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第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~
第5話 「森の中、ハーピーとの出会い」
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「迷わずの森」と呼ばれ、恐れられる森がある。
……なぜ迷わないのか?
例えば森とは名ばかりで、木など存在しなく、四方八方見渡せるクリアな空間だからか?
いや、それとも木の一つ一つに看板が吊り下がっており、どこに向かえばいいか一目瞭然だからか?
そんなまどろっこしい話ではない。
答えは至ってシンプル。
それはこの森には凶暴な魔物がうじゃうじゃいて入って来た人々を食い殺すからだ。
文字通りに、目的地も帰り道も必要なくなる「迷うことがない森」だからである。
もしこの世界がRPGのゲームであるならば、この森はラスボス手前の最後の森だったかもしれない。
「LUCK」の能力値がゼロである佐倉幸《さくらこう》がこの森を異世界での転生地点とされてしまったのは当然と言えば当然なのだ。
「…………ここは?」
途切れていた幸の意識がようやく繋がった時、正午で快晴な天気だったが、鬱蒼とした木々や葉々の中では薄暗く、また、太々とした木の集まりの中、視界は狭かった。
目の端々に緑が写るやけに目に優しい世界だとはなんとなく感じた。
まだそれだけしか知覚のない幸。
しかし、彼は自分が先ほどの白い空間から転生され、この迷いの森に来たことを把握する間もなく、最悪の事態が起きた。
「ギャウゥー!!!」
まだ身体を起こす事もままならない幸に鋭利な牙を突き立てる浮遊物があった。
「ぐわぁっ……!!」
毒巻一派によって日々痛みの訓練をさせられていた幸でも今まで感じたことのない痛みが肩に突き刺さった。
夢うつつだった幸の意識はいきなり現実に引っ張り出され、うすら目を開けた彼は理解が追いつかないモノを見る。
首筋を牙で噛み締めるそれは、大きな羽根を広げ真っ赤なボサボサの髪を揺らしながら真っ直ぐ幸を見つめていた。
体躯自体は人とさほど変わらないがその広げられた翼と威圧で人外である事は瞭然。
"ハーピー"と呼ばれるその魔物は、上半身女性のからだで腹部以下鳥の姿をしている、いわゆる女面鳥身の生き物だった。
激痛ではあるが、救いは牙は首筋に食い込むが嚙み千切られる事は無かったことだ。
しかし、血は吹き出し、着ていたネルシャツがじわじわと赤くなっていく。
特に殺意や敵意は無いのかもしれない。
ただ大きな羽を持つ生き物に馬乗りにされ、醸し出されるその強威に幸は押しつぶされる。
「……なっ……なんなんだ一体!?」
幸は少しずつ思い出す。
転生の女神にあったこと、異世界に転生されること。
……そしてされたこと。
まさにここがその世界らしい。
来た瞬間にクライマックス。
つまり最初からクライマックス。
……人生最後の日。
恐ろしい魔物との遭遇。
「なんなんだよ……。」
抵抗することも出来ずに、殺される直前の幸は事態を受け入れることすら出来ない。
そんな事態を引き起こしたハーピーはと言うと、見張りとして番をしていてたまたま幸を見つけたのだ。
別に殺すつもりもない。
手を「しっしっ」と払って他へ行けと促すようなもの。
ただそれがラスボス前の強さなのだからしょうがない。
「しっしっ」とその様に大きな赤い翼を羽ばたかせると恐ろしい風圧が生まれる。
風圧だけでただの人には致命傷にだってなる。
威嚇も終わり距離を取るため赤い生き物は翼をまた1度大きく扇ぐ。
すると一瞬にしてその体は宙へ舞って、大きな足の爪で器用に木の枝を掴み休を取る。
その一連の動きで生まれた風圧に、ゴロゴロと転がった先で緑色に淡く光る物体が幸の手に触れた。
これは幸の唯一の幸運だったのかも知れない。
___♪キャーン♪___
弦楽器が手に触れただけである。
その旋律は……いや、和音である"コード"でもないただ弦に手が触れただけのいわゆる開放弦の音色。
本来ならなんてことないその音は、ハーピーの耳を抜け心を攫って行く。
木に止まっていた彼女は爪が外れヒューと落下し、幸と同じく草に寝転がり、そして悶えだした。
「あぁ~っ❤」
この瞬間まで圧倒的な威圧感とその風体に魔物としての恐怖しかなかった物が、今は何か盛りの付いた雌猫の様な恰好をしているのだ。
なんなら少し可愛いとまで思ってしまう。
幸はわけもわからなかったが、ただこの物体を奏でたらこのピンチが切り抜けられるかも知れない。
そう肌で感じた。
