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第3部 私達でなければならない
キルシュの画策
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花はまだ咲かない。
「あたり前じゃないですか。植えて都合よくすぐに開花したらおかしいですって」
でもこれでいいのか? こう到着したその日に開くようにするとか。
「季節を考えてくださいよ。時季がずれています。花が開くとしたら来月あたりですかね」
蕾のまま、出迎える。
「ええ蕾で、です。いいじゃないですか、いまだ開かず実らずに歓迎するなんて。いまのあの人らしいですよ」
ヘイム様がまだ蕾であるとしたら、その開花とは……
「ああそっか。今気づきましたけどそう連想すると丁度いいですね。あの人の儀式も来月以降でしょうし」
そことの連想はしたくはない。別々にしたい。
「そう言われましてもねぇ。もう頭の中ではその二つは結びついちゃったから無理ですよ。しかしどうしました? 到着したその日に見せたいとか?」
こんなに頑張ったのだからな。そういう歓迎もありじゃないか?
「へぇ……意外なことを言いますね。あなたがそう言うだなんて思いもしませんでしたよ。ふーんそうかそうか、そうやって喜ばせたかった……そうですよねジーナ。あなたは頑張っていましたよね。一生懸命にあの人の為に……健気なことです」
そういえばハイネ、さっきからあの人あの人とか言っているが、どうした? 名前でもど忘れをしたのか?
「そっそれはジーナが龍身様って言わないから。あなただって私と同じじゃないないですか」
私のは始めからそうだったし変えてなどいないが、ハイネのは途中で呼び方を変えたし、最近だと一度もきちんと名前を呼ばなくて……
「うるさいですよ。私がなんて呼ぼうが、勝手じゃありませんか。なにそれ? 私のこと監視でもしているのです? なんです? それだけのことで私がすごく悪いことでもしているような言い方、やめて貰えません? 変なことに拘って、馬鹿じゃない? 私帰ります、後片付けしといてくださいよ」
箒であたりを掃きながらジーナはさっきまでの会話を思い起こしていた。そういえば喧嘩をしたのだな、と。
走るように逃げ階段を向かって行ったハイネの後姿を見ながら漠然とそう思うも、のちになって論点がなんであるのか考え込んだ。
あの女はいったいなにについて怒ったのか?と。 男にとっての難問がきた。
花の開花期すら分からない無知を? そうじゃない。歓迎について話したから? そうでもない。名前のど忘れを指摘したから……これだ、と握った右手で以って左掌を上から叩いた。良い音がした。
ハイネは才女であり頭の良さを常々鼻にかけているぐらいだから、こんな頭の悪い男からそんな指摘をされたら怒りもしよう、とジーナは理由を悟ったために気が楽になった。
そんなことならすぐに解決するだろう。あの怒りは恥ずかしさから来たものであり、あちらが悪いのだ。だから時間が経てば向うの気が収まる。
しかしあれから数日、ハイネはこの龍の休憩所には来ていない。
「隊長、マジでそれ言ってんの?」
キルシュが薔薇に水をやりながらそう聞いてきた。
代理、というか本来この仕事をするキルシュがやってきてポツリと聞いてきた。
この間さ、あの子となにかあったの?と。その理由について教えると何故か呆れ顔となり、聞いた。
「うん? 本当にそれを言っているんだが、間違いなのか?」
キルシュの大きな三白眼は瞬きを何度かした後に細目となった。
「うーーん……あたしからは何とも言えないなぁ。ほらあたしはハイネではないしさ。それと同じで隊長もハイネの心を勝手に推察して一人合点で結論をだすことは、間違いだと思うな」
「それもそうだな。だいたい物事というものは私の間違いで起こりがちだしな。そのハイネだが、どうしたんだ? 怒っているのか? 忙しいのか? 会わないことにはなにも進まないのだが」
「まぁ全部だろうね。パレードと歓迎の打ち合わせがあってそっちに拘束されちゃってさ、あたしもろくに話もしていない状態なんだけど、隊長はパレードのことが頭が一杯で毎日そのことを話していなかった?」
