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第3部 私達でなければならない
彼を否定させてやる
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そういえばこの間もジーナが、と言おうと口を開こうとしたシオンは固まった。先手をとられた。
微笑みが消えたその顔は言葉を失い、探している最中、だがしかし。
「では、よろしいですね。これ以後はこの前提で話を進めさせていただきます」
突然刺されたような態となったシオンはまだ事態が呑み込めず言葉を出すことに懸命になっていたが、息が止まりながらもハイネに次の言葉をすぐには出させなかった。
「あなたは突然何を言い出すのですか?いきなり、そんな、重要なことを。いまこの場でそのようなことを話し合うタイミングではありません」
シオンはそう言いながら龍身の方に目をやったが、ハイネには分かっている。
いま、シオンが見ているのはどこであるのかを。
龍身の方を見ている角度であるが、微妙にやや左寄りであるということを。
その視線の先は龍身の右側とジーナの左側の間、二人の姿を見ている。
ジーナなど本来なら今見る必要などない。
シオンもきっと自分が何故ジーナを見ているのか分かっていないだろう。
しかも二人の間を見るという意味すらも理解していないはずだ。
だがそれは私には理解できる、とハイネは思うと冷たい炎に身体が包まれている気がした。
心底は冷えているのに血が熱く、攻撃的な気分。
もしも可能であるなら、いま、その一人の力によって維持されている二人の間を壊してみたい。
私にはその権利があるはずだ。
「このような席と言われますが、私から見ますとこれ以上に無く重要な関係者が勢揃いしております。龍身様にシオン様ルーゲン師にこの私と滅多に揃うことのできないメンバーが皆集まっているのです」
意図的にジーナの名を伏せるとシオンの視線がまたジーナへ向かいハイネの心根は一気に冷たさを増した。
姉様、これは彼には関係ないことなのですよ。
あなたが勝手に関係づけようとして、みなを困らせ混乱させる。それは、許されることではない。
「予定外のことはしてはなりません。繰り返しますがこの件は最重要問題の一つです。こんな茶飲み話でして裁可するものとはわけが違います。あなたにだってそれは分かるでしょう?」
「中央に帰還されてから、いえ、ソグを経ってからいままでこの件についての話は停滞したままです。これからの予定にもこの件についての会議が開かれるという話は聞いておりません。これによりてこれを見れば龍の婿については三つのことが考えられます。一つ目はもう龍の婿はルーゲン師で決定している。二つめは龍の婿はルーゲン師ではなくなった。三つめは龍の婿はルーゲン師以外の誰かだと」
言い終わるとハイネはシオンを見据えるも、今度はシオンは真っ直ぐに見返して来ていた。
そこには意思を感じた。意図的に何かを見ないということ。
龍身に目をやっても不自然ではないのに、それをしないという逆の意味での不自然さ。
確信を深め心に刻めば刻むほどに、ハイネのなかの冷たさは一層険しさを増していく。
「マイラ様も含め後日そのことは話合いをするべきでしょう。不安なのは分かるけれど落ち着きなさいハイネ」
「その件につきましてマイラ卿は僕が龍の婿であるとの言葉を戴きました」
シオンとハイネは同時にルーゲンを見る。
共に驚き、似た表情を浮かべていた。まさか、あの人が、この婚約者に黙って。
「あの人が、あなたに対して、龍の婿になれと?」
「いえそこまでは仰りませんでした。君は限りなくそれに近い存在だ、と。そのためには力を貸すが、最後の一線にはシオン殿がいらっしゃるからそこは自分の力でどうにかしてしてくれとのことです」
「……そんなことを確かにあの人は言いそうですね」
「これでマイラ卿はシオン様に判断を預けられたということで改めてお聞きいたします」
