売れないミュージシャンなんだけど、追っかけのロリが「昔の曲の方が好きだった」とか言ってプロデューサー気取ってくる

平山安芸

文字の大きさ
10 / 30
1-2 生活とロリっ子JCプロデューサー

10. 時間を金に変えた

しおりを挟む

「篠崎くーん。そっち片付け終わったら7番テーブルオーダー取ってー」
「ういーっす」

 食べ残しばかりの皿を器用に抱え込み流し場へ叩き込む。まだ昼にもなっていないというのに騒がしい客だ。手を挙げるな。俺を呼ぶな。呼び出しボタンを使え。


 世間は大型連休に浮かれ尽くしているが、社会の底辺をギリギリで生き抜く俺にはまるで関係の無いことだ。今日明日は朝から24時間営業の居酒屋でホールスタッフのアルバイト。

 八宮wave以外のライブハウスからはお呼びも掛からない現状。ミュージシャンだなんて自称も良いところで、実態はただの貧乏フリーターに過ぎない。篠崎佑磨、21歳の揺るぎない現実である。


「お疲れさん、休憩どーぞぅ」
「石井さん。お疲れさまっす」
「なんか食べるー?」
「棒棒鶏ください。クソ大盛りで」
「ちょっとは遠慮しろや!」

 大学生と思わしき集団から大量のオーダーを受け取ると、店長の石井さんに声を掛けられる。もう半分過ぎたか。時間経つの早いな。


「最近すげえじゃん篠崎くん。こないだ出したって曲、俺も聴いたよ。5万回再生だっけ?」
「いやぁ、偶然っすよ」
「ここだけの話、篠崎くんがミュージシャンだって信じてなかったんだよねえ」
「まぁ見た目だけっすから。要素」
「分かるー。マジで金髪似合ってない」
「気付いてるんで安心してください」

 24時間営業がウリの個人経営居酒屋「酒豪一家ハチミヤ」だが、夕方から深夜にかけての繁盛ぶりと比べれば朝昼の時間帯は客足は数えるほど。

 比例して時給は下がるが、シフトの融通利きまくり、賄い食べ放題の環境は、俺みたいな売れないミュージシャンにとってこの上なく最適な環境だ。

 石井さんに作って貰った棒棒鶏を片手に空いたテーブルへ。店内で勝手に食って良いの楽で有難いんだけど、色々とラフ過ぎて心配になる。まぁ八宮って若者ばっかりだし、クレームとかあんまり来ないのかな。


「石井さん仕事は」
「んー。じゃあ休憩取るわ」
「そんなんで良いんすか店長が」
「暫く新規の客来てないし、今いるホールの人数で回せるよ。灰皿取って」
「いい加減禁煙にしましょうよ」
「昨日役所の人が抜き打ち来たばっかだから。気にしない気にしない」

 煙草に火を付け向かいのテーブル席に座る。いくら個人経営だからってルーズにもほどがあるよな……石井さん一人で始めて大きくした店だし、自己責任ってやつか。まだ30代前半なのにすげえわ。

 しかしまぁ、俺の周りってホント喫煙者ばっかりなんだよな。知り合いの音楽仲間の未成年もガンガン吸ってるし。ヤバすぎるよ絶望快楽都市八宮。


「……なに? どしたの?」
「いや、なんでも」
「彼女に浮気でもされた?」
「居ないっすよ。年齢イコールなんで」
「えー? バンドマンモテるでしょー」
「食えそうなファンも見当たらないもんでね」
「あははは! それは確かにな!」

 割とシビアな問題なんだぞ。んな軽く笑うな。美味い棒棒鶏作る以外に才能無い癖に。ドチャクソ美味いんだよふざけんな。


(すばるん何してんのかなあ)

 で。そう。ため息の理由。
 自宅に置いて来たロリプロデューサーの件。


『どうしてミュージシャンが週4ないし週5フルタイムで働いているんですか! お金も大事ですが、もっと他に優先すべきことがあるでしょう!』

 家を出る前、すばるんからこんなことを言われてしまった。堅いフローリングの床で迎えるJCとの朝は中々に悪くないモノだったが、この一言で気分はガタ落ち。

 今日も新しいマーケティング戦略を……と息巻いていたすばるんに「いや普通にバイト」とアッサリ伝えると、ちょっとした言い争いみたいになってしまった。


 何だかんだすばるんは、ミュージシャンというものにどこか過剰な幻想を抱いている節が否めない。週の大半をアルバイトに費やす時間の使い方が、彼女はどうしても気に食わなかったらしい。

 今どきメジャーアーティストだって兼業して日銭を賄っているのだ。ライブのことだけ考えてればいい生活なんて、俺みたいな三流には想像さえ付かない世界。


(ちゃんとメシ食ってるかな)

