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第二章 なぜ私ではないのか
ジーナからの報告書
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「ヘイム様へ」
封を切り手紙を開くと始まるいつもの出だしの一文からシオンは読みだした。ここのところすこぶる面白いのがこのジーナの報告文である。
まず、私が読む、それは、正しいことである、とシオンはむにゃむにゃ口の中で呟きながら隅から隅を読み返す。
今回も異常なし、ともはや何を警戒しているのか分からない上にもしかして盗み読みというスリルを味わっているのか、どっちが目的なのかを見失っているもののシオンはその度に誰に向かってなのかこう思い呟く。
いまさら、やめられないのよ。
ということで手紙に再び封を施し執務室を経てヘイムの部屋に、龍の部屋へと向かった。ここはソグの龍の館。
冬が過ぎ春が来ようとしていると窓辺から見える新緑を眺めながらシオンは歩きヘイムの部屋へとこっそり入っていった。
シアルフィ砦からここに帰ってきてしばらくが経つのだなと移り変わる景色によってシオンは感慨を深めた。
「とても良い御方だと私は思いますね」
「それはよぉ知っておる」
扉を開けると中でヘイムとハイネが肩を寄せ合い書類と睨めっこをしていた。そうか今の時間はこれか、とシオンは帰りたくなった。どうしてか、自分は、これが苦手で避けたくなる。
「あっシオン様よくぞお越しになられました」
「またノックせんのかお前は。まぁいいこっちに来い」
素早く背を向けるも目敏く見つけられ観念したシオンは机の向う側に座ることにした。
定期的に行われているこの話合い、男のプロフィールの書かれた書類の束、龍の婿候補たちの。
「ヘイム様ならどの御方も下方婚になられてしまうのがちょっと難しいのですよね」
それにしてもハイネは龍の婿候補の選定だというのにヘイムの個人話をしているようで、そこはまた何かもやもやするものがあるのか、シオンはあまり口には差し挟みたくは無かった。
ヘイムもヘイムで聞かないのなら話は振らないようにしているのもやはり不自然な雰囲気だとシオンは苦々しく思っていた。
本来ならソグ王宮に今も住むヘイムの母君がこういった話の際は前面に出るべきなのだろうが、あの人は娘が龍身となり恐縮し過ぎて今も混乱している。元々そういった感じの心の弱い人ではあったが……
「母上は中央の父上に対してとてつもなく畏敬しておったからな」
身分差があまりにも激しさ故であったがそれでも弱い人だとヘイムは言外にそう言いシオンもそう思ってはいた。
心と身体が弱く今回の件でも体調を崩したまま母親の役割を果たせずに今に到る。
それにヘイムの気性が父親似だというのも一因であり、子供の頃から子に遠慮する母親であったために娘の龍となるものの相手を決めることができない。
「こちらが気を遣わんとならん。母上はそういう人だからな」
その気持ちは分かるが、だからといってその役をハイネに任せるというのは……苦々し気に書類を一枚手に取るとそこにはルーゲンの似顔絵があった。
そっくりではあるが左右の目の大きさが同じであり整ってはいるが、実物を知っているが故に逆に不気味であった。
これは絵師の方が修正をしたのかそれともルーゲン自身の注文か。どちらにせよシオンにはそこに美しさを感じず歪みだけを感じた。
それにしても、と書類を読みながらシオンはこの男の不思議さを改めて思った。最も男というのはどこかみな妙なものではあるが。
宰相の私生児であり少年期からソグ教団に預けられるも、ずば抜けた才能でもって最年少の僧となり教団内で頭角を現しマイラ様に気に入られ、中央とソグの両方の政治交渉でも活躍をしてきた逸材。
内乱勃発後もこちら側につき数々の功績を積み上げ、今はバルツ将軍の一参謀として前線に赴き龍の護軍を前に前にと進め龍を導いている。そう彼は龍を導くものとなるつもりだろう。その目的はまず間違いなくこの。
「シオン様、その報告書は如何でしょうか? ルーゲン師の最新功績ですよ。東西戦線で膠着と後退を繰り返していたムネ将軍とオシリー将軍の軍の同時攻勢に加え、我らが南戦線もそれに合わせて一気も北上して大兵力だった中央軍を敗走させたあれです」