後は簡単だった。
……その緑の物体はギターだったのだから。
迷わずの森で奏でられる演奏は……。
いや、幸が初めて異世界で奏でた音楽はCFGCの3コード。
ギター弾き初めの初心者が最初に出会う簡単な進行だった。
___♪シャッシャシャシャッシャーン♪___
「手が当たっただけの音」に悶えていたハーピーは、
「旋律として生み出される幸の音楽」に、敵うわけも無かった。
「あぁ~っ❤、あああぁ~❤」
木から落ちたハーピーは、完全に幸に落ちたのだった。
あとで分かることだが、ピンと立っていたお尻から生えた尾の様な羽が垂れるのは、異性に対する絶対的服従の証なのだそうだ。
とにもかくにもこちらに対して威嚇していた彼女は、もう幸の所有物だった。
これはゲームでいう所のある種のテイム能力と言えた。
なによりも、この急に迎えた危機の中、ギターは不安や恐怖を忘れさせた。
幸は自然に笑顔になる。
大鳥に教わったあの笑顔だ。
そうやって、生命の危機に必死にギターを弾き切った幸。
あまり事態を飲み込めない中、ハーピーはすり寄ってくる。
「……おっ、お前は俺の嫁だ❤」
「ギャウー」としか聞こえなかった魔物の鳴き声が、急に日本語になった。
今の幸にはハーピーの、魔物の話す言葉が理解できた。
___音楽は言語も越える___
幸が奏でた音楽に惚れたモノは、言語の違い関係なく意思疎通が出来るようになる。
これは幸のこの世界での能力だ。
ほとんどの能力が0だった幸を不憫に思った女神が破ったルールは、すべての能力を10倍にするということ。
……そして実際に行われたのは、【ある能力一つだけを100倍にする】というもの。
ある能力とは、つまりそれは幸のギターの演奏力だった。
これにより幸のもともとの、現実世界でもビルボードなど名だたる音楽の名声を欲しいままに出来たであろう、音楽の能力が……。
この世界では"100倍"になったのである。
それはもう異次元のテクニック。
それどころか誰も聞いたことのない、プレイヤーが到達したことのない領域。神の領域。
音楽で生物の生死にすら関われると言えるほどの物だった。
相当に鍛えられた歴戦の勇者ですら、てこずるであろうラスボス前のダンジョンの魔物を、レベルも、あらゆる能力も、
ほとんどゼロの幸が今完全にねんごろにした。
それは現実世界では虐げられていた彼の反撃の狼煙。
ここから語られる革命の唄の初めの一節である。
こんな風にして幸はこの異世界での初めての窮地を切り抜けたのであった。
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「迷わずの森」と呼ばれ、恐れられる森がある。
……なぜ迷わないのか?
例えば森とは名ばかりで、木など存在しなく、四方八方見渡せるクリアな空間だからか?
いや、それとも木の一つ一つに看板が吊り下がっており、どこに向かえばいいか一目瞭然だからか?
そんなまどろっこしい話ではない。
答えは至ってシンプル。
それはこの森には凶暴な魔物がうじゃうじゃいて入って来た人々を食い殺すからだ。
文字通りに、目的地も帰り道も必要なくなる「迷うことがない森」だからである。
もしこの世界がRPGのゲームであるならば、この森はラスボス手前の最後の森だったかもしれない。
「LUCK」の能力値がゼロである佐倉幸《さくらこう》がこの森を異世界での転生地点とされてしまったのは当然と言えば当然なのだ。
「…………ここは?」
途切れていた幸の意識がようやく繋がった時、正午で快晴な天気だったが、鬱蒼とした木々や葉々の中では薄暗く、また、太々とした木の集まりの中、視界は狭かった。
目の端々に緑が写るやけに目に優しい世界だとはなんとなく感じた。
まだそれだけしか知覚のない幸。
しかし、彼は自分が先ほどの白い空間から転生され、この迷いの森に来たことを把握する間もなく、最悪の事態が起きた。
「ギャウゥー!!!」
まだ身体を起こす事もままならない幸に鋭利な牙を突き立てる浮遊物があった。
「ぐわぁっ……!!」
毒巻一派によって日々痛みの訓練をさせられていた幸でも今まで感じたことのない痛みが肩に突き刺さった。
夢うつつだった幸の意識はいきなり現実に引っ張り出され、うすら目を開けた彼は理解が追いつかないモノを見る。
首筋を牙で噛み締めるそれは、大きな羽根を広げ真っ赤なボサボサの髪を揺らしながら真っ直ぐ幸を見つめていた。
体躯自体は人とさほど変わらないがその広げられた翼と威圧で人外である事は瞭然。
"ハーピー"と呼ばれるその魔物は、上半身女性のからだで腹部以下鳥の姿をしている、いわゆる女面鳥身の生き物だった。
