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帰ってくれ、ロリっ子JCプロデューサー
19. 意味の無い歌ばかり聴かせないでよ
しおりを挟む「お帰りなさいですっ。早かったですね」
「おう……休みって言ってた奴が結局来れたみたいでな。お役御免だったわ」
「あれ、コンビニ弁当ですか? 暫く贅沢出来ないって言ってたじゃないですか」
「臨時収入がな。ほれ、食べな」
「……いっ、いただきます!」
7時を回った頃、適当な嘘を吐いて自宅へ戻る。疑う様子も無くすばるんはSNSの巡回を続けていた。
久しぶりの真っ当な食事に喜びを露わにし、マウスを動かす手を止め弁当へ飛び付くすばるん。ごめんなこんな粗末な晩飯で。育ち盛りなのに。これ以上背が伸びなかったら三割俺のせいだわ。
(なるほどねぇ……)
すばるんがご飯を食べている間、ベッドへ横になってスマホを弄る。教えられた公式ページから参加アーティストを確認。
所謂売れっ子と呼ばれる者はそれほどだが、まぁまぁ知名度のあるバンドやソロミュージシャンが多い。YourTubeで見掛けたことのある顔ばかりだ。
その中に、ポツンと名前だけ載っている。
追加出演、シノザキユーマ。
登坂Club Doの支配人、二階堂は俺の存在を知っていた。正確に言うと、スタバに関心を持っていた。
キミがあの曲を歌っているのか、これは失敬失敬。とオファーを取り下げた玲奈の目の前で悪びれもせず俺へ出演オファーを出して来たのだ。
そのまま近くのファミレスまで連れて来させられ、ギャラと当日の日取りに関する諸々をテキパキ提示され、断る暇も無く出演が決まってしまった。
Club Do主催の若手アーティストによる対バンイベント。名前は『登坂スターダム』というらしい。
このコンビニ弁当も「取りあえずこれで美味しいモン食べて!」と無理やり手渡された3,000円で購入したものだ。見た目にそぐわず羽振りは良い男である。断る理由も無いから受け取っちゃったけど、若干後悔はしている。
ちなみに当然と言えば当然だが、自分への誘いを一方的に取り下げられた挙句、当て付けのようにオファーを挿げ替えられた玲奈はメチャクチャ怒っていた。
絶対観に行ってやらねえ死ねッッ!! とおっかないラインが届いている。既読は付けていない。
『Stand By Youだけじゃない、キミは間違いなくこの路線で大きなチャンスを掴める! 本気で売れたいなら今までの楽曲は忘れるべきだ、第二の蒼樹涼になるんだよっ! いや、僕がキミを蒼樹涼にしてあげるから!』
二階堂から言われた言葉だ。
蒼樹涼とは最近ドラマや映画に引っ張りだこの若手俳優で、元々はシンガーソングライターとして活動していた人物。
この一年で最もブレイクした芸能人と言っても過言ではないだろう。ややゴリ押しの感は否めないが、ソロ名義で出した楽曲も飛ぶように売れている。年末の特番歌合戦も間違いなく出場すると言われているが……。
(嫌いなんだよなぁ……)
テレビや街中でしょっちゅう流れているから勿論聞いたことがある。歌声は中々特徴的なのだが、肝心の楽曲がまぁつまらない。誰が作曲しているのかは知らないが、誰にでも作れる、誰でも歌える類のクソみたいなJ-pop。
元々は路上ライブを中心に活動していた蒼樹涼。第二の彼を発掘するのが二階堂の野望だそうだ。新しい才能を自らの手で発掘したいらしい。で、自分と登坂Club Doの名前を売りたいんだと。
「ユーマさん、テレビ点けても良いですか?」
「ご自由にどーぞ」
リモコン片手にザッピング。タイトルも分からないクイズ番組ですばるんは手を止めた。前述の蒼樹涼が回答者として出演している。
「またこの人ですか……最近どの番組でも見掛けますね。まったく、俳優なのか歌手なのかハッキリして欲しいものですっ」
グチグチ文句を垂らしながらもクイズ番組は見続けるすばるん。
マイナー厨の彼女のことだ、蒼樹涼のような大衆文化の権化みたいな人間は受け付けないのだろう。
「……なぁ、すばるん」
「ふぁい? なんれふか?」
「もし俺が……蒼樹涼みたいな感じで売れたら、ファン辞める?」
