龍を討つもの、龍となるもの

かみやなおあき

文字の大きさ
213 / 313
第3部 私達でなければならない

マイラとの会談

しおりを挟む
「お前が龍を導くものとなることは確実だろうな」

 遂に待ちに待ち続けた言葉を聞いたルーゲンは涙が、出なかった。むしろ止めた。

 それはまだ早い。

 一つの可能性が開けたに過ぎないのだと自分に言いきかせる。

 打ち合わせとしてルーゲンはマイラ卿と中央周辺の街で会うこととなっていたが、この話が出る予感はあった。

 大切な話があるとマイラ卿からの手紙の一文はこれのことだとルーゲンは予想した。

 そうであるからそれを読んだその時からここまでずっと、自己抑制に努めた。

 その言葉を戴いたとしても感情を出すな。出してはならないのだと。

 私情を漏らすな、それは導くものとして相応しくないものだ。

 龍となるものも選ばれたその時は感激などしたりはしない。厳粛な面持ちでこれから待ち受ける重圧に怯え震えながら受諾するものだ。

 龍の騎士だってそう。偉大なる使命を背負うことに対し喜びよりも苦しみの方が勝る。

 使命とはそういうものであり求めるものではない。

 いつの間にか降され高貴なる義務に生きるものとなるのだ……と何度ルーゲンは思い心に決めたか分からなかった。

 ここでもそれが成功し自制心が勝ったと思いつつその口を開こうとする、と涙が一滴落ちたことが自分でもわかった。

 慌てて拭うと、指先は濡れてはいなかった。すぐに乾いた? そうではなく勘違い? まぼろし?

 マイラ卿がこちらを見ていることにここでやっと気づきルーゲンは後悔をした。瞼など擦らなければよかったと。

「涙か?」

 マイラが不思議そうに尋ねた。やはり流れてなどいなかったのだ。

「いえ目にゴミが」

「フフッ古典的過ぎるぞ。まっお前も散々苦労したのだから今までのことを思い出して泣くのも良いだろうな。そういう場合で泣くのもまた男だ。苦労が報われたということだからな」

「報わられるために命を賭けてきたわけではありません。全ては龍のために」

「高僧ルーゲン師としては完璧な受け答えだな。だが俺の眼は大分お見通しだぞなぁルーゲン」

 マイラが悪戯っぽく笑顔を向けてきた。これからきっと驚かせてくれるのだろうなとルーゲンは察した。

 この人はこうやって人を驚かせるのが好きな人だから。

「逃亡中だったあの大臣とその長男は自決したぞ」

「……そうなりましたか」

 そうだろうな、とルーゲンは思いながら興味なさげに返事をすると、マイラの笑みは濃く深くなった。

「笑っているぞルーゲン」

 言われて今度は口に手を当てるも口は広がっていないし目尻も垂れてはいない。

「眼が笑っているとでも言われるのですか?」

「そんな意地の悪い読み方などしない。そもそもお前は笑っていなかった。ちなみにさっきは俺は涙など見てはいない。仕草で勝手そう判断して境遇でそう言ってみただけだお前はあまりそういった感情を表に出さないからな」

 そんなことは、とルーゲンは言う前にマイラはそれを制した。

「いやいや言いたいことは分かってる。お前は不愛想ではなく常に微笑みと温かな眼差しで人に接している。だが俺はそれは内なるものを隠すためのものだと見ている。言っておくがこれは悪いことではないしその内容を俺に打ち明けなくてもいい。内に秘めているものがないぐらい空っぽなものなら悲しいしな。けれども俺はお前をそういうものだと見ている、とこれは俺からの打ち明け話だ。これから国政に関わる新たな相棒としてな」