「ハイネ、待ちなさい」
シオンの言葉をハイネは聞かず押し続ける。
「先ほどの三つのどれなのですか? ルーゲン師であるのか、そうでないのか」
「本人を前にしてそのようなことを聞くのはいくらなんでも失礼にも程があります、やめなさい」
「僕のことでしたら一切お構いなくシオン嬢にハイネ嬢。いつまでも宙ぶらりんなままでは誰も得をしません。龍身様は無論のこと僕にとっても誰にとっても世界にとってもです」
意思が通じたのか覚悟を決めてくれて助かったとハイネは頷いた。
ルーゲンの問題点としてシオンに強く主張しない、というところにあるとハイネはずっと感じていた。
待つ身であるからそうなってしまうその心理は分かってはいたものの、そうであるからそれはシオンの無決定状態に繋がってしまった。
だからこそここでルーゲンが駄目なら駄目、と自身にとっても苦渋の選択肢も受け入れるということで一つの関門を突破した。
「シオン様、再度お尋ねいたします。龍の後見人は龍を導くものとなるルーゲン師が龍の婿となることに反対であるかどうか、そこが重大な点です。もしもそうではないと言われるのなら、龍の婿となるものとは誰であるのか? 他の候補者とは……」
言いながらハイネはシオンから視線を外し微かに横を見る。見るに耐えられない。
姉様、あなたがまだ気づいていないのに教えてあげましょうか?
私はルーゲン師とジーナのどちらかに迷っている、と。圧倒的にジーナにしたいのだけれど、それは間違いであり誤りであり有り得ないことであるのに、私はどうしてもジーナに龍の婿になってもらいたい。
しかし社会とかあらゆる全てがそれを許さない。だから困っている……どうしてこの男は!
ハイネがジーナを一瞬だけ見てすぐに視線を戻すとシオンは瞼を閉じており、口を開こうとする。
そうだ並列にさせねばならない。ジーナですかと聞いて、否定させる。
そうすれば問題は無意識レベルから意識レベルに上がり、以後これは……とハイネが言おうとする寸前にシオンのの瞼が開きすぐさま告げる。
「龍の婿はルーゲン師という線に変わりはありません」
微笑みが消えたその顔は言葉を失い、探している最中、だがしかし。
「では、よろしいですね。これ以後はこの前提で話を進めさせていただきます」
突然刺されたような態となったシオンはまだ事態が呑み込めず言葉を出すことに懸命になっていたが、息が止まりながらもハイネに次の言葉をすぐには出させなかった。
「あなたは突然何を言い出すのですか?いきなり、そんな、重要なことを。いまこの場でそのようなことを話し合うタイミングではありません」
シオンはそう言いながら龍身の方に目をやったが、ハイネには分かっている。
いま、シオンが見ているのはどこであるのかを。
龍身の方を見ている角度であるが、微妙にやや左寄りであるということを。
その視線の先は龍身の右側とジーナの左側の間、二人の姿を見ている。
ジーナなど本来なら今見る必要などない。
シオンもきっと自分が何故ジーナを見ているのか分かっていないだろう。
しかも二人の間を見るという意味すらも理解していないはずだ。
だがそれは私には理解できる、とハイネは思うと冷たい炎に身体が包まれている気がした。
心底は冷えているのに血が熱く、攻撃的な気分。
もしも可能であるなら、いま、その一人の力によって維持されている二人の間を壊してみたい。
私にはその権利があるはずだ。
「このような席と言われますが、私から見ますとこれ以上に無く重要な関係者が勢揃いしております。龍身様にシオン様ルーゲン師にこの私と滅多に揃うことのできないメンバーが皆集まっているのです」
意図的にジーナの名を伏せるとシオンの視線がまたジーナへ向かいハイネの心根は一気に冷たさを増した。
姉様、これは彼には関係ないことなのですよ。
あなたが勝手に関係づけようとして、みなを困らせ混乱させる。それは、許されることではない。
