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第3部 私達でなければならない
記録のない建物
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儀式は騒動や事故といった懸念されていた問題が起こらず遅滞なくそのまま進行していった。
「ジーナがいなくなったおかげで儀式の進行がスムーズに進んでいるのでは?」
こう一部では囁かれるほどに何も起こらずその予感すら感じさせずに、物事は進んでいく。
それはまるでジーナがはじめから存在しなかったもののように。
「しかし彼は存在します。そうでなければ私達はこのような苦労をすることはないのですからね」
森の中に設けられたテントのなかでシオンはバルツに溜息混じりに言った。
「奴がいたという形跡がいまのところ見つかってはいない。これは捜索以来ずっとそうだ。ここから考えられることは二つ。一つ目は森を抜けて遥か遠くに逃げてしまったか。もう二つ目はつまり」
「地下迷宮の入り口を発見しもうそこに入ってしまった、ですよね。私達の希望としては森を抜けて西にでも帰って貰えれば何も言うことはありません。そのうえで手紙がこちらに届いて、ごめんなさいぼく帰るねとでも綴られていたらもっともっと文句なしで万々歳なんですけどねぇ」
推論を出せば出すほどに悪い方へと話が転がってしまい、場は重く沈んだ。
ジーナは今も見つかっていない。姿が見えないのはまだしもその足取りに生活形跡すら不明なのは腑に落ちなかった。
「休憩所付近の調査は捗っていますかな」
バルツが話題を変えるもシオンは明るくは答えられなかった。
「依然として進展なしです。ハイネが女官を率いて隅々までチェックをしたり、ルーゲン師も動けるソグ僧を総動員して中央図書館の奥の奥に保管されている古文書を開いて見ていますけれども、なにも見つかっておりません。古文書の方は龍身様の許可を得ていることから新たな発見があるかと思いきや、特に何も無いどころか、まるでないことが判明するという空虚で恐怖な真相に辿り着いてしまったようですよ」
笑い話でもないのにシオンが笑いながら言うと流石にバルツは悪いと見えたのか咳ばかりをしてその場を繕った。
「うっうむ。それは大変なことでしたな。逆に考えますといくらなんでもそれは妙な話となる。あんな立派で歴史のある建造物に関する記録が一切ないだなんて。今までは調査が禁止されていたから不明だと思われていたというのに、調査しても不明だなんて、不可解過ぎる」
『龍の休憩所を調査してはならない』という始祖の言葉はなく、長年の慣例によって調査は特にはされず、今回は緊急事態ということで龍身は許可を出しソグ僧に調査に当たらせた。
ここもまた封禁の間ともいわれた古文書の部屋であり、これまで前人未踏、とは大げさで掃除夫は定期的に入っていた。
探求心溢れる彼らはマニアックな学究心を昂らせながら寝る間も惜しんで精読あるいは飛ばし読みをしながら調べ続けるも、その結果は興奮した大きめな字で届いた。記録は一切ありませんでした、と。
記録を調べ記録が無いということが分かった。これはある意味で学問的には成果であり偉業でもある。
「読み漏らしは考えられないことから本当に無いことは確実ですね」
シオンが言うとバルツは投げ遣り気味に言った。
「そうだと逆説的に存在を裏付けてしまうことになってしまうがいいのか? 地下迷宮は龍の祭壇に繋がっていることとな」
「けれども龍が逃げ出した記録なんてありませんよね?」
「あったら困るだろうな。記録を残さず抹消したのは龍の始祖様であろうから、その理由は海よりも深く山よりも高いものであろう。よって人間如きが考えてはならぬことだ。我々にできるのはこのことを前提としてこの後の行動を決めること……それしかあるまい」
「秘密通路があるとしましてそれは龍の血を引くもののみが利用可能、こう考えるのが道理と言えましょう。よって出入口は龍となったもののみが場所が分かり使用するとなれば……」