「フフッ興奮しなくても良いですよ。私も知っていますから。あれはルーゲン師が密使として東西戦線に赴いて攻撃時刻を伝えたということですよね。西に行ってから東、と。とんでもない度胸と根性ですね」
そうシアフィル砦から出撃した龍の護軍は北上し、中央南の平原へと向かうもそこは敵側の最終防衛ラインともいえ中央軍も南下しだしていた。
「もとからマイラ卿らと打ち合わせをしていたのでしょうが、成功させたのはお見事以外のなにものでもないでしょう。中央軍側もまさかこんな直前で打ち合わせが済み東西南から同時挟撃をされるとは夢にも思わなかったのが勝因ですけれど」
「ギャンブル要素が強すぎたな。だが成功した、これは事実であり彼らの勇気と健闘に我々の祈りが通じ幸いであったな」
しみじみとヘイムがそう言うと左右の女は深々と頷き感動を再びにした。だがシオンはうずうずとしていた。そんな概要だけではないのだ、と。
実はですね、とは言えないもどかしさでシオンの声は変に甲高くなった。早く手紙を読ませないと、自分が話せない。
「ああっとヘイム様! これ、お手紙です! ジーナからです! どうぞ今すぐお読みください。その、今回のはすごそうなので私にもお見せください」
誰よりも早く読んでいる癖にシオンはきちんとそう言った。うん、とヘイムがその気もなさげに手紙の封を切るとハイネも身を乗り出して覗き込んで来た。
「しっ失礼します」
駄目だと言っても聞かないぐらいの目力のハイネと後ろから読むふりだけのシオンがヘイムの回りに集まった。
「おおそうか。ルーゲンを護衛した隊は第二隊であったのか」
「ジーナの、いえ彼らでないとできない任務ですね」
「やつが真っ先に志願しそうな任務ではあるがよくやったものだ」
密使として東西へいわば潜行する任務を背負ったルーゲンとその脇を固めたジーナと第二隊をヘイムとハイネはすぐに頭の中で思い浮かべた。
「ふむ。今回のはいつものと違ってかなり長いうえに中身も面白いな」
「彼が勉強を続けた成果を感じられますね」
なんだかハイネの声は対抗的だなと抵抗感を覚えながらシオンはずっと読み耽る二人にならい黙っていた。
しばらくの沈黙の後にヘイムは読み終わったのか手紙を読み途中のハイネに渡した。
「なるほど。あやつにしては珍しく手柄話を送ってきたものだな」
「いえ、手柄話って、彼はその、嬉しくてその感動を私達に」
「悪いとは言ってはおらんぞ。珍しいなといっただけだ。ジーナの手紙は自己アピールがまるでないからな。いい天気です、誰だかが良いことしました、良いものを見ました、前線はこんな雰囲気です、果実が美味しいです、とか子供並みの感想。本当にこれが龍の護軍最強の戦士の報告書かと目を疑うのばかりだからな」
ヘイムが苦笑いするとハイネも同じ笑い方をした。
「自己顕示欲が無いのは善いことですよ。それに外国人ですからね見るもの感じるものが全て新鮮なんでしょう」
「観光ではなく戦場でそんな気分になれるのはある意味で頭が一線を超えておるが、今回の件は頭が普通になったといえるだろうな。そこも妙な言い方だが安心したな」
これぐらいやってようやく頭や感性といったものが一般人並になるのかとシオンは冷やりとしたものを感じた。
前々から準備されていたとはいえ、相当の困難が予想されるこのプランを主張し発動させたのは密使となったルーゲンだろうとシオンは確信していた。
東西の戦線に無事に辿り着き計画を説き了解させ最後は自陣地に戻らねばならない……恐ろしいまでの困難さであろうとシオンは息を呑む。
「ここ良いですよね。『私は踏破のアリバの部下であり砂漠越えに失敗したことがないことから、今回の任務も多少高をくくっていました。危険でしたが成功しました』なんて自慢と冗談が混じっていて彼らしくないけどそこが良いって感じで」
アリバ? 聞き覚えがあるがどこの誰だろうとシオンが首を捻るとヘイムとハイネが同じタイミングで見たせいかシオンの足は一歩引いた。
「その反応は忘れたようだな。ほらあれだたまに話していたジーナの故郷のボスで髭もじゃだというやつで」
「西の西の人だったようですね。大きい図体で食べる姿は縮こまっているようで巨大なリスだと言っていました。そうそのアリバさんとジーナは何度も砂漠を越えてこちらに商売に来たようなのでそれに倣ったのでしょう」
