龍を討つもの、龍となるもの

かみやなおあき

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第3部 私達でなければならない

アルと龍と

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「隊長はどこに行かれるのですか?」

 兵舎に戻ったジーナの準備を手伝うアルがそう尋ねるとジーナは答えた。

「なに、ハイネと会うだけだよ」
「ほぉなるほど。それなら頷ける準備ですね」

 とこの世界でアルだけが納得できる理由を説明すると、それ以後は何の疑問も言わずに黙々と準備を続けた。

 しばらくするとジーナは兵装となった。それも儀礼用のではなく実戦用の装備に身を包み、小型の背嚢を手にすると、アルが背中を叩いてきた。

「これならなにが起こっても問題ありませんよ! 思う存分暴れまくってください」

「お前はハイネを何だと思っているんだ?」

「怪物ですよもののけ。突然あの女の頭が割れて得体のしれない化け物が現れたって僕は驚きはしませんよ。きぇえええ化け物! 遂に正体を現したか! と納得です」

「……もしかしたらそっちのほうが分かりやすくて助かるかもしれない」

「さすがは隊長……長年向き合い続け耐えてきた男の言葉は一味違いますね」

 ハイネは間違いなく人であり怪物ではないだろう。龍が中に入ったり印を刻んだりもしていない、特別な血も流れてはいない。

 そうであるのに……人であることは間違いないのに、どうして私はここまで装備を整えなければならないのか?

「隊長。最後にこれを」

 アルは剣を差し出すとジーナは受け取り鞘を払うと、手入れの行き届いた刀身が光を反射させる。これなら何でも斬り、討てるだろう。

 だが、しかしとジーナは剣を鞘に納めながら思う。

「私はこれからハイネと広場で茶を飲むだけなのだがな」

「いいえ用心は大事です。あの女に心を許してはなりませんよ。隊長に何をしでかすか分かったものじゃありません。僕もお供でついて行きますよ」

「そこまでしなくていい。そんなことを言うがアルは龍の儀式の仕事はないのか?」

「僕は儀式にあまり関わりませんね。なんたって僕はいわば化外の民ですし。それでもシオン様から何かと御指示を戴き儀式の仕事はしていますが、今日は空きです。だからどうか」

「絶対に来るな。危機でない可能性も薄くはある。準備を手伝ってくれてありがとう。ではな」

 踵を返し扉に行こうとするジーナの背中にアルの言葉が当たる。

「はい隊長……お気をつけて」

 どこかその言葉には引っ掛かりがあった。なにか、ある?

 ジーナは振り返りアルの小柄な体に目をやる、直感が言葉にも無く教えてくれる。

 この男は私にとってなにか重大なものを持っているのでは?

「アル、なにかあるのか?」

 聞くとアルの眼が微かに動き口が開かない。まだ迷っているのか? そう思ったジーナは言葉を変えた。

「いや、何か伝えたいこととかあるんじゃないのか?」

 アルは大きく目を動かし、それから一つの位置に定まった。

「僕から伝えることといえば……そうですね、わかりました。これは隊長かシオン様にいずれ相談したいことがありまして」

「珍しい言葉が来たな。お前がシオンのことで迷うなんて有り得ないことだ。それなら私にではなく先ずシオンに相談すればいいじゃないか」

「事が事でしてね。他の人には教えられないことなのです。いま儀式の最中でシオン様はお時間がとれませんから隊長に話すべきかどうか、迷っているところでして」

「私とシオンにしか伝えられないことか……想像ができないな」

 そう言ったもののジーナはすぐに想像ができた。いや、それしか考えようが無かった。

「……のことか?」

「はい、龍についてのことです」

 ジーナは息を止め考えることも言葉を出すこともを封じた。できればこの男の言葉を邪魔する全てを停止させたいとも思ったりもした。

「ただ、確証がまだないことでして。僕自身もう少し調べてから改めてご相談したいのです。ある程度はっきりしましたら、必ずお二人にお伝えいたします」

 ここまでだろうな、とジーナは息を吸い自らへの封印を解いた。

「それで良い、そうしてくれ。私とシオンにだけ伝えろ。それにしても、なぁ不思議だな。龍に関することをシオンに伝えるのは紛れもなく正しいことであるのに、同列に私がいるのはどうかしている……」

 ジーナはアルの顔を伺うも、そこには言葉による反応は無かった。

「どうかしているはずなんだ」

 問うもその先にはどうもなく正しさがそこにありジーナは問い質した。

「なぁアル。どうして私なんだ。私と龍はお前から見て何か関係があるのか? 私はただの護衛であり」

「隊長は龍に最も近い存在じゃないですか」

 言葉を遮る宣告はジーナの意識を空にした。

「だから隊長はいつもいつだって叫んでいた。龍に会いに行くって」

 龍の元に、罪を討ちにいく……頭の中で声が再生されるもジーナははじめてその声を外から聞いた気がし、それから血の気が引いた。

 猛々しき暴力的な叫びであるはずのその声の響きは哀しさと優しさの色を帯びだし

「その声に僕たちは導かれてきました」

 救いを求めるものの声であり、信じて呼びかける、祈りに似ていた。

「僕らにとってあなたこそ導くものであり、そしてそれは……」

 アルが言葉を切ったがそれは意図的なものだとジーナには思えた。

 鐘の音が遠くから聞こえ規則的な残響と共にジーナは考えたくなくても胸に染み入るものを感じざるを得なかった。

 お前は私を導くものだというのか? その思いが聞こえたようにアルは答える。

「だけど隊長は、まだ気づいていない、それだけのことです」
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