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1-2 生活とロリっ子JCプロデューサー
16. 辛うじて息を吸って吐いている
しおりを挟む『とっても楽しかったです! 篠崎さん、本当にカッコよかったです! また誘ってください!』
結局ライブ後はフロアへ顔を出さず直帰した。
家へ帰ると既にすばるんが玄関前で待っていて「お疲れさまでした」と一言、どうして新曲を披露しなかったのかと問い詰められることも無く。つつがない夜が過ぎていった。
翌日。寝惚け眼を擦りカーペットの上で起床。ベッドはここ数日すばるんに占領されている。JCと添い寝する勇気は無い。する気も無い。
カエデちゃんから届いていたメッセージを確認する。そもそも音楽は詳しくない彼女のことだ、きっと忖度もなにも無い素直な感想なのだと思う。
だからこそ、苛付いた。何も分かっていない癖にと、一番言ってはいけない言葉が喉の先まで出掛かって、尚更苛付いて。
昨晩作って残しておいたコーンフレークを口に含んで、やっぱり馬鹿みたいに温くなっていて、ゴミ箱にそのまま吐き出した。
「ユーマさん、浴槽を掃除した方が良いかもです。カビが出来ていましたよ」
「えっ……あぁ、おう」
「元気無いですね。まだお疲れですか?」
タオル片手にすばるんがリビングへ現れる。もうなんの断りもなくシャワー使ってるんだな。たった数日でここまでロリが生活に馴染むとか、意味不明過ぎる。笑いも起きん。
恰好はいつもと同じ黒パーカーに黒のスキニー。しっかりフードも被っている。同じセットを何着も持っているらしい。こだわりがあるのか無いのか。分からん。
「……昨日のライブ、良かったですよ。スタバを歌ったのは残念極まりないですが、あくまでもそれは付け合わせ、オマケという扱いだったので一旦引き取るとします。ユーマさんの良さが存分に出た素晴らしいステージでした!」
無駄にデカい声で励ますが、素直には受け取れない。彼女が大袈裟に物を言うのはたいてい主張に自信を持てないからだ。ここ数日のやり取りでもなんとなく分かる。
「……本当にそう思うか?」
「ほえっ?」
「たった一人の追っかけに気を遣われる悲しさや虚しさったらねえな。なあ」
「すっ、すみませんっ……! えっと……ご、ごめんなさい…………正直に言います。いつものライブより、こう、なんて言うのでしょう。エネルギーの方向がブレているというか……どっちつかずな感じだなぁ、と……」
「流石、良く分かってるな」
抱え続けている葛藤がモロにステージへ反映されてしまったことに、彼女も気付いていたようだ。
ハッキリ言って、今までこなして来たライブでも下から数えた方が。いや、なんだったら一番酷いモノだった。
魂が籠っていない、なんて曖昧な言い方は好まないが。まぁでも、つまりそういうライブだった。
「……ユーマさん。落ち込んでいる場合じゃないのです。昨日のライブ、間違いなく収穫はありました」
「……なんだよ、それ」
「例の女です。ユーマさんの音楽を好むかどうかはともかく、身近な人間に一定の評価を貰えたのですから。恐らく次のライブにも顔を出してくれますよ」
女って、カエデちゃんのことかよ。
もっと適した表現があるだろ。口悪いな。
「一発逆転の秘策などありません。地道な努力だけが実を結ぶ、厳しい世界なのです……! 昨日のライブは忘れて、今日を生きましょう!」
「……まぁ、忘れるには忘れるか」
「はいっ! 今日もローラー作戦なのです! 今回はターゲットを変えて、フェイスノートに短い動画を投稿しましょう。他のSNSより利用者層が高めなので、ユーマさんのようなブルースロックを好む方が多い可能性が…………聞いてますか?」
不安げな目でこちらを覗き込むすばるん。
正直に言うと、あまり聞いていなかった。
「……やっぱり、お疲れですか?」
「……ちょっとだけな」
「そう、ですか……っ」
やる気が出ない。声を出す元気が無い。身体を動かしたくない。参ったな、こりゃ思っていた以上に重症だ。