「予定外のことはしてはなりません。繰り返しますがこの件は最重要問題の一つです。こんな茶飲み話でして裁可するものとはわけが違います。あなたにだってそれは分かるでしょう?」
「中央に帰還されてから、いえ、ソグを経ってからいままでこの件についての話は停滞したままです。これからの予定にもこの件についての会議が開かれるという話は聞いておりません。これによりてこれを見れば龍の婿については三つのことが考えられます。一つ目はもう龍の婿はルーゲン師で決定している。二つめは龍の婿はルーゲン師ではなくなった。三つめは龍の婿はルーゲン師以外の誰かだと」
言い終わるとハイネはシオンを見据えるも、今度はシオンは真っ直ぐに見返して来ていた。
そこには意思を感じた。意図的に何かを見ないということ。
龍身に目をやっても不自然ではないのに、それをしないという逆の意味での不自然さ。
確信を深め心に刻めば刻むほどに、ハイネのなかの冷たさは一層険しさを増していく。
「マイラ様も含め後日そのことは話合いをするべきでしょう。不安なのは分かるけれど落ち着きなさいハイネ」
「その件につきましてマイラ卿は僕が龍の婿であるとの言葉を戴きました」
シオンとハイネは同時にルーゲンを見る。
共に驚き、似た表情を浮かべていた。まさか、あの人が、この婚約者に黙って。
「あの人が、あなたに対して、龍の婿になれと?」
「いえそこまでは仰りませんでした。君は限りなくそれに近い存在だ、と。そのためには力を貸すが、最後の一線にはシオン殿がいらっしゃるからそこは自分の力でどうにかしてしてくれとのことです」
「……そんなことを確かにあの人は言いそうですね」
「これでマイラ卿はシオン様に判断を預けられたということで改めてお聞きいたします」
「ハイネ、待ちなさい」
シオンの言葉をハイネは聞かず押し続ける。
「先ほどの三つのどれなのですか? ルーゲン師であるのか、そうでないのか」
「本人を前にしてそのようなことを聞くのはいくらなんでも失礼にも程があります、やめなさい」
「僕のことでしたら一切お構いなくシオン嬢にハイネ嬢。いつまでも宙ぶらりんなままでは誰も得をしません。龍身様は無論のこと僕にとっても誰にとっても世界にとってもです」
意思が通じたのか覚悟を決めてくれて助かったとハイネは頷いた。
ルーゲンの問題点としてシオンに強く主張しない、というところにあるとハイネはずっと感じていた。
待つ身であるからそうなってしまうその心理は分かってはいたものの、そうであるからそれはシオンの無決定状態に繋がってしまった。
だからこそここでルーゲンが駄目なら駄目、と自身にとっても苦渋の選択肢も受け入れるということで一つの関門を突破した。
「シオン様、再度お尋ねいたします。龍の後見人は龍を導くものとなるルーゲン師が龍の婿となることに反対であるかどうか、そこが重大な点です。もしもそうではないと言われるのなら、龍の婿となるものとは誰であるのか? 他の候補者とは……」
言いながらハイネはシオンから視線を外し微かに横を見る。見るに耐えられない。
姉様、あなたがまだ気づいていないのに教えてあげましょうか?
私はルーゲン師とジーナのどちらかに迷っている、と。圧倒的にジーナにしたいのだけれど、それは間違いであり誤りであり有り得ないことであるのに、私はどうしてもジーナに龍の婿になってもらいたい。
しかし社会とかあらゆる全てがそれを許さない。だから困っている……どうしてこの男は!
ハイネがジーナを一瞬だけ見てすぐに視線を戻すとシオンは瞼を閉じており、口を開こうとする。
そうだ並列にさせねばならない。ジーナですかと聞いて、否定させる。
そうすれば問題は無意識レベルから意識レベルに上がり、以後これは……とハイネが言おうとする寸前にシオンのの瞼が開きすぐさま告げる。
「龍の婿はルーゲン師という線に変わりはありません」
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