は遠くに離れ、私はあの人をもう一人で遠くには行かせない。
そう思うと胸が炎を宿ったように熱く焦げた臭いさえ出し始めているように感じられた。
燃えているのは懐の手紙かそれとも自らの心か。
ハイネは本当に焼けていないかだろうかと懐に手を当てると確かにそこには手紙の感触があり、安心をして眼を閉じると瞼の裏に浮かぶものがあった。
龍となるものが、そこに映った。炎がまた一段と熱を帯びハイネは思う。そうであったとしたらあなたにだけは奪わせない、と。
その封筒に手を触れると辺りの喧騒が消えて静かとなる、それは自分の意識が遠くなっているからだろうか?
式典は中央の広場で行われる予定であり今まさに幕に囲まれた会場が完成しようとしていた。
もう渡す時間は、ない。と言い訳としかいえない感慨を胸にハイネはもう手遅れだということを実感し噛みしめていた。自らの卑劣さを。
だがそれでもハイネは自分は一線を守っていると思っていた。封はまだ切られていない、そうまだ中身を読んではいないのだと。
自分は読みもせず、また読ませもせず、どこにも着地せずに宙に浮いたままのこの手紙。
渡すのはいつに? 式が終わったら? それに何の意味があるというのか?
脇から第一隊の戦士たちが正装で現れ用意された椅子に座っていくのを眺めながらハイネは考えた。もう何もかもが手遅れなのだと。
あの人は私に聞いてはこなかった。ちゃんと渡したのか、と。だが聞くはずもない。私が渡さない理由などないのだから。
そしてジーナも尋ねてはこないだろう。返事はあるのかと? また二人の間でもそうだ。
返事の手紙は届いたのか? また出さないのですか? など絶対に会話を交わさない。
第三隊の戦士達が続いて幕の中に入って来る。何人もの知り合いの戦士たちがいて眼で挨拶をした。彼らの正装を見るのはとても誇らしい事だ。
いや駄目だ現実に戻らなくてはとハイネはまた考える。何にせよこの手紙は渡さなければならない。
だがそれはいつ? どのタイミングで? 式がはじまってしまうというのに……
「ハイネ? なにをボーとしているのですか? いつまでも眺めていないでこちらに来て待機していなさい」
シオンの声に呼び覚まされハイネが振り向くとお偉方以外のものが全て椅子に座り開始の合図を待っていた。
ハイネは慌てて戻りシオンの横に座る。ここは定位置である。
「ヘイム様は準備中でしょうか?」
「いいえ。あなたが手伝ったあとはルーゲン師らと最後の調整です。そこまでしなくてもと思うぐらいに今回は念入りですね」
何の疑念も抱かずにシオンは言うもハイネは不安が募った。
ここまでする理由がもしもあの人の為だとしたら、晴れの舞台であるから完璧に行いたいとか、それとも久しぶりだから、もしくは単純に中央進軍のための士気向上のため ?あるいはその全て?