「ジーナになど使われることは無いだろう。ただしその龍の血を引くもののみが、とするところは想像の範囲内だ」
「まっ記録が無い以上、すべては想像の範囲内で考えるしかないということですね。なににしても彼を捕まえれば解決です。これもまた想像の範囲内ですけどね」
今度はバルツも苦笑いし報告しにきた兵の言葉を聞いた。聞き飽きた言葉、何も見つかりませんでした、と聞いた。
「聞きにくいことを敢えて聞きますがが、第二隊のものたちの動向に変化はございましたか?」
問われたバルツは言葉をすぐには返さず、目を伏せる。
ジーナの事件後、というよりかは事件中から第二隊は騒動に巻き込まれていた。
中央通りにて逃走中であったジーナに協力した容疑にて逮捕される。
ノイスとアルに数名の隊員は偶然ジーナに出会い、そのあと追いかけて来るソグ僧兵たちの前に立ちはだかり妨害した。
「僕たちは隊長が追われているようでしたから協力しただけです」
とはアルの証言だが彼らは口を揃えて言った。
「ジーナ隊長から命令は受けておりません。挨拶をしたら手を振って返しただけで他には何も。変だなと思っていたら前から駆けて来る僧兵が向かってきましたから通せんぼしただけです。ところでこれって何の罪になりますか?」
などとぬけぬけと言い放ったのがノイスでありこれを聞いたソグ僧院の上層部は激怒し逮捕に命じるも、これに反発したのがバルツ並びに解放戦線の面々であり、龍の一族の代表者のマイラが調停に入りなんとか治まったものの、これである。
中央解放後に避けなければならないのはソグ僧院と解放戦線の争い。共通の敵の排除後に起こりがちな主導権争いによるお約束の内ゲバは絶対に避けねばならぬ。
龍の一族は公正中立のためにこの件に関しては準公務妨害として拘禁はせず三日間の兵舎謹慎を命ずる、で落ち着いた。
もう既に謹慎は解かれ彼らは自由に行動をしているわけであるが、ソグ僧院は龍の一族に圧力をかけてマイラからバルツに告げた。
「彼らがどこをどう歩いているのかはシオン殿の方がよく分かっているのではないのか? 俺に聞くよりかは尾行からの報告書を読んだ方が良いのでは?」
珍しく嫌味な言い方をするもシオンは首を振る。
「たとえ四六時中背中を追いかけまわしても、結局のところそのものが何を見て何を考えているのかは不明です。それよりもバルツ将軍のもとに届けられる第二隊のものたちからの情報の方が重要なのです。心変わりがあったりとか、気付いたことがあったりとか、なにか些細なことでもありましたらどうか」
「第二隊のものたちはジーナを売るぐらいなら自分の首をはねるだろうな」
「彼らにはこの件の重大さを伝えてはおられないのですか?」
「伝えたさ。ただし全てを話すわけにはいかんからだいたいをな。ジーナはソグ僧院絡みで聴取を受けなければならぬのに、逃げだしてしまった。これは龍の儀式に関する重大なことであるのになんとかして探さなければならない。これはある意味でジーナに対する救済なのだ。よって知っていることがあったら俺のもとにまで伝えてくれ。頼んだぞ第二隊の諸君、とな」
バルツは息を吐いた。この男に似合わない切ないその息の音。
「分かってはおったが、反応が薄すぎた。これは駄目だなと分かり、事実その後は音沙汰もない。隊員は隊員で事情は分からないも、分かっていることはひとつだろう。自分達の元隊長のジーナを決して売ってはならない、と」
シオンは自分の耳を疑い言葉を失った。失う他ない。すると第二隊の隊員達が優先することは。
「驚きだろうが俺も薄々とは気づいてはいた。もしも龍とジーナが対立をした場合には第二隊隊員はジーナの方を取るのだとな。こんな事態は今まで有り得ないことだったから問題視はしなかったがな。なんたってジーナは龍の信仰者だ。この俺以上のな。本人は決まって否定するがいつものことで俺は同じことを言い続けるだけだ。お前はそのことに気付いていないだけだ、と。このことは隊員達も言わないだけで気づいている。そうであるからこそ無垢かつ無限の信仰の精神で戦えるのだろう、と。これもまた本人だけが気付いていないことだがな」
