異世界でもギターしかなかった

bbbcat

文字の大きさ
8 / 28
第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~

第8話「打ち上げ?」

しおりを挟む
**************************************
   
 夢中の大合唱のライブも終わり、そこからの魔物達の大歓迎の宴は、佐倉幸にとっての初めてのライブ後の打ち上げであった。
   
 幸とピーネと村の魔物10匹ほどが、村の中心の広場に薪をくべて火を囲み円になって座っている。

 小さい魔物から大きい魔物までいるので円と呼ぶには3次元的にはかなりいびつな形をしていた。
   
 ケンタウロスが運んできた、よくわからない肉や葉っぱ等の食べ物と、瓢箪みたいな筒状のものに入った飲み物を持って始まった大宴会。
 それは、幸にとって沢山の仲間と談笑して食事をする初めての機会だ。

 みんなは乾杯の音頭も無く唐突に飲み始めてもうバカ騒ぎしだしている。

 笑顔のライブから一転、幸の目は泳いでいた…。
  
「……。」

 幸はこの様な雰囲気の中、どうして居ればいいのかわからず、とりえず瓢箪の中身をのぞく。

中身は薄い茶色身がかかっていて、なにやら酸っぱいような甘いような香りがする。

これは断じてお酒ではない。

魔物の好物の"ルーコルア"と言うものらしい。
   

「グビッ!」


 幸には今、魔物から好意で出された物を、飲まないと言う選択肢はない。

 幸は勇気を出して飲んでみる。

「……甘い。」
魔物の飲み物ということで、飲んだら死ぬ可能性すら感じていたがそんな事はなく、初めての幸にも飲みやすく美味しいものであった。
   
「おめーの演奏しびれたぜ。」
緑色の小さいゴブリンが一口飲んだだけの幸の瓢箪に同じ飲み物を注ぎ、幸の瓢箪の口は表面張力で水が揺れていた。

「おめーどこから来たんだ?
 この迷わずの森はみんな強くてほとんど人間なんて入ってこんのに。」

「……俺は転生されたんだ。気づいたらこの森の中だった……。」
幸も自分がいきなりこんな森の中に放り出されるとは思っても見なかった。
   
「転生?
 なんだそりゃ?
 よくわからん!
 けど、おめーと出会えて、こんな楽しい音楽が聞けて良かったぞ。
 音楽ってこんなに耳が気持ちいいものなんだな!
 いつまでもここにいていいんだからな。
 おらが守ってやる。」
ゴブリンはおそらく下位モンスターであるが、ここにいるという事はかなり強い個体なのであろう。

「こいつはなぁ。
 "勇者の能力"に目覚めちまってゴブリンの村を追い出されたんだぞ。」
隣にいたピーネが言う。
  
「勇者!?」
幸でも知っているファンタジーの職業の花形であった。
   
「そだぎゃ。
 おらはゴブだからなぁ、この村では全然よえー方よ。」
瓢箪の中身をぐびぐびと一瞬で、空にしながら楽しそうに言った。

「あっちのスライムは"ハイマジシャンの能力"に目覚めてて、
 あっちのサイクロプスは"ソードマスター"なんだぞ!」
ゴブリンが手振り身振り高らかに言う。

「ハッ、ハイマジシャンとソードマスター!?
 ……って何?」
そこまでファンタジーに明るくない幸にとって、凄さがよく分からない職業であった。

 スライムは杖などもたずドロドロしているだけであり、巨漢のサイクロプスもソードマスターと言う割には、棍棒を持つのみであった。

「みんな強ぇーってことよ!
 そしてここならおらも、みんなの仲間として見てもらえんのさ。」
はぶれた魔物が行きつくこの村には様々な種族がいる。

 迷わずの森にはもっと希少で強い上位種もうじゃうじゃいるので、ゴブリンの様な魔物の下位の種族は本来なら淘汰されるであろう。

 この村の下位、上位種が仲良く暮らしているのは奇異なことである。

 ルーコルアが無くなったゴブリンはのそりと立ち上がり甘い香りを求めて歩き去っていった。

「魔物にも色々あるんだね……。」
幸は、歩き去るゴブリンをみてつぶやく。

 そこからは入れ替わり立ち替わり、魔物達が幸の隣にやって来て談笑する。
 幸のギターの演奏を讃える者や、ゴブリンのようにどこから来たのか尋ねる者、笑顔を褒める者。

 そして、皆、来るたびにルーコルアを瓢箪の中を、ぱんぱんにして行く。

 現実世界ではあんなに貶されていた幸は、この世界に来て、ギターひとつで評価されて行くことに、心に何か温かい物を感じていた。
   
「楽しいか?
 俺は幸がいるから楽しいぞ!」
よこに座るハーピーが問いてくる。
 大きな羽を幸の肩に回しまた赤いコートを羽織る形になっている。

「うしし。
 ライブからのこの流れ、最高だよ。
 めちゃくちゃ楽しい!
 正直転生されてピーネと出会ってすぐ地獄みたいな気分だったけど…。
 今は本当に出会えて良かったと思ってる。
 ありがとう。」
幸はこのジェットコースターの様な1日の最後に、現実世界でもしたことのない楽しいことが待っていた事にはとても満足している。