「ああ話していたな。でも今の状況だったらそれなりにその話をするだろう?」
それもそうだけど、とキルシュは急に黙って何やら考え出したようだった。
ついに龍が中央に帰還する、と報告を受けてから城内も城外も上も下も浮き足立って様々なことをしだしていた。
軍もそうであったが、ジーナはそこから外れてこの龍の休憩所にだけ来て作業をする。
おそらくは一人だけだろうな、と作業中もいまも考える。違う意味で龍を歓迎し、そしてもう一つの歓迎を用意しているものなどは。
「隊長は当日に仕事はあるんでしょ?」
「いや、ない。隊にはあるがそちらはノイスが指揮を執ることになった。むしろこう命令された、龍の護衛としてのお出迎えの準備と待機をしろと。だからパレード当日もここにいるつもりでな」
「ふーんそっかそっか……ふぅむ」
また黙って考え出したキルシュを尻目に見ながらジーナは嫌な予感を覚えた。
女が、長考しだすとだいたい変なことが起こりがちだ、と。
何か言い出したら断る方向で、その方向で、と念じているとキルシュが頷いているのが見えた。
何を思いついたんだ? ジーナの胸騒ぎは治まらないままキルシュが近づいてきた。
「あのさ隊長。お願いがあるんだけどさ」
「駄目だ」
「何も言ってないじゃん。お願い聞いてよ」
「また、私のことを騙すのだろう? ここの作業を紹介した時のように」
キルシュの三白眼が左右に泳いだ。なんともわかりやすい。
「そんな、騙したりなんて、しないよ」
「眼がすごい泳いでいたけど」
「そんなの泳いだだけだし、なんだっていうの? 隊長はあたしの話を聞かずに嘘つき扱いするの? それは酷くない? 隊長はそんな人じゃないでしょ?」
「嘘つき……まぁ話を聞かずに断るのもおかしいな。じゃあ一応話だけでも」
何とも弱いなと自らに呆れるとキルシュは笑顔に戻った。
「嬉しい。じゃあこれで決定ね。あのさブリアンの近衛兵姿を見に行こうよ」
「何が決定だか。一人で行けばいいじゃないか」
「あのさ、こんなの言わせないでよ。酷いね恥をかかせてさ。ほらあたしは背が低いじゃない。だから見れないんだよ」
さっきから言葉の順序を意図的にずらしてこちらに加害者感を植え付けていないか? とジーナはなんだか不気味になってきた。何故そこまで?
「最前列に行けばいいのでは?」
「またあたしに恥をかかせたね。見なよあたしのこの体格。小さくて細くてさ。人波なんか掻き分けられないし弾き飛ばされちゃうんだ。隊長はそんな恵まれた身体をして、しかも男で強いオーラが出ているからそんなこと簡単に言えて、人の心が分からないんだ。だからそうやって無意識に人を傷つけて苦しめて」
「落ち着けオーバー過ぎる。そうやってこっちの意図しないことを言葉にされるとなんだかそう考えていたみたいな気分になって嫌だ。これはきっと良いよというまで続くんだろうから、分かった分かった。じゃあブリアンの晴れ姿を見に行くとするよ」
「ありがとう! やっぱり隊長は偉いし親切な人さ。いやあ良かったよ。ほら知り合いの男達は兵隊で仕事するし半ば空いているのが隊長だけだったからさ。これでもう大丈夫、そうさ隊長にもきっと良いことあるよ、じゃあまた明日正門でね」
良いこと? 分かったこれは罠だなと直観したジーナは逃げようとするキルシュを呼び止める。
「ちょっと待て……あの、本当に二人でブリアンの近衛兵姿を身に行くだけだよな」
立ち止まるキルシュは振り返らずに背中越しで、答えた。
「どういう疑いがあるのさ?」
無いが疑わしい、としかジーナは答えられなかった。
「説明になっていないよ。だからどういう疑いがあるのさ?」
「あるとしたら待ち合わせ場所に何故かハイネがいてキルシュが代理だと言われて」
「代理を使う理由がないさ。あたしがブリアンを見たいのになんであの子が代わりに見なきゃならないのさ。絶対に待ち合わせにはあたしがいるから安心して。それと、こうなったからにはこれはあたしの名誉に関わることになったんで、明日休むことは許されないよ。いいね、隊長」