 隠し事をしていることを知っている、か。こういうところはやはりこの人には敵わないなとルーゲンは長い息を吐いた。

「するとマイラ卿はこういう場合になったら歓喜の涙を流し雄叫びをあげれば良いとでも」

「俺は許す、がそれはルーゲン師は許さないのだろうな。お前はソグの高僧ルーゲン師という存在になりきり、そして龍を導くものとなる」

 そうですとルーゲンは心中で同意した。選ばれず私生児として僧院に預けられたものからそういうものとなる。

 自分の人生とはそういうものであり、そうでなければならなかった。自分でなければならなかった。

 あの日に自分は龍と会ったあの時から、死の淵に落ち行くあの一人の皇女に龍が宿ったその時から……

「お前ならなれる。俺は誰よりも賛成する、とにかくおめでとう」

 肩を叩きマイラは机の上に置かれた杯を呷りルーゲンも倣った。

「その龍を導くものは、龍の婿となるに相応しいですよね?」

 ルーゲンは深く踏み込んでみた。その反応が見たかった、仕返しともいえるもの、期待通りにマイラの顔が強張る。

「……俺はそう思う」

「すると思わない人もいる、ということでしょうか?」

「そうだな」

 杯を机の上に置くとマイラは重い雰囲気を放ちだす。一種の二重人格的なところがあるなとルーゲンはこれを見るたびに思った。

「こちらには色々な報告や噂が届く。例えばお前が龍身様との仲が良くなっているといった話とかがな」

「僕などにお目をかけて戴き光栄であります」

「いつもの謙遜だな。まぁそれは事実だとしてもだ、実は龍身様と最も近いところから、とあるしかるべきところからはそういう報告は来ていないのだ」

 しかるべきところ……ああシオン嬢の隠語だとルーゲンはすぐに察すると共に同情もした。

 この人は婚約者には滑稽なぐらい腰砕けで弱いというのがこれまたおかしなところで。

「そのしかるべきところからは、こと詳細な報告がいつも届かれるのでしょうか?」

「あれは筆まめだからな。かなりの長文がこちらに届く。そうであるからそこの欠落が気になってな」

「……こうもう申しては何ですが龍の婿とそのしかるべきところはどのような関係があるのでしょうか? 龍となるものは自分の相手は自ら選ぶのが慣例となっていますけれど」

「いつも、ならな。だが今回の龍のケースは通常とは違う。これはお前が龍の一族の一員となる可能性があるから言うが、あのヘイムの……」

 誰の名だ? とルーゲンは首を捻るとマイラが言い直した。

「あっ間違えた……気にするな。そう龍身様の話だ。結論から言うと今回の婿の件はそのしかるべきところとの合意が無いと婚姻は事実上不可能だ。しかるべきところの母親と龍身様の叔母は同一人物であり両者は親戚関係。もちろんそれだけではない。その叔母が父親が亡き後の龍身様の後見人となっていてな」

 何故母親がそうならなかったかとはマイラは言わずともルーゲンは重々承知であった。

 地方貴族の令嬢が中央に上京した際に見初められ……という陳腐な話をする必要もないし聞くこともないだろう。

「たしかその叔母上はあのソグ撤退作戦時に別れられましたね。見事な最期であったと」

「そうだ。砦の一室に残り時間を稼いでくれたという、実にあの人らしいと聞いた時は納得したものだ。その別れ際に後見人の権利をそのしかるべきところに全て預け託したとのことだ。一応表向きは俺が後見人面をしているが肝心なところは向うが何もかもを有している。お前ならソグの婚礼に関する風習を知っているだろう?」

 ルーゲンは記憶の片隅にそれがあることを思い出した。

 ソグの習慣では娘の婚姻は後見人の同意が絶対に必要となる、と聞いたことがあると。

 いまでは半ば形骸化されているもののそうか貴族間ではまだそれが強固に残っているのか、とルーゲンは息苦しくなった。

「事情が事情で、あのようなことをしてくださった後見人の権限は神聖にして不可侵だ。こちらとしてもそれを最大限に尊重しなければならない。それにしてもなぁルーゲン」

 雰囲気はより重く暗さも増した。シオン嬢のことが絡むと憂いがここまで深くなるとは、とルーゲンも引き摺られてか身体に重力を感じた。重々しさが両肩にかかる。

「なにか原因があって嫌われたりしたのか? 俺が見る限り可もなく不可もなくといった関係にしか見えなかったが。しかもあれはお前みたいなタイプを毛嫌いするものでもないのだがな」

 最後の障害が彼女とは……まさかこのような関係になるとは、とルーゲンは空咳を一つして身を軽くしようとした。

「あの方は仲の良い知り合いが自分から少しでも離れることを凄く嫌がるタイプだと僕は見ております」

「全く以てその通りだな」

 マイラは深く頷いた。

「そうであるので龍身様に近づき婿になろうと画策している男を嫌うのは道理ではございますね」

「道理だな」

 苦笑いしマイラは溜息をついた。

「そんなことだとは思っていたが、私情がいつまでたっても抜けきれないのもまことにあれらしい。ただの講師であった頃は何も問題が無かったからな。ルーゲンには問題は無く問題はあちら、と。しかし理由は簡単だが、根本的に解決しないなこれは」

「時間が解決してくれるかと僕は思います。それはつまり龍化さえ進めば龍の意思には抗いようが無くなるかと」

「うむ、そうかもしれないな。いま両者は意思の力が均衡した状態であり、反対の力は弱まりはすれ強くはならないだろう。何より他にルーゲン以外の候補はどこにもいない、この一点で決まりだろうしな」