激痛ではあるが、救いは牙は首筋に食い込むが嚙み千切られる事は無かったことだ。
しかし、血は吹き出し、着ていたネルシャツがじわじわと赤くなっていく。
特に殺意や敵意は無いのかもしれない。
ただ大きな羽を持つ生き物に馬乗りにされ、醸し出されるその強威に幸は押しつぶされる。
「……なっ……なんなんだ一体!?」
幸は少しずつ思い出す。
転生の女神にあったこと、異世界に転生されること。
……そしてされたこと。
まさにここがその世界らしい。
来た瞬間にクライマックス。
つまり最初からクライマックス。
……人生最後の日。
恐ろしい魔物との遭遇。
「なんなんだよ……。」
抵抗することも出来ずに、殺される直前の幸は事態を受け入れることすら出来ない。
そんな事態を引き起こしたハーピーはと言うと、見張りとして番をしていてたまたま幸を見つけたのだ。
別に殺すつもりもない。
手を「しっしっ」と払って他へ行けと促すようなもの。
ただそれがラスボス前の強さなのだからしょうがない。
「しっしっ」とその様に大きな赤い翼を羽ばたかせると恐ろしい風圧が生まれる。
風圧だけでただの人には致命傷にだってなる。
威嚇も終わり距離を取るため赤い生き物は翼をまた1度大きく扇ぐ。
すると一瞬にしてその体は宙へ舞って、大きな足の爪で器用に木の枝を掴み休を取る。
その一連の動きで生まれた風圧に、ゴロゴロと転がった先で緑色に淡く光る物体が幸の手に触れた。
これは幸の唯一の幸運だったのかも知れない。
___♪キャーン♪___
弦楽器が手に触れただけである。
その旋律は……いや、和音である"コード"でもないただ弦に手が触れただけのいわゆる開放弦の音色。
本来ならなんてことないその音は、ハーピーの耳を抜け心を攫って行く。
木に止まっていた彼女は爪が外れヒューと落下し、幸と同じく草に寝転がり、そして悶えだした。
「あぁ~っ❤」
この瞬間まで圧倒的な威圧感とその風体に魔物としての恐怖しかなかった物が、今は何か盛りの付いた雌猫の様な恰好をしているのだ。
なんなら少し可愛いとまで思ってしまう。
幸はわけもわからなかったが、ただこの物体を奏でたらこのピンチが切り抜けられるかも知れない。
そう肌で感じた。
後は簡単だった。
……その緑の物体はギターだったのだから。
迷わずの森で奏でられる演奏は……。
いや、幸が初めて異世界で奏でた音楽はCFGCの3コード。
ギター弾き初めの初心者が最初に出会う簡単な進行だった。
___♪シャッシャシャシャッシャーン♪___
「手が当たっただけの音」に悶えていたハーピーは、
「旋律として生み出される幸の音楽」に、敵うわけも無かった。
「あぁ~っ❤、あああぁ~❤」
木から落ちたハーピーは、完全に幸に落ちたのだった。
あとで分かることだが、ピンと立っていたお尻から生えた尾の様な羽が垂れるのは、異性に対する絶対的服従の証なのだそうだ。
とにもかくにもこちらに対して威嚇していた彼女は、もう幸の所有物だった。
これはゲームでいう所のある種のテイム能力と言えた。
なによりも、この急に迎えた危機の中、ギターは不安や恐怖を忘れさせた。
幸は自然に笑顔になる。
大鳥に教わったあの笑顔だ。
そうやって、生命の危機に必死にギターを弾き切った幸。
あまり事態を飲み込めない中、ハーピーはすり寄ってくる。
「……おっ、お前は俺の嫁だ❤」
「ギャウー」としか聞こえなかった魔物の鳴き声が、急に日本語になった。
今の幸にはハーピーの、魔物の話す言葉が理解できた。
___音楽は言語も越える___
幸が奏でた音楽に惚れたモノは、言語の違い関係なく意思疎通が出来るようになる。
これは幸のこの世界での能力だ。
ほとんどの能力が0だった幸を不憫に思った女神が破ったルールは、すべての能力を10倍にするということ。
……そして実際に行われたのは、【ある能力一つだけを100倍にする】というもの。
ある能力とは、つまりそれは幸のギターの演奏力だった。
これにより幸のもともとの、現実世界でもビルボードなど名だたる音楽の名声を欲しいままに出来たであろう、音楽の能力が……。
この世界では"100倍"になったのである。
それはもう異次元のテクニック。
それどころか誰も聞いたことのない、プレイヤーが到達したことのない領域。神の領域。
音楽で生物の生死にすら関われると言えるほどの物だった。
相当に鍛えられた歴戦の勇者ですら、てこずるであろうラスボス前のダンジョンの魔物を、レベルも、あらゆる能力も、
ほとんどゼロの幸が今完全にねんごろにした。
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