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1-2 生活とロリっ子JCプロデューサー
11. 顔だけなら良いけど心もだ
しおりを挟む休憩から上がると複数の団体客が大挙して押し寄せた。よほど例の看板が効果を発揮したのか、レジを埋め尽くしていく札束とは対照的に我々ホールスタッフの膝を擦り減らしていく。
「あ゛ー……キッツぅ゛……」
「篠崎さん、お疲れさまですっ」
「おっつーカエデちゃん……ごめん、タイムカード俺の分も切っといて。動けねえ」
「あははは。りょーかいですっ」
石井店長のデスクとロッカーがごっちゃになった、スタッフルームとも呼ぶに値しない狭い一室。
拘束時間を30分オーバーしようやく遅番と交代出来た。奥のパイプ椅子にもたれ制服を頭から被る俺を、同じ早番のホールスタッフである佐々木楓ちゃんが苦笑交じりに眺めている。気がする。被ってるから見えん。感覚。
「ゴールデンウィークの真ん中ですから、仕方ないですよ。遅番さんはもっと大変でしょうし」
「てかカエデちゃん、入ったばっかの頃は遅番だったよね? なんで移動したん?」
「い、いやぁっ、色々とありまして……」
「ふーん」
カエデちゃんは八宮のすぐ近くのキャンパスへ通う大学一年生。春に徳島から上京して来たばかりで、印象的なおさげの黒髪が示す通りのお淑やかな子だ。ちょっと舌っ足らずでアニメ声なところもまた可愛い。
まだまだ都会の色に染まった様子は無い。当店イチオシは棒棒鶏でも塩唐揚げでもなくカエデちゃん。譲れない。何物にも。
「篠崎さん。Stand By YouのMV観ましたよっ」
「えっ。あぁ、あんがとね」
「すっごく良い曲で感動しちゃいました。なんかこう、お互い背伸びし合ってる恋愛っていうか、もどかしい感じが伝わって来て……地元の友達にも教えちゃいました。こんな人と一緒に働いてるんだよって、自慢になっちゃいますかねっ?」
歌うような声色でスタバの感想を語るカエデちゃん。彼女くらいの年頃の女の子には好評のようだ。やはり。図らずとも。
さっきの休憩中に確認すると、YourTubeでのスタバの再生数は更に増えていた。もうすぐ10万再生だと。
今まで投稿して来た曲の再生数を合わせても敵わないとんでもない数字だというのに、こんなに嬉しくないものか。
相変わらず他の曲の数字は増えないし、コメントも付いていない。今日もすばるんがフォロ爆ローラー作戦を継続中らしいが……いったいどうなることやら。
「篠崎さん、すぐ近くの……八宮wave? でしたっけ? そこでライブしてるんですよね。近いうちにライブとかってありますか?」
「今月はすぐ次の水曜と、月末かな」
「あれっ? 意外と少ないんですね」
「ノルマって言ってさ。最低集めなきゃいけない人数の縛りがあって、足りない人数の分は自分が払わないといけないんだわ。だから頻繁には……ね」
「ほぁ~……大変なんですねえ~」
そもそもライブハウスというものは毎日のように催しは行っていない。普段世話になっている八宮waveもバー営業とライブが半分ずつくらいだし。
支配人が辛抱強く面倒を見てくれているからどうにかステージに立てている現状。ノルマを達成できた回数の方がずっと少ないのだ。要するに、コネ。
勿論ライブに出たいやつは幾らでもいるのだから、俺みたいなミュージシャンの代わりなどいくらでも利く。いつ友好関係にヒビが入ってもおかしくはない。
当面の間はスタバのおかげで、俺目当てでチケットを買ってくれる人がいるから大丈夫だとは思うけど……かといって一曲で帰られるのもなぁ。
「7日、来る?」
「えっ? 良いんですか? 篠崎さん、あんまりライブ来て欲しくないって前に言ってたじゃないですかっ。それに女の子一人だと危ないって……」
「あー……言ったねぇ……」
確か四月頭の歓迎会だったっけ。スタバを作り上げる前で、あの頃の俺が一番荒んでいたな……。
せっかく純粋無垢で汚れの無い少女と仲良くなれたというのに、壊滅的な状況を曝け出すのが妙に恥ずかしくて。が、今はもうそんなことを言っていられない。
「いやまぁ、心境の変化っつうか。別に大人しくしてりゃ絡まれることも無いし。本当に来るなら取り置きしとくよ」
「わあっ、本当ですか! ずっと観に行ってみたかったんです! ありがとうございますっ!」
「いやいやっ、礼を言うのはこっちだって。じゃあ日時とチケット代、あとでラインするから。よろしくね」