「幸が笑顔で俺も嬉しい!」
ピーネも笑う。

「ピーネと演奏が出来たのもとても楽しかったよ!
 そのハープってどうしたの?
 フレームも金属だし、この村で作ったものじゃないよね?」
幸はハーピーの持つハープについて言及する。

「あぁ、これか?
 これは俺の故郷の近くの町の友達の形見なんだ。」
ピーネはハープを撫でながら言った。

「かっ、形見!?
 ごめんね。言いにくい事聞いちゃって…。」
魔物にも人間と同じ死生観があるのかは分からないが、シュンとなる幸。

「気にすんな!
 形見って行っても本当は生きてるかも知れねーんだ。」
ピーネは気さくに笑う。

「そうなの?」
形見と言えば死別しかイメージのない幸は戸惑う。

「俺の故郷は、この世界で"1番大きかった国"の近くの森だったんだ。
 だけど、"その国が一年くらい前、雨がザーザー降る夜に突然消えちまったんだ"。
 その消えた広い場所の中に友達の町もあったってわけさ。
 だから死んだのか生きてんのかはわかんねー。
 みんなでなんかあって村から逃げたのかも知らね。」

 ピーネは続ける。
「あいつの事だからそのうちひょっこり顔を出すさ。
 それまでの形見だ。」

「…そうだね。
 大丈夫!
 きっとまた会えるよ!
 その時は俺にも紹介してね!」
幸もピーネの気持ちが暗くならないように返した。

「えー、幸は俺の嫁だから他の女に紹介したくない!」
ピーネは大きな翼の中で身体を擦り寄せて言う。

「わっ、わかったから!」
幸は赤面しながら引き剥がそうと試みるも、ピクリとも動かなかった。

「そうだ、ピーネはその居なくなった友達を探すために故郷を出てきたの?」
諦めた幸が話を戻す。

「ん…、それももちろんあるけど、1番は何故か故郷の村のみんなが、楽器を持ってる事に怒りだしたんだ。
 ちょっとでも音を出すと、嫌だ嫌だ、不快だ不快だって喚き散らすんだ。
 んで、楽器を捨てるか村から出るかって皆んなに言われて、俺は村を出た。」
幸は、ずっと笑顔や悶絶の恍惚の表情しかみた事がなかったピーネの悲しそうな顔を初めて見た。

「何それ!?
 突然酷いね…。
 ピーネのハープいい音出てるのに…。」
幸は心地よく協奏出来たピーネのハープが悪く言われるのがつまらない。

「俺がもっと幸みたいに弾けるようになったらみんな認めてくれるさ!」
ピーネは笑顔で幸を抱きしめるのだった。

「それよりも幸、飲め飲め!!
 今日は出会いの記念の日なんだ!!」

 楽しい夜は更けて行く。


…………。


……。

**************************************
--------------------------------------

    今日は本当になんて日だったんだ!!!

    最高のbirdsでのバンドライブ!!!
    から一転して…。

    いきなりの異世界転生!!

    いきなりの魔物達!!!

    ……いきなりのクライマックス…。

    最初はどうなる事かと思ったけど、
    ピーネと出会えて、この村の魔物達に出会えて良かった。

    ここは現実よりずっと楽しいし、優しいよ!!

    色を塗りたくって、塗りたくって、最終的に虹色になったようなもんだ。

    普通は最悪の黒になるよ?

    それがまさかのレインボー!

    奇跡だったよ。

    そして何よりもあれだ。

    やっぱりライブだ!!

    こっちでも出来てよかった!
    ギターがこっちでも弾けて良かった。
    俺の音楽でみんなの心の中に色んな"色"が描けるんだ!
    
     俺は「楽しい」という大海の中をギターとともに泳いで行くよ。
    色んな景色を見にいくためにさ!!

    ……。

    …………。

    …………………。

    そして最高の一夜は過ぎて行くのであった……。

--------------------------------------
**************************************
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ
ファンタジー
七つの大陸、それぞれを支配する“七大魔女”── 魔力あふれる世界《アルセ=セフィリア》は、魔女たちによる統治と恐怖に覆われていた。 だが、その支配に終止符を打つべく、一人の男が立ち上がる。 名はルーク・アルヴェイン。伝説の勇者の血を引く名家の出身でありながら、前世はただの社畜。 高い魔力と最強の肉体、そして“魔女の核を斬ることのできる唯一の剣”を手に、彼は世界を平和にするという使命にすべてを捧げていた。 ──しかし、最初に討伐した《闇の魔女・ミレイア》はこう言った。 「あなたの妻になります。魔女の掟ですから」 倒された魔女は魔力を失い、ただの美少女に。 しかもそのまま押しかけ同居!? 正妻宣言!? 風呂場に侵入!? さらには王女や別の魔女まで現れて、なぜか勇者をめぐる恋のバトルロイヤルが始まってしまう!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...