キルシュの背中がどうしてか大きく見え圧倒されたのかジーナは頷くと、後ろに目があるようなタイミングで無言で階段を降りていくなか、どこからか小さな声が風に乗って流れてきた。
「二人ともまったく、あたしがこうしないとどうしようもないさ」
いまのは、と聞くにはあまりにも遠くにキルシュはいつの間にか去っており、ジーナは覚悟しながら当日を待った。
「あたり前じゃないですか。植えて都合よくすぐに開花したらおかしいですって」
でもこれでいいのか? こう到着したその日に開くようにするとか。
「季節を考えてくださいよ。時季がずれています。花が開くとしたら来月あたりですかね」
蕾のまま、出迎える。
「ええ蕾で、です。いいじゃないですか、いまだ開かず実らずに歓迎するなんて。いまのあの人らしいですよ」
ヘイム様がまだ蕾であるとしたら、その開花とは……
「ああそっか。今気づきましたけどそう連想すると丁度いいですね。あの人の儀式も来月以降でしょうし」
そことの連想はしたくはない。別々にしたい。
「そう言われましてもねぇ。もう頭の中ではその二つは結びついちゃったから無理ですよ。しかしどうしました? 到着したその日に見せたいとか?」
こんなに頑張ったのだからな。そういう歓迎もありじゃないか?
「へぇ……意外なことを言いますね。あなたがそう言うだなんて思いもしませんでしたよ。ふーんそうかそうか、そうやって喜ばせたかった……そうですよねジーナ。あなたは頑張っていましたよね。一生懸命にあの人の為に……健気なことです」
そういえばハイネ、さっきからあの人あの人とか言っているが、どうした? 名前でもど忘れをしたのか?
「そっそれはジーナが龍身様って言わないから。あなただって私と同じじゃないないですか」
私のは始めからそうだったし変えてなどいないが、ハイネのは途中で呼び方を変えたし、最近だと一度もきちんと名前を呼ばなくて……
「うるさいですよ。私がなんて呼ぼうが、勝手じゃありませんか。なにそれ? 私のこと監視でもしているのです? なんです? それだけのことで私がすごく悪いことでもしているような言い方、やめて貰えません? 変なことに拘って、馬鹿じゃない? 私帰ります、後片付けしといてくださいよ」
箒であたりを掃きながらジーナはさっきまでの会話を思い起こしていた。そういえば喧嘩をしたのだな、と。
走るように逃げ階段を向かって行ったハイネの後姿を見ながら漠然とそう思うも、のちになって論点がなんであるのか考え込んだ。
あの女はいったいなにについて怒ったのか?と。 男にとっての難問がきた。
花の開花期すら分からない無知を? そうじゃない。歓迎について話したから? そうでもない。名前のど忘れを指摘したから……これだ、と握った右手で以って左掌を上から叩いた。良い音がした。
ハイネは才女であり頭の良さを常々鼻にかけているぐらいだから、こんな頭の悪い男からそんな指摘をされたら怒りもしよう、とジーナは理由を悟ったために気が楽になった。
そんなことならすぐに解決するだろう。あの怒りは恥ずかしさから来たものであり、あちらが悪いのだ。だから時間が経てば向うの気が収まる。
しかしあれから数日、ハイネはこの龍の休憩所には来ていない。
「隊長、マジでそれ言ってんの?」
キルシュが薔薇に水をやりながらそう聞いてきた。
代理、というか本来この仕事をするキルシュがやってきてポツリと聞いてきた。
この間さ、あの子となにかあったの?と。その理由について教えると何故か呆れ顔となり、聞いた。
「うん? 本当にそれを言っているんだが、間違いなのか?」
キルシュの大きな三白眼は瞬きを何度かした後に細目となった。
「うーーん……あたしからは何とも言えないなぁ。ほらあたしはハイネではないしさ。それと同じで隊長もハイネの心を勝手に推察して一人合点で結論をだすことは、間違いだと思うな」
「それもそうだな。だいたい物事というものは私の間違いで起こりがちだしな。そのハイネだが、どうしたんだ? 怒っているのか? 忙しいのか? 会わないことにはなにも進まないのだが」