「ジーナがいなくなったおかげで儀式の進行がスムーズに進んでいるのでは?」
こう一部では囁かれるほどに何も起こらずその予感すら感じさせずに、物事は進んでいく。
それはまるでジーナがはじめから存在しなかったもののように。
「しかし彼は存在します。そうでなければ私達はこのような苦労をすることはないのですからね」
森の中に設けられたテントのなかでシオンはバルツに溜息混じりに言った。
「奴がいたという形跡がいまのところ見つかってはいない。これは捜索以来ずっとそうだ。ここから考えられることは二つ。一つ目は森を抜けて遥か遠くに逃げてしまったか。もう二つ目はつまり」
「地下迷宮の入り口を発見しもうそこに入ってしまった、ですよね。私達の希望としては森を抜けて西にでも帰って貰えれば何も言うことはありません。そのうえで手紙がこちらに届いて、ごめんなさいぼく帰るねとでも綴られていたらもっともっと文句なしで万々歳なんですけどねぇ」
推論を出せば出すほどに悪い方へと話が転がってしまい、場は重く沈んだ。
ジーナは今も見つかっていない。姿が見えないのはまだしもその足取りに生活形跡すら不明なのは腑に落ちなかった。
「休憩所付近の調査は捗っていますかな」
バルツが話題を変えるもシオンは明るくは答えられなかった。
「依然として進展なしです。ハイネが女官を率いて隅々までチェックをしたり、ルーゲン師も動けるソグ僧を総動員して中央図書館の奥の奥に保管されている古文書を開いて見ていますけれども、なにも見つかっておりません。古文書の方は龍身様の許可を得ていることから新たな発見があるかと思いきや、特に何も無いどころか、まるでないことが判明するという空虚で恐怖な真相に辿り着いてしまったようですよ」
笑い話でもないのにシオンが笑いながら言うと流石にバルツは悪いと見えたのか咳ばかりをしてその場を繕った。
「うっうむ。それは大変なことでしたな。逆に考えますといくらなんでもそれは妙な話となる。あんな立派で歴史のある建造物に関する記録が一切ないだなんて。今までは調査が禁止されていたから不明だと思われていたというのに、調査しても不明だなんて、不可解過ぎる」
『龍の休憩所を調査してはならない』という始祖の言葉はなく、長年の慣例によって調査は特にはされず、今回は緊急事態ということで龍身は許可を出しソグ僧に調査に当たらせた。
ここもまた封禁の間ともいわれた古文書の部屋であり、これまで前人未踏、とは大げさで掃除夫は定期的に入っていた。
探求心溢れる彼らはマニアックな学究心を昂らせながら寝る間も惜しんで精読あるいは飛ばし読みをしながら調べ続けるも、その結果は興奮した大きめな字で届いた。記録は一切ありませんでした、と。
記録を調べ記録が無いということが分かった。これはある意味で学問的には成果であり偉業でもある。
「読み漏らしは考えられないことから本当に無いことは確実ですね」
シオンが言うとバルツは投げ遣り気味に言った。
「そうだと逆説的に存在を裏付けてしまうことになってしまうがいいのか? 地下迷宮は龍の祭壇に繋がっていることとな」
「けれども龍が逃げ出した記録なんてありませんよね?」
「あったら困るだろうな。記録を残さず抹消したのは龍の始祖様であろうから、その理由は海よりも深く山よりも高いものであろう。よって人間如きが考えてはならぬことだ。我々にできるのはこのことを前提としてこの後の行動を決めること……それしかあるまい」
「秘密通路があるとしましてそれは龍の血を引くもののみが利用可能、こう考えるのが道理と言えましょう。よって出入口は龍となったもののみが場所が分かり使用するとなれば……」
「ジーナになど使われることは無いだろう。ただしその龍の血を引くもののみが、とするところは想像の範囲内だ」
「まっ記録が無い以上、すべては想像の範囲内で考えるしかないということですね。なににしても彼を捕まえれば解決です。これもまた想像の範囲内ですけどね」