すばるんの言う通り、俺みたいな無名ミュージシャンこそ時間を惜しまず曲作りや宣伝に精を出さなければいけないのに……これじゃ八方塞がりだ。
「…………気分転換、しますか?」
「……どうやって?」
「私もどうしようもなく暇になったり、思い詰めてしまったときは……ユーマさんの曲を聴きながら、家の近くをお散歩するんです。爆音のBGMと静かな住宅街のコラボレーションは中々に爽快なモノですよ」
散歩か。そういやこの辺りって駅前の繁華街を離れたら住宅ばっかの結構静かなところなんだよな。
上京したての頃は「新曲のインスピレーションを膨らませるんだ」なんだと言って意味も無く近所をほっつき歩いていたっけ。
最近は八宮waveとバイト先を行ったり来たりで、あとは家に籠って曲を作るか練習するかのどっちかばかりだな。
「……じゃ、するか。散歩」
「はいっ。せっかくですから、ギターを持って行きましょう。新しい曲のインスピレーションが沸くかもしれません!」
「ははっ。そうだな」
「……っ? なんで笑うんですか?」
「いや、なんでもないよ。行こうぜ」
何だかんだ俺たち、似たようなこと考えているんだよな。だからこそすばるんも俺の楽曲に惹かれたりしたのかも。なんて、口に出したところで何も変わらないが。
悩み狂って家に引き籠るかよりかは生産的な筈だ。そうでも思わなきゃやってられない。こんな実りの無い生活は。
「近くにこんなに大きな公園があったんですね……! わっ、ターザンロープですよっ! 初めて実物を見ました!」
歩いて10分ほどのところに、この辺りでは割かしな部類に入る自然公園がある。広場までの結構な山道をギター担いで登るのは苦痛極まりないが。
小学生が一日時間を潰せそうな遊具は大方揃っている。すばるんも目を輝かせて目前のターザンロープへと飛び込んで行った。
年齢相応とは思わない。テンションの上がり方が子ども過ぎる。女子中学生なんてもっと面白い遊び沢山知ってるだろ。そうはならんよ普通。
「わわわっ!? ゆっ、ゆーまさん! これ止まらないですっ! 死ぬっ、死にますッ!! だわほぉぁぁぁァっ!!」
「猿かよお前」
ロープに飛び乗ってゴール地点まで辿り着いたは良いが、勢いが強すぎて衝撃で地面へ投げ飛ばされてしまう。全身真っ黒のコーディネートが砂で汚れてしまった。
転んだ拍子にフードが外れ、艶やかなショートカットの黒髪が露わとなる。
遠目から見ずとも若干ボーイッシュなだけでただの可愛い中学生。こんな子と六畳一間で同居してるのかよ。どういう状況だ。誰か通報しろ。敢えて。
「良い天気だな……」
「ちょっと、黄昏てないで手の一つでも貸してくださいっ! 華の女子中学生に対して優しさというものは無いのですかっ!」
「自分で言うなそんなこと」
目前には芝生の広場もある。他に利用者は居ないみたいだし、ここで何も考えずギターを掻き鳴らすのも気持ちよさそうだ。
ビニールシートの類は持っていないので、そのまま地べたに座りケースからギターを取り出す。童心に帰って遊具で遊ぶのも悪かないが、お生憎こっちのほうがずっと楽しいモンでね。
「すばるん、何が良い?」
「えっ……歌ってくれるんですか?」
「良いよ、なんでもリクエストしな」
「でっ、では……最近のライブで聴けていないので『ロストワールド』と『Moon Song』をお願いしますっ! あと、出来れば新曲も……!」
「はいはい。後で金払えよ」
チューニングもそこそこにピックを握りコードを掻き鳴らす。どれもこれも似たようなハイカラのブルースだ。
オリジナルソングのなかでも特に再生数の少ない曲だってのに……ホント、物好きな奴。
芝生にちょこんと体育座りし、大人しく演奏へ耳を傾けるすばるん。
投げ銭用の箱でもあればいいんだけど、誰かやってくる気配も無い。結局、またすばるん一人のためのライブになってしまった。
だが、これがこれで心地良くて、困る。
昨日のライブなんかより、ずっと、ずっと。
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