「まぁ全部だろうね。パレードと歓迎の打ち合わせがあってそっちに拘束されちゃってさ、あたしもろくに話もしていない状態なんだけど、隊長はパレードのことが頭が一杯で毎日そのことを話していなかった?」
「ああ話していたな。でも今の状況だったらそれなりにその話をするだろう?」
それもそうだけど、とキルシュは急に黙って何やら考え出したようだった。
ついに龍が中央に帰還する、と報告を受けてから城内も城外も上も下も浮き足立って様々なことをしだしていた。
軍もそうであったが、ジーナはそこから外れてこの龍の休憩所にだけ来て作業をする。
おそらくは一人だけだろうな、と作業中もいまも考える。違う意味で龍を歓迎し、そしてもう一つの歓迎を用意しているものなどは。
「隊長は当日に仕事はあるんでしょ?」
「いや、ない。隊にはあるがそちらはノイスが指揮を執ることになった。むしろこう命令された、龍の護衛としてのお出迎えの準備と待機をしろと。だからパレード当日もここにいるつもりでな」
「ふーんそっかそっか……ふぅむ」
また黙って考え出したキルシュを尻目に見ながらジーナは嫌な予感を覚えた。
女が、長考しだすとだいたい変なことが起こりがちだ、と。
何か言い出したら断る方向で、その方向で、と念じているとキルシュが頷いているのが見えた。
何を思いついたんだ? ジーナの胸騒ぎは治まらないままキルシュが近づいてきた。
「あのさ隊長。お願いがあるんだけどさ」
「駄目だ」
「何も言ってないじゃん。お願い聞いてよ」
「また、私のことを騙すのだろう? ここの作業を紹介した時のように」
キルシュの三白眼が左右に泳いだ。なんともわかりやすい。
「そんな、騙したりなんて、しないよ」
「眼がすごい泳いでいたけど」
「そんなの泳いだだけだし、なんだっていうの? 隊長はあたしの話を聞かずに嘘つき扱いするの? それは酷くない? 隊長はそんな人じゃないでしょ?」
「嘘つき……まぁ話を聞かずに断るのもおかしいな。じゃあ一応話だけでも」
何とも弱いなと自らに呆れるとキルシュは笑顔に戻った。
「嬉しい。じゃあこれで決定ね。あのさブリアンの近衛兵姿を見に行こうよ」
「何が決定だか。一人で行けばいいじゃないか」
「あのさ、こんなの言わせないでよ。酷いね恥をかかせてさ。ほらあたしは背が低いじゃない。だから見れないんだよ」
さっきから言葉の順序を意図的にずらしてこちらに加害者感を植え付けていないか? とジーナはなんだか不気味になってきた。何故そこまで?
「最前列に行けばいいのでは?」
「またあたしに恥をかかせたね。見なよあたしのこの体格。小さくて細くてさ。人波なんか掻き分けられないし弾き飛ばされちゃうんだ。隊長はそんな恵まれた身体をして、しかも男で強いオーラが出ているからそんなこと簡単に言えて、人の心が分からないんだ。だからそうやって無意識に人を傷つけて苦しめて」
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良いこと? 分かったこれは罠だなと直観したジーナは逃げようとするキルシュを呼び止める。
「ちょっと待て……あの、本当に二人でブリアンの近衛兵姿を身に行くだけだよな」
立ち止まるキルシュは振り返らずに背中越しで、答えた。
「どういう疑いがあるのさ?」
無いが疑わしい、としかジーナは答えられなかった。
「説明になっていないよ。だからどういう疑いがあるのさ?」
「あるとしたら待ち合わせ場所に何故かハイネがいてキルシュが代理だと言われて」
「代理を使う理由がないさ。あたしがブリアンを見たいのになんであの子が代わりに見なきゃならないのさ。絶対に待ち合わせにはあたしがいるから安心して。それと、こうなったからにはこれはあたしの名誉に関わることになったんで、明日休むことは許されないよ。いいね、隊長」
キルシュの背中がどうしてか大きく見え圧倒されたのかジーナは頷くと、後ろに目があるようなタイミングで無言で階段を降りていくなか、どこからか小さな声が風に乗って流れてきた。
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