異世界でもギターしかなかった

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第1巻 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とバーウの村~

第20話「成すべきことってなんだろう」

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…………。

……。

        「……頭痛いー……。」

 しこたま飲まされた幸が、うなだれながら起きた。
前回の打ち上げのあとと全く同じ状況。

 幸はこの既視感に“ハッ!”となりすぐさま手を自分の両胸にクロスし、股はしっかりと腿で挟んで防備する。
 
 ……良かった。
 今回はしっかり服は着たまま寝ていたようだ。
ピーネもまだまだ起きなさそうだが、胸ははだけていない。
しかし寝相は悪い。

 ピーネが起きるまでまたすることがないぞと、思いつつ気が抜けた途端に視界の端の気配に気付く。

 ほっぺたに鼻が触れるのではないかという程近い位置で、キヨラが息をしていて、幸が気付いたと同時に口をだす。

「幸、おはよう。
 あなたって、本当は楽奴じゃないでしょ?」
ほっぺたをツンツンしながらキヨラが問うてくる。

「うわっ!!
 ……びっくりしたー。」
幸は女性の顔が近いという驚きと、文字通りついて出た質問に対しても驚き、飛び上がる。

 でも、隠す事でもない。
そもそも、など、自ら聞きたかったのだ。

「おはよう。キヨラ。
 ……、そうなんだ。
 俺は楽奴じゃない。
 ……別の世界から来た転生者なんだ。」
幸はキヨラの目を見てはっきりと告げた。

 キヨラは驚かない。

「……やっぱりそうなんだ。」
キヨラはと告げた。

 まさか別の転生者の話を知っている?
過去にそんな事例があったのか……!?

「そうだよねぇ~!
 楽奴だったら楽しそうに演奏なんてしてるわけないもんねぇ~。」
全く見当違いの返答。

「でも私、昨日本当に楽しかったんだよ!
 初めてヴァイオリンを弾く事が楽しいと思えた!!
 これは全部幸のおかげ!!
 ……これからもずっと一緒に楽しい演奏していきたいな……なんて……。」
キヨラは冗談まじりに本音を含ませて幸にウィンクする。

「ありがとう。
 俺もめちゃくちゃ楽しかったんだ。」
幸は本気の笑顔を見せる。

「でも俺は、転生する時に言われたんだ……。
 【成しなさい】って……。
 何を成せばいいのかはまだ何も分からないけど、俺にはやらなくちゃならないことがあるんだ。」
幸は真っ直ぐに言う。

「そっか……。
 幸は何かを成さなければならない……。
 ね!ね!ね!幸!
 私にもそれ手伝わせて!!
 私も幸と何かを成してみたい!!」
キヨラも真っ直ぐな気持ちで応える。

「……いいの?
 キヨラが手伝ってくれたらそりゃ俺だって心強いけど……。」
こんな綺麗な女の人が自分なんかを……、と幸は思う。

「いいの。
 言ったでしょ。
 私は幸の演奏を聞いて一発で落ちちゃったの。
 ……今からだって、私の全部をあげてもいいんだよ……。」
抜け駆けはまずいと思ったのか、キヨラはほっぺたに唇を触れるだけに止める。

「ん……!?」
元高校2年生には刺激が強い。

「それに、私、何を成せばいいのかもなんとなく分かってるんだなこれが!」
キヨラは腰に手を当て鼻を高々。
ピーネの"えっへん"癖がうつったか?

「え!?
 何を成せばいいの!?」
幸は藁をも縋る勢い。

「世界中で苦しんでる楽奴達を助けるのよ!」
キヨラは迷いなく言った。

「幸の演奏を聴けば分かるわ。
 音楽は絶対に"音が苦"であってはならないの。
 音楽は人を幸せにするものよ。」
キヨラは続ける。

「神様がそう言う風に、苦しむように……。
 人を、音楽を作ったのだとしたら、私のこの気持ちは何?
 そして、幸のその楽しそうな笑顔は?
 魔物達のあの幸せな顔は?」
さらに強く訴える。

「楽奴だけじゃない。
 そもそも人間が音楽を嫌ってること自体がおかしいのよ!
 だから、幸の成すべき事は、楽奴を解放すること。
 この世界に音楽を取り戻すことだと思う!」
キヨラはついつい涙が溢れる。

 キヨラはずっと楽奴として、苦しんで苦しんで音楽と向き合って来た。
 誰に強制されているのかも分からない。もともとそうプログラムされているロボットみたいに、キヨラは演奏をさせられ続けた。
 雨の日も風の日も、誰も聴いてくれない演奏を、誰に届けたらいいのかも分からず、鬱鬱と。

 しかし、それが、幸の出現で思い知ったのだ。
音楽は人を笑顔にするもの、人を幸せに出来るものなのだと。
 それはキヨラにとっての解放だった。

「……キヨラ、ありがとう。
 なんか俺、すっごい胸に刺さった!
 そうだよね!
 俺の音楽でみんなの心の色……。
 空っぽの灰色から、色んな色に変えたい!!」
キヨラの言葉がすんなり入って来た。

 そもそも幸も、この現実世界から一緒にやって来た相棒。
このギターを持って何かを成すのだと思っていた。
 それがアルメイヤの言う【成しなさい】なのかは分からない。
それでも幸は、キヨラの言う"楽奴の解放"、この世界に音楽を取り戻す事に全力をかけたいと思ったのだ。

…………。

……。

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