ジーナが絡むとやたらと口数が多いなと思うも、まぁ思い詰めてのだんまりよりかはずっと良いとシオンは思い相槌を打った。
「西から東へ行く際に真ん中の草原を横切る際に馬車を使用としたことが踏破ということですね。手紙によると敵の先行部隊に一時目視される距離で遭遇したようですが、無事に切り抜けたとのことで」
「切り抜けられんかったら手紙など書いてはおらんだろうな。文章にするとあっさりしておるが、かなり際どい場面だったろうに」
「そうでしょうね。彼だからこそ出来た上に本陣に戻り次第すぐに手紙に取り掛かりいち早くこちらに知らせることも出せたのでしょう」
そうだろうなとシオンは早馬による戦勝報告の次に来た手紙の類を思い起こし、その中で唯一の前線報告がこれであったことを今更気づいた。
ハイネの言う通りこの早さは休む間もなく書き出したこと以外のなにものでもないと。
「おそらく今頃バルツ将軍やルーゲン師は疲労で参っていることでしょう。そんな中でこれを書けたのは馬鹿みたいに体力がありそうなジーナで」
「そうか。それにしてもこの妾がルーゲンやバルツよりも先に一兵隊の個人的な前線報告を読んで楽しみ真に受けても良いのかえ?」
「ヘイム様だけではありませんって。この私龍の騎士に女官書記と銃後の重要三部門の責任者が熱心に読んでいてひとつのスキャンダルかもしれませんね」
「いえいえ大丈夫ですよ。ジーナは単なる一兵隊ではなくて、その将来の、近衛兵もしくは近衛兵長筆頭ですもの」
なっ! とシオンは冗談を飛ばしていたにも拘らずハイネの言葉を冗談と全く捉えずに固まった。
いま、なんて、言った? あの男を、近衛兵長に? そんな馬鹿な。
「ほぉ……ハイネはあやつをその位に就けたいという意見なのか?」
「私の意見もそうですが客観的に今回の件も含めるのならそれが妥当だとも思われます」
それは駄目だとシオンは無言でまず首を振った。ここまで公私混同かつ見境が無いとは……あぁ眉間の皺が深くなる。
好きな男に高い地位を与え自分の地位と釣り合うようにしそのあとは結婚に持ち込もうとするとは、なんて浅ましい計画だろう。
らしくもない! あの男が絡むとハイネはハイネらしい聡明さを失ってしまうのもシオンには腹立たしく、堪え切れずに嘆息及び文句が出た。
「私は反対ですからねハイネ」
封を切り手紙を開くと始まるいつもの出だしの一文からシオンは読みだした。ここのところすこぶる面白いのがこのジーナの報告文である。
まず、私が読む、それは、正しいことである、とシオンはむにゃむにゃ口の中で呟きながら隅から隅を読み返す。
今回も異常なし、ともはや何を警戒しているのか分からない上にもしかして盗み読みというスリルを味わっているのか、どっちが目的なのかを見失っているもののシオンはその度に誰に向かってなのかこう思い呟く。
いまさら、やめられないのよ。
ということで手紙に再び封を施し執務室を経てヘイムの部屋に、龍の部屋へと向かった。ここはソグの龍の館。
冬が過ぎ春が来ようとしていると窓辺から見える新緑を眺めながらシオンは歩きヘイムの部屋へとこっそり入っていった。
シアルフィ砦からここに帰ってきてしばらくが経つのだなと移り変わる景色によってシオンは感慨を深めた。
「とても良い御方だと私は思いますね」
「それはよぉ知っておる」
扉を開けると中でヘイムとハイネが肩を寄せ合い書類と睨めっこをしていた。そうか今の時間はこれか、とシオンは帰りたくなった。どうしてか、自分は、これが苦手で避けたくなる。
「あっシオン様よくぞお越しになられました」
「またノックせんのかお前は。まぁいいこっちに来い」
素早く背を向けるも目敏く見つけられ観念したシオンは机の向う側に座ることにした。
定期的に行われているこの話合い、男のプロフィールの書かれた書類の束、龍の婿候補たちの。
「ヘイム様ならどの御方も下方婚になられてしまうのがちょっと難しいのですよね」
それにしてもハイネは龍の婿候補の選定だというのにヘイムの個人話をしているようで、そこはまた何かもやもやするものがあるのか、シオンはあまり口には差し挟みたくは無かった。
ヘイムもヘイムで聞かないのなら話は振らないようにしているのもやはり不自然な雰囲気だとシオンは苦々しく思っていた。