今度はバルツも苦笑いし報告しにきた兵の言葉を聞いた。聞き飽きた言葉、何も見つかりませんでした、と聞いた。
「聞きにくいことを敢えて聞きますがが、第二隊のものたちの動向に変化はございましたか?」
問われたバルツは言葉をすぐには返さず、目を伏せる。
ジーナの事件後、というよりかは事件中から第二隊は騒動に巻き込まれていた。
中央通りにて逃走中であったジーナに協力した容疑にて逮捕される。
ノイスとアルに数名の隊員は偶然ジーナに出会い、そのあと追いかけて来るソグ僧兵たちの前に立ちはだかり妨害した。
「僕たちは隊長が追われているようでしたから協力しただけです」
とはアルの証言だが彼らは口を揃えて言った。
「ジーナ隊長から命令は受けておりません。挨拶をしたら手を振って返しただけで他には何も。変だなと思っていたら前から駆けて来る僧兵が向かってきましたから通せんぼしただけです。ところでこれって何の罪になりますか?」
などとぬけぬけと言い放ったのがノイスでありこれを聞いたソグ僧院の上層部は激怒し逮捕に命じるも、これに反発したのがバルツ並びに解放戦線の面々であり、龍の一族の代表者のマイラが調停に入りなんとか治まったものの、これである。
中央解放後に避けなければならないのはソグ僧院と解放戦線の争い。共通の敵の排除後に起こりがちな主導権争いによるお約束の内ゲバは絶対に避けねばならぬ。
龍の一族は公正中立のためにこの件に関しては準公務妨害として拘禁はせず三日間の兵舎謹慎を命ずる、で落ち着いた。
もう既に謹慎は解かれ彼らは自由に行動をしているわけであるが、ソグ僧院は龍の一族に圧力をかけてマイラからバルツに告げた。
「彼らがどこをどう歩いているのかはシオン殿の方がよく分かっているのではないのか? 俺に聞くよりかは尾行からの報告書を読んだ方が良いのでは?」
珍しく嫌味な言い方をするもシオンは首を振る。
「たとえ四六時中背中を追いかけまわしても、結局のところそのものが何を見て何を考えているのかは不明です。それよりもバルツ将軍のもとに届けられる第二隊のものたちからの情報の方が重要なのです。心変わりがあったりとか、気付いたことがあったりとか、なにか些細なことでもありましたらどうか」
「第二隊のものたちはジーナを売るぐらいなら自分の首をはねるだろうな」
「彼らにはこの件の重大さを伝えてはおられないのですか?」
「伝えたさ。ただし全てを話すわけにはいかんからだいたいをな。ジーナはソグ僧院絡みで聴取を受けなければならぬのに、逃げだしてしまった。これは龍の儀式に関する重大なことであるのになんとかして探さなければならない。これはある意味でジーナに対する救済なのだ。よって知っていることがあったら俺のもとにまで伝えてくれ。頼んだぞ第二隊の諸君、とな」
バルツは息を吐いた。この男に似合わない切ないその息の音。
「分かってはおったが、反応が薄すぎた。これは駄目だなと分かり、事実その後は音沙汰もない。隊員は隊員で事情は分からないも、分かっていることはひとつだろう。自分達の元隊長のジーナを決して売ってはならない、と」
シオンは自分の耳を疑い言葉を失った。失う他ない。すると第二隊の隊員達が優先することは。
「驚きだろうが俺も薄々とは気づいてはいた。もしも龍とジーナが対立をした場合には第二隊隊員はジーナの方を取るのだとな。こんな事態は今まで有り得ないことだったから問題視はしなかったがな。なんたってジーナは龍の信仰者だ。この俺以上のな。本人は決まって否定するがいつものことで俺は同じことを言い続けるだけだ。お前はそのことに気付いていないだけだ、と。このことは隊員達も言わないだけで気づいている。そうであるからこそ無垢かつ無限の信仰の精神で戦えるのだろう、と。これもまた本人だけが気付いていないことだがな」
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