「蒼樹涼ですか。 別に、良いんじゃないですか? ユーマさんに俳優業が出来るとは思いませんが、今の音楽性を貫いたまま蒼樹涼くらい売れたら最高ですね。まぁ私は蒼樹涼嫌いですけど」
期待通りの回答にホッと胸を撫で下ろす一方、二階堂の言葉が繰り返し脳裏を過ぎる。
アイツが求めているのは、俺であって俺じゃない。俺の音楽に欠片も興味も無い。スタバのような曲を歌うそこそこ若くて将来性のある若者なら誰だって良いのだ。
そうでなければ「今までの曲は忘れて」なんて口が裂けても言わないだろう。事実、二階堂はこれまで出して来た俺の曲を一つも知らなかったし、ライブも観たことが無かったとなんの臆面もなく言い放ったのだから。
スタバ人気にあやかって、蒼樹涼のような虚像のアーティストを作り出そうとしている。俺個人へのリスペクトは一切感じられない。
(……でも、な……っ)
腐ってもお茶の間の人気者だ。蒼樹涼は。彼の名を知らない者は日本には居ない。そんな男に、第二の蒼樹涼になれる可能性が俺にある。
二階堂の影響力も無視は出来ない。登坂Club Doは本当なら、俺みたいな無名アーティストがどれだけ背伸びしたって届かない最高のステージなのだ。
登坂スターダムへの出演は俺の音楽人生を大きく変えることとなるだろう。良くも悪くも、世界が180度変わる。それは間違いない。
(嗚呼、情けねえ)
どうして俺は二階堂に「他の曲も聴いてみてください」「今の音楽性を貫きたいんです」と言えなかったのだろう。
いや、理由なんてとっくに分かっている。俺にとっての最高の音楽は、二階堂にとって。そして世間にとって最高のモノではない。誰も求めていない。
チャンスはすぐ目の前に転がっている。
掴むべきだ。何も考えず恩恵にあやかるべきだ。素直になるべきだ。だって、売れたいんだろ。有名になりたいんだろ。認められたいんだろ。
もう電気の支払いで頭を悩ませることも。安いコンビニ弁当で一喜一憂することも。何かと時間を食っているアルバイトに精を出すことも無くなる。
俺は、何者かになれる。
少なくとも今よりはマシになる。
ずっと欲しかったなにかを掴める。
なのに、どうして。どうしてだ。
こんなに胸が痛むのは、どうして。
「ごちそうさまですっ。さあユーマさん、作戦の続きなのですっ。ユーマさんは新曲作りを……!」
「んっ」
再びパソコンに向かいSNSサイトを開くすばるん。オレはギターを手繰り寄せてベッドに座り適当にコードを鳴らす。
C、G、Am、Em、F、C、F、G。王道のカノン進行というやつだ。スタバもこれが使われている。それ自体を否定するわけではないが、俺の楽曲には、スタイルには似合わない。必要の無い代物。
だが、妙に心地良い。そりゃ当たり前だ。こんなに耳馴染みのある音は無い。テレビを点ければ同じコード進行の曲がごまんと溢れている。知らず知らずのうちに生活へ染み込んでいるのだ。
「……それも、新曲ですか?」
「いや、弾いてみただけ」
すばるんも気になったのかこちらへ振り向き、どっちつかずな顔で様子を眺めている。そのままジャカジャカとコードを引き倒し、誤魔化すように壁へ背中を預けた。
こんなのが良いのか。
こんなので、良いのか。
楽なモンだ。人と同じことやって受け入れられるってのは。埋没すればするほど、心の隙間も無くなって気持ち良いなんてさ。
「むむっ、以前の曲に反応が……って、批判コメントじゃないですか! こんなの批評じゃなくてただの悪口なのです! 削除してやるのですっ……!」
顔を真っ赤にしてYourTubeのコメント欄を削除していくすばるん。辞めときなって。それただの言論弾圧だって。
いや、でも、そうか。
このコードと違って、俺の音楽は大勢にとって不快な音でしかないんだよな。
違和感は。不具合は。淘汰されて然るべきなんだよな。出る釘は打たれるんだ。
「…………クソみてえだな」
「ユーマさんの音楽を理解出来ない凡人など、クソもクソのゴミカスなのですっ! フシャーッ!!」
画面に向けて威嚇し出す彼女。
違うよ、そういう意味じゃない。
クソなのは、よっぽどこっちの方なのさ。
それが分からないってんだから酷い話だよな。
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