本来ならソグ王宮に今も住むヘイムの母君がこういった話の際は前面に出るべきなのだろうが、あの人は娘が龍身となり恐縮し過ぎて今も混乱している。元々そういった感じの心の弱い人ではあったが……
「母上は中央の父上に対してとてつもなく畏敬しておったからな」
身分差があまりにも激しさ故であったがそれでも弱い人だとヘイムは言外にそう言いシオンもそう思ってはいた。
心と身体が弱く今回の件でも体調を崩したまま母親の役割を果たせずに今に到る。
それにヘイムの気性が父親似だというのも一因であり、子供の頃から子に遠慮する母親であったために娘の龍となるものの相手を決めることができない。
「こちらが気を遣わんとならん。母上はそういう人だからな」
その気持ちは分かるが、だからといってその役をハイネに任せるというのは……苦々し気に書類を一枚手に取るとそこにはルーゲンの似顔絵があった。
そっくりではあるが左右の目の大きさが同じであり整ってはいるが、実物を知っているが故に逆に不気味であった。
これは絵師の方が修正をしたのかそれともルーゲン自身の注文か。どちらにせよシオンにはそこに美しさを感じず歪みだけを感じた。
それにしても、と書類を読みながらシオンはこの男の不思議さを改めて思った。最も男というのはどこかみな妙なものではあるが。
宰相の私生児であり少年期からソグ教団に預けられるも、ずば抜けた才能でもって最年少の僧となり教団内で頭角を現しマイラ様に気に入られ、中央とソグの両方の政治交渉でも活躍をしてきた逸材。
内乱勃発後もこちら側につき数々の功績を積み上げ、今はバルツ将軍の一参謀として前線に赴き龍の護軍を前に前にと進め龍を導いている。そう彼は龍を導くものとなるつもりだろう。その目的はまず間違いなくこの。
「シオン様、その報告書は如何でしょうか? ルーゲン師の最新功績ですよ。東西戦線で膠着と後退を繰り返していたムネ将軍とオシリー将軍の軍の同時攻勢に加え、我らが南戦線もそれに合わせて一気も北上して大兵力だった中央軍を敗走させたあれです」
「フフッ興奮しなくても良いですよ。私も知っていますから。あれはルーゲン師が密使として東西戦線に赴いて攻撃時刻を伝えたということですよね。西に行ってから東、と。とんでもない度胸と根性ですね」
そうシアフィル砦から出撃した龍の護軍は北上し、中央南の平原へと向かうもそこは敵側の最終防衛ラインともいえ中央軍も南下しだしていた。
「もとからマイラ卿らと打ち合わせをしていたのでしょうが、成功させたのはお見事以外のなにものでもないでしょう。中央軍側もまさかこんな直前で打ち合わせが済み東西南から同時挟撃をされるとは夢にも思わなかったのが勝因ですけれど」
「ギャンブル要素が強すぎたな。だが成功した、これは事実であり彼らの勇気と健闘に我々の祈りが通じ幸いであったな」
しみじみとヘイムがそう言うと左右の女は深々と頷き感動を再びにした。だがシオンはうずうずとしていた。そんな概要だけではないのだ、と。
実はですね、とは言えないもどかしさでシオンの声は変に甲高くなった。早く手紙を読ませないと、自分が話せない。
「ああっとヘイム様! これ、お手紙です! ジーナからです! どうぞ今すぐお読みください。その、今回のはすごそうなので私にもお見せください」
誰よりも早く読んでいる癖にシオンはきちんとそう言った。うん、とヘイムがその気もなさげに手紙の封を切るとハイネも身を乗り出して覗き込んで来た。
「しっ失礼します」
駄目だと言っても聞かないぐらいの目力のハイネと後ろから読むふりだけのシオンがヘイムの回りに集まった。
「おおそうか。ルーゲンを護衛した隊は第二隊であったのか」
「ジーナの、いえ彼らでないとできない任務ですね」
「やつが真っ先に志願しそうな任務ではあるがよくやったものだ」
密使として東西へいわば潜行する任務を背負ったルーゲンとその脇を固めたジーナと第二隊をヘイムとハイネはすぐに頭の中で思い浮かべた。
「ふむ。今回のはいつものと違ってかなり長いうえに中身も面白いな」
「彼が勉強を続けた成果を感じられますね」
なんだかハイネの声は対抗的だなと抵抗感を覚えながらシオンはずっと読み耽る二人にならい黙っていた。
しばらくの沈黙の後にヘイムは読み終わったのか手紙を読み途中のハイネに渡した。
「なるほど。あやつにしては珍しく手柄話を送ってきたものだな」
「いえ、手柄話って、彼はその、嬉しくてその感動を私達に」