 お金はほとんど持っていなかったので、1,000円札一枚置いて逃げるように家を出て来たのだが……正直小遣い500円でも多いよなあ、今の生活水準じゃ。


「やっぱ女でしょ。篠崎くん」
「だから違いますって……じゃあ話しますよ。石井さん、一個相談なんすけど」
「お? なに?」
「石井さん、一人でこの店始めて普通に繁盛してるじゃないっすか。凄いっすよね」
「おいおい急になんだよ。小遣いならやらねえぞ。煙草はあげるけど」
「要らないっすよガラム臭せえし」

 店舗の規模としてはそれほどだが、石井さんが売り上げで頭を抱えているところを今の今まで一度も見たことが無い。

 やや薄暗い照明に木造のノスタルジックな内装。石井さんのこだわりが存分に詰まった雰囲気の良い店だ。その辺のチェーン店よりよっぽど繁盛している。

 要するに石井さんは、自分のポリシーを貫いたまま売り上げという結果を出し続けているわけだ。これってもしかしなくても凄いことなんだよな。


「難しいっすよね。自分のやりたいことで食って行くって。やっぱ」
「んー。そうだねえ」
「なんかこう、店始めるときに意識してたこととかあるんすか?」
「意識? なーんも。やりたいようにやっただけ」
「はぁー……やっぱ天才肌はちげえな……」
「あー。でもそーだなー。一個だけあるとしたら……自信を持つってことかな?」

 腕を組み自慢の内装を恍惚の笑みで眺める石井さん。偶に仕事中も天井見上げてニヤニヤしてるんだよな。気持ち悪い。これは。普通に。


「例えばなんだけどさ。メチャクチャ美味いって評判のラーメン屋がすぐ近くに二軒あって、まだどっちも食べたことが無い。篠崎君だったらどうするよ?」
「ラーメン屋……そうっすね。取りあえずどっちか入って、気に入らなかったらもう一個の方に行きますかね」
「じゃあ、その「取りあえず」で一個の店を選んだ理由はなにさ? 味はどっちも同じレベル、値段も変わらないとして」
「…………外観、とか?」
「うんうん。他には?」
「空いてるかどうか」
「うーん、いかにも篠崎くんらしい答えだなー…………まぁそれも正解っちゃ正解なんだけどね。俺が思うにこの二軒のラーメン屋の差は、敷居の低さだよ」
「……どういうことっすか?」

 同じ場所に同じレベルの店が二軒。
 条件としては何も変わらないんじゃ。

 石井さんは不敵にえくぼを広げ、独自とも王道とも呼べる商売論を語り出す。


「実はその篠崎くんが入った店、看板にでっかく「激安! 本場の家系ラーメン! ライスお代わり無料!」って書いてあるんだよ」
「なんすかその超後出しじゃんけん」
「で、もう片っぽの方は店名が乗ってるだけ。いやね篠崎くん、これとっても大事なんだよ。ウチの店前に置いてある看板になんて書いてある?」
「『外れ無し 普通の安くて美味しい居酒屋 実は八宮ナンバーワン』……ですね」
「そう。オープンしたときからずーーっと置いてんのその看板。これに惹かれてみんなドアを開くんだよ」

 それはつまり……分かりやすい売り文句を出し惜しみしないってことなのだろうか? 随分と単純な話だが、それだけで上手く行くものなのか。


「あのね篠崎くん。人は興味を持ったものにしか興味を持たないの。意識の内側に入らないと、なにも動かないし、変わらないんだよ」
「……そう、なんすかねえ」
「それでいて、人間っつうものは見返りを求めるからね。勝手に期待して、勝手に失望するわけ。ほんで、この店はどう? お客さんの期待に応えられてると思う?」
「まぁ、上々ですね」
「そっ。細かいところなんて二の次。お客さんは自分なりに答えを出して納得してくれるのさ。普通と言っておきながら意外と内装がお洒落だとか、本当に安いししかも美味しいとか。勝手に付加価値を付けてくれるんだよ。まぁ狙ってるんだけど」
「はぁ……っ」
「もし期待外れだったって人が居ても、そんなの知らないよ。だって新規の客がドンドン来るんだから」

 入り口を広げるだけ広げて、満足できなかった人間はすぐに切捨てる。ということか。昨日もすばるんから似たような話を聞いたな……。


「篠崎くん。こだわるのは大切だよ。でも「魅せ方」にはこだわっちゃいけない。分かる奴だけ分かればいいとか、最悪だから。とにかく気付かせる、見付けて貰うことが重要なんだ…………っと、新規さんだね。じゃあごゆっくり~」

 立ち上がりスタコラとお客さんを案内する石井さん。メチャクチャ私服で。あれでよく飲食店に立てるよな。TPOに物理で殴られろ。


 魅せ方、か。
 正論のような、邪道のような。
 
 すべてを受け入れれるわけにもいかない。だが少なくとも、石井さんは結果を出している。一方で俺はというと……。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...