しかしその中で最も滑稽で皮肉な救いがあるとしたらそれは……全部自分の勘違いとか。
「ククッ」
ハイネが小さな妙な笑い声を出すと隣のシオンが背中をさすってきた。
「どうしました? 何か痛むとか」
「申し訳ありません姉様。いえちょっと思い出し笑いを」
「まぁ呆れますね。ここでそんなことを思い出すとか、どんな話です?」
「たいして面白くはありませんよ。私の友達が作ったお話なのですけどこうです。その子はある男の人が好きになりましたが彼は違う女が好きなようだと思いましてね、そうしたらその子はその女を仇だと意識してちょっかいを出したり色んな嫌がらせや策謀をするのですけど、実はそれは全部自分の妄想だったと分かってしまう話なのですけど、どうです?」
そう語るとシオンは凛々しい顔を頻りに縦に振り感心をしていた。ハイネは相変わらずこの人はかっこいいなと感じていた。
「ふんふんそれは中々に筋が面白い話で。しかしまぁお話という感が強いですね」
「そう思いますか?」
胸に強い鼓動を鳴るなかでハイネは尋ねた。
「思いますよ。だってそんな間抜けな女がいるのですかね。頭が悪くて聞いているだけでイライラしてきます。まぁそこはいたとして、全部が妄想だとしても、言えることは一つありますね。つまりその妄想は自分がその男に愛されていないという意識から生まれた、と」
鋭い痛みが胸を走るもシオンに気づかれぬようにハイネはあえて軽く笑った。自分の話ではないというために。
「妄想だと判明し二人は幸せに暮らしましたとさ、おしまい……にはなりませんよね」
「話はまだ途中なんでどうなるかは分かりませんけど、こういう可能性もありません? 愛されていると感じているけれどあと一歩足りないから、というのはどうでしょう?」
「随分と具体的になりましたね、ふむ」
指を顎先に触れながらシオンは思案に入りハイネは心中で祈りの姿に入った。どうか迷えるこの私に救いある言葉をください。
「ならば、こういうのはどうでしょうか?」
そう言うシオンの顔は自信というものに固まっていた。ここぞという時に絶対に頼りになるシオン姉様。
「その一歩はやはり女である可能性が最も高いでしょうが、そうしたらその男は相当の浮気野郎ですがね。二人を天秤に掛け軽重のゆれめきを楽しんでいる色魔とか。それはリアルですけれどここは穏便にロマンをとりまして、もう一つの要因は何らかの使命といったものを自らに架せているために女を愛してはならないとすると、どうでしょう?」
「使命? そんなの愛しながらでもできますよ」
反射的にそう言うとシオンは微笑んだ。
「そこは男の作者と女の作者の違いかもしれませんね。男はその両立は難しいから」
「極端な! やりなさいってば。じれったくてしょうがありませんよ。重いですって。もっと気軽にやればいいのに」
「あなたはそういう重い男ではなく、軽い男の方が好みでしたっけ?」
笑顔で問い掛けてきたシオンのその眼は笑ってはおらず見つめて来ていた。そのハイネが想い瞳に浮かべる男の顔を。
ハイネもその問いに対し一人の男しか頭に思い浮かばずにそれが瞳に映っているのだろうか?
だけどいまの心はそれに対しては浮気だろうが使命だろうがそうではなくても今は
「軽いのは嫌ですけど重いのも嫌です」
「分かります。どっちも結局のところ自分自身ことを一番に愛している厄介な男である場合が殆どですからね。そういうのは良くありません。要は中庸をね、ほどほどに真ん中普通あたりが良いのですよ、相手にするのにはね。だからあなたも……あらもうこんな時間ですね」
とシオンが手で制すとルーゲン師が壇上に現れ挨拶を始めた。いよいよ式が進行していく。
式場を一瞥すると席は埋まり勢揃いしたということだろう。だけども一人足りないのでは?
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第二隊のものたちがいる。最後尾であるからその中にいるというのに、彼はジーナは見当たらない。
ここにいないのなら……ある可能性にハイネの胸は熱を帯びてきた。
来れなかった、と。どうしてもここに来て姿を見ることも近くによることも、ましてや祝福を受けることなどは……そうであるならば来なかったらこのまま手紙を無かったことにする。
その場合はこの手紙は必要のないものであり、また彼には受け取る資格がないものである。
もう一つは、ここのどこかにいて表彰の際に現れたとして、何もかも私の勘違いであり何も起こらずに無事に式が終わったとしたら手紙を渡す。
二人が結びつかないということが分かったら、問題なく渡す。
遠く隔たった二人がここに来てどんな関係でここを迎えるのか。見ればわかる、私なら分かる、分からないはずがない。
この会が終わったのならば今度こそ決定的に二人は遠くに離れ、私はあの人をもう一人で遠くには行かせない。
そう思うと胸が炎を宿ったように熱く焦げた臭いさえ出し始めているように感じられた。
燃えているのは懐の手紙かそれとも自らの心か。
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