「悪いとは言ってはおらんぞ。珍しいなといっただけだ。ジーナの手紙は自己アピールがまるでないからな。いい天気です、誰だかが良いことしました、良いものを見ました、前線はこんな雰囲気です、果実が美味しいです、とか子供並みの感想。本当にこれが龍の護軍最強の戦士の報告書かと目を疑うのばかりだからな」
ヘイムが苦笑いするとハイネも同じ笑い方をした。
「自己顕示欲が無いのは善いことですよ。それに外国人ですからね見るもの感じるものが全て新鮮なんでしょう」
「観光ではなく戦場でそんな気分になれるのはある意味で頭が一線を超えておるが、今回の件は頭が普通になったといえるだろうな。そこも妙な言い方だが安心したな」
これぐらいやってようやく頭や感性といったものが一般人並になるのかとシオンは冷やりとしたものを感じた。
前々から準備されていたとはいえ、相当の困難が予想されるこのプランを主張し発動させたのは密使となったルーゲンだろうとシオンは確信していた。
東西の戦線に無事に辿り着き計画を説き了解させ最後は自陣地に戻らねばならない……恐ろしいまでの困難さであろうとシオンは息を呑む。
「ここ良いですよね。『私は踏破のアリバの部下であり砂漠越えに失敗したことがないことから、今回の任務も多少高をくくっていました。危険でしたが成功しました』なんて自慢と冗談が混じっていて彼らしくないけどそこが良いって感じで」
アリバ? 聞き覚えがあるがどこの誰だろうとシオンが首を捻るとヘイムとハイネが同じタイミングで見たせいかシオンの足は一歩引いた。
「その反応は忘れたようだな。ほらあれだたまに話していたジーナの故郷のボスで髭もじゃだというやつで」
「西の西の人だったようですね。大きい図体で食べる姿は縮こまっているようで巨大なリスだと言っていました。そうそのアリバさんとジーナは何度も砂漠を越えてこちらに商売に来たようなのでそれに倣ったのでしょう」
ジーナが絡むとやたらと口数が多いなと思うも、まぁ思い詰めてのだんまりよりかはずっと良いとシオンは思い相槌を打った。
「西から東へ行く際に真ん中の草原を横切る際に馬車を使用としたことが踏破ということですね。手紙によると敵の先行部隊に一時目視される距離で遭遇したようですが、無事に切り抜けたとのことで」
「切り抜けられんかったら手紙など書いてはおらんだろうな。文章にするとあっさりしておるが、かなり際どい場面だったろうに」
「そうでしょうね。彼だからこそ出来た上に本陣に戻り次第すぐに手紙に取り掛かりいち早くこちらに知らせることも出せたのでしょう」
そうだろうなとシオンは早馬による戦勝報告の次に来た手紙の類を思い起こし、その中で唯一の前線報告がこれであったことを今更気づいた。
ハイネの言う通りこの早さは休む間もなく書き出したこと以外のなにものでもないと。
「おそらく今頃バルツ将軍やルーゲン師は疲労で参っていることでしょう。そんな中でこれを書けたのは馬鹿みたいに体力がありそうなジーナで」
「そうか。それにしてもこの妾がルーゲンやバルツよりも先に一兵隊の個人的な前線報告を読んで楽しみ真に受けても良いのかえ?」
「ヘイム様だけではありませんって。この私龍の騎士に女官書記と銃後の重要三部門の責任者が熱心に読んでいてひとつのスキャンダルかもしれませんね」
「いえいえ大丈夫ですよ。ジーナは単なる一兵隊ではなくて、その将来の、近衛兵もしくは近衛兵長筆頭ですもの」
なっ! とシオンは冗談を飛ばしていたにも拘らずハイネの言葉を冗談と全く捉えずに固まった。
いま、なんて、言った? あの男を、近衛兵長に? そんな馬鹿な。
「ほぉ……ハイネはあやつをその位に就けたいという意見なのか?」
「私の意見もそうですが客観的に今回の件も含めるのならそれが妥当だとも思われます」
それは駄目だとシオンは無言でまず首を振った。ここまで公私混同かつ見境が無いとは……あぁ眉間の皺が深くなる。
好きな男に高い地位を与え自分の地位と釣り合うようにしそのあとは結婚に持ち込もうとするとは、なんて浅ましい計画だろう。
らしくもない! あの男が絡むとハイネはハイネらしい聡明さを失ってしまうのもシオンには腹立たしく、堪え切れずに嘆息及び文句が出た。
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