 他の男の候補、と聞くとルーゲンの頭の中は一人の男の顔が浮かんだ……

「あのマイラ卿。お手紙にはジーナという名は書かれておりますか?」

 こんなことを聞いてどうするのか? と思いつつもルーゲンは尋ねた。緊張感が身体中を駆け巡る。

「ああ書いているぞ。例の龍の護衛の男だろう。何でも近々復帰するとのことじゃないか」

 もう既にマイラ卿に話をつけておりここからひっくり返すことは無理だなとマイラは理解した。

「俺は遠目から見ただけだが戦場の英雄で武骨そのもののようでいるが、彼女の手紙だと中々妙なユーモアを発揮する変な男らしいな。あれに新しい男の友達ができて俺は少しほっとした思いだ」

 自分に圧し掛かる重さの比重がそのぶん減るとでもいうのだろうか? 元気過ぎる妻がいる男の気持ちはよくわからないなとルーゲンは思った。

「そんなことを聞いて来てどうした? 気になるのか?」

 気になる? ルーゲンは気にならないと答えようとすると、どこかから恐怖が湧いてきた。

 そうではない、と指摘されたら、なにか仕草による合図が出たら、それは事実になってしまうのでは?

 そもそも気にしていないと答えることに、何故抵抗があるのか……

「はい、気になりますね。彼とハイネ嬢がとても仲が良くてです。もしかしたらそのことを書かれているかと思って」

「おっそうなのか。ちっとも重なりも交わりを感じさせない組み合わせだな。彼女も趣味を変えたのか? ちと変わりすぎだか、いや、そのことは手紙には書かれていないな」

「そうでしたか。ここだけの話あの御方はその二人の交際も反対し認めていないどころか妨害もしているようでして」

「なんということだ。しょうがないやつだな。その二人はそれに対してどうしている?」

「抵抗し頑張っております」

 ルーゲンがそう言うとマイラが笑った。今日一番の音量で楽しげに。

「それはそれはやるじゃないか。あれに抗うとはかなりの仲にまで発展していそうだな」

「お一人を除き誰もが認める相思相愛というところでしょう」

「素晴らしい。しかるべきところが反対しようが俺は賛成するとしよう。あのハイネ嬢もようやく落ち着くということか。しかしあの彼女がそういったタイプとな、意外だったが上手くいくといいが」

「正反対同士の方が上手くいくという例かもしれません」

 正反対の? 自分の言葉であるのにルーゲンはすぐに否定したくなった。正反対同士であるから引かれ合うなどそれは作り話だと。

「そうか? あまりに違うとさすがに上手くはいかないとは思うがな」

「僕も、そう思います」

 そうでなければ困るのだ。

「おいおいお前はどっちなんだ。まぁ自分の言葉を否定しないとそちらの関係も良くは無いだろしな。昔はともかくとして龍身様となられてからは落ち着いて至極大人しくなったものだ。まだシオンとは昔のようにふざけあいじゃれついてはいるが公務については至極真面目でそこは誰も心配はしないほどだ。繰り返すが昔なら考えられないほどにな。そういう御方であるのだからルーゲンと傾向がぴったりであり問題は無いだろう」

 ありがたい言葉だとルーゲンは感謝の言葉をそのまま述べた。そう、不安要素などない。

 龍化が進んだことによって導師と呼ばれだしこちらに向き合い出している。あの日の言葉と約束通り。

 あの時に龍は言ったのだ。お前は導くものであると。その約束はこれから果たされていく、間違いなく。

「聞き忘れていたが龍身様とそのジーナの関係はルーゲンはどう見る?」

「えっ?」

 大きな声と共に心も漏れだし、すると突発的にルーゲンは怒りを覚えた。

 それは眼の前にいて質問してきたマイラにではなく、自分の心を瞬間的にでも剥き出しにした、その存在に。

「あっはい。龍身様とジーナの関係は問題ありません。龍身様もジーナの冗談やカルチャーギャップを楽しまれておりますし」

 微笑みながらそう答える前にマイラの表情は怯みがあったが、すぐに戻る、今のは見間違えであると判断したのだろうか。

「シオン同様に面白がっているのなら良かった。なら安泰だな」

 安泰? いいえもう彼は……使命を果たしました……あの中央の中心において、彼はもはや……

「そうですね。ですけれどもマイラ卿。ジーナは……」

 ルーゲンは今日初めて笑顔をマイラに見せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...