「はいっ! 楽しみにしてますっ!」
やったらテンション高いなカエデちゃん。
まぁ普段から元気っちゃ元気な子だけど。
確か7日のライブはまだキャパに余裕があったから、特に問題無くチケットは手配出来るだろう。でもそろそろ予約ギリギリだったな。
いやぁ、本当にスタバ様々だ。
懐の温かさにだけは代え難い。
バイト後だと特に思う。不覚にも。
「なに? カエデちゃんロックとか興味あったの? 俺のライブも良いけど、八宮ならそこそこの有名どころ幾らでも見れるし、お勧めとか教えようか。俺の友達がやってるNew Portlandってバンドが」
「あっ、いえ……そういうわけでは、そのっ……普通に篠崎さんのライブを見てみたいだけっていうか……すみませんっ」
「そう? いや別に謝らんでもいいよ。なんなら嬉しいし、New Portland全員死なんかなとか思ってるし、全然良いよ」
「お、お友達じゃないんですか……っ?」
若干訂正しよう。ナオヤ以外は死んでいい。あとの奴らは嫌い。特にドラムの奈良崎はすぐに死んでほしい。デブの癖に俺の目の前で悪口言うし。デブの癖に。
「それと、あのっ……今の話とは全然別件なんですけどっ……今日ってこのあと、暇だったりしますか?」
「……ビミョー」
「び、微妙っ?」
「約束があると言えばあるし、無いと言えば無い。そんな感じ。なに、デート?」
「でっ、デートではないんですけどっ……! えと、そのっ……最近篠崎さんとあんまりお話してなかったなぁって……っ」
デートじゃん。つまり。
マジかよ。久々にシフト一緒に入ったと思ったら気付かぬうちに好感度爆上がりしてるじゃん。どうしちゃったのカエデちゃん。
まさかスタバを聴き過ぎたせいで、俺の空っぽの恋愛観に影響でも受けちゃったのか。だとしたら病院行った方が良いよ? そして真っ当な精神を取り戻したのち、清く健全な交際へと発展しません? 金髪にして良かった。うふふ。
「だ、だめっ、ですか?」
「いんや。全然良いよ。明日も早番だから遅くまでは付き合えんけど。ていうかクソ疲れてるし。店とか全部任せた」
「ほっ、ホントですか! やった……! あっ、じ、じゃあすぐに着替えてきますっ! ちょっと待っててくださいっ!」
「おー。俺も途中だし、ごゆっくり」
薄っぺらいパーテーション一枚で仕切られた頼りなさ過ぎる更衣室に身を潜め、カエデちゃんは忙しそうに着替えを進める。
これだと帰りは遅くなりそうだな。すばるんには連絡しておかないと。ていうか、すばるんの連絡先ツブヤイターのDMしか知らんわ。帰ったらライン教えてもらお。
「外で煙草吸ってるね~ん」
「りょーかいですっ!」
スタッフルームを出てすぐ右隣に裏口へ繋がるドアがあって、従業員はここから出入りをしている。石井さんしか使ってない駐車場。
本当はここが喫煙場所なんだけどな。誰も守ってない。みんな休憩中、店内で普通に吸ってる。営業法うんたらが非常に心配。俺も守らないけど。
「あっ」
「えっ」
「お疲れさまです、ユーマさん」
お決まりの真っ黒なパーカーとスキニーでクールに待ち惚けるちっこい女の子。
いや。え。なに。怖い。
二度目だから若干慣れたけど。
なんで居るの。すばるん。
「ふっふっふ! 先月の頭に『バ先の歓迎会』という呟きがありまして、それをヒントにお店を探し出しました。これぞプロデューサーの底力っ……!」
厨二クサい不敵な笑みを溢すすばるん。
また写真と間取りから特定したのかよ。
その技術もっと他のところで活かせって。
「……あんまり驚いてませんね」
「いやもう疲れ過ぎてリアクションとか取る気起きねえよ……家バレしたらバイト先が割れるのも時間の問題だし」
「さあユーマさんっ。家に帰ってローラー作戦の続きをするのです。明日も早くからお仕事なのでしょう、今朝のことは水に流しますから……短い夜の時間も有効に活用するのですっ!」
ちっこい手を差し出して俺を引っ張ろうとするすばるん。貧弱だ。ビクリともしない。いやまぁ、俺がその場で踏ん張ってるからだけど。
「ごめんすばるん、夜はちょっと用事が」
「なっ、なんですか! またナオヤさんとお酒を飲むんですかっ! 今朝も言ったでしょう、そういうところで余計なお金を使うからアルバイトをする羽目に……っ!」
「すみません篠崎さんっ! お待たせしまし…………あれっ? その方は……」
おっとこれは修羅場ってやつかぁ?
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