18 / 30
帰ってくれ、ロリっ子JCプロデューサー
18. 繰り返し回るミュージック
しおりを挟むすばるんが我が家へやって来て五日目の午前。どうにか持ち合わせで電気を復旧させた昨日に引き続き、すばるんがSNSマーケティング。俺は新曲づくりに励む。で、昼を過ぎた頃。
「今日は遅番なんですか?」
「んっ。500円置いとくから、好きなモン買って食っててくれ。余ったら返せよ」
「……こないだより少ないんですね」
「察してくれ、だいたい」
すばるんが家へ帰る予定の日がちょうど給料日。贅沢はさせてやれそうにない。どうせ食費とノルマの支払いで全部消えるんだ。今月も。
いってきますと一声掛け自宅を出る。10分ほど歩き最寄り駅の改札を潜り、お店のある八宮方面のホームへ……向かわない。
(ごめん。メッチャ嘘吐いた)
実は今日、シフトは入っていない。ライブは基本夜だからバイトは早番固定になっており、よほど人手不足でない限り遅番には入れられないよう石井さんに配慮して貰っているのだ。ではどこへ向かうかというと。
「うわークッソ混んでる……」
最寄りから急行で6駅ほどの藤ヶ谷という駅で降りて、雑多な商店街を抜け10分。ライブハウスの前には既に長蛇の列。
目的は、フジガヤ音楽祭。この地域にある複数のライブハウスを跨いで行われる、俗に言うサーキットライブというもの。
ライブハウスを渡り歩き、三日間で総勢100組近くのアーティストをつまみ食いできるのが最大のウリ。結構長いこと続いているこの辺りじゃ特に大きなイベントだ。
入場費は一日3,000円。普通のフェスと比べても激安の類だが、給料日前の俺には手の出せない金額である。何故こうして足を向けたかというと、理由は単純。玲奈が出演するからだ。
ノルマにかなり苦しんでいるようで、一週間前にチケットを半額で買わされた。全額身を切るよりかマシだろうが、それで良いのか玲奈。
「13時20分から藤ヶ谷cottageで『ReNA』でーす! もうすぐ開演なのでお急ぎくださーい!」
スタッフがメガホン片手に呼び掛けをしている。玲奈のステージは今回の会場では藤ヶ谷cottageという、八宮waveと同じキャパ50人ほどの小さなハコ。
メインのライブハウスは去年メジャーデビューしたばかりのバンドの出番が目前のようで、列をなしているのはそっちの方だ。誰も藤ヶ谷cottage、ReNAのステージには関心が無い。こうも隣接した会場で差を目の当たりにすると心も痛む所存。
(って、意外と入ってるじゃん)
階段を降りて扉を潜ると、既にスタンディングのフロアはほぼほぼ満員だった。なんだ、こっちはこっちでキャパに見合った盛況ぶりだな。
薄暗い人波を手刀を切って進み、フロア後方右端に陣取る。同時に照明がパタンと落ち、フロアには歓声とも怒号とも付かない絶叫が飛び交かった。
……え、なんですばるん連れて来なかったんだって? だって知り合いの女のライブ観に行くとか絶対怒るじゃん。それも実質アイドルとか。中身はともかく。
『……始めっぞおお藤ヶ谷アアアアァ゛ァアア゛アアー゛ーーー゛ッッ!゛!!!』
おどろおどろしいサウンドエフェクトと共に、ド派手なレーザービームがフロアを飛び交う。
小さいハコなのに良くここまでやらせて貰えたな。スリップノットの曲で登場するアイドルとかお前だけだよ玲奈。独自路線突っ走り過ぎ。
あ、モッシュダイブある感じですか。いっつももっとゆったりしたライブじゃん、みんな普段の玲奈のライブ知らないの? 無理ムリ今日動けるテンションじゃない、うわヤバイ身体持ってかれ————
「…………キッ゛ツー……」
およそ25分のライブが終了。ズタボロの身体を壁へ預けると、他の参戦者たちも玲奈がステージからハケると同時にその場でガックリと膝を付く。
凄まじいカオスだった。楽曲自体は割かしポップなパンクロックチューンなのに、誰彼構わず踊る踊る、モッシュにダイブの嵐。
(また思い切ったなぁ……)
先日失踪したギターの小山田さんは結局戻って来なかったらしく、自分でギターを弾いていた。玲奈一人で歌ったり弾いたり飛んだり跳ねたり飛び込んだりの大暴れ。
憧れの星野林檎とはかけ離れたステージングだが……無駄にアイドル路線気取ってお淑やかなライブするより、こっちの方がずっと玲奈らしい。
彼女の固定ファンと思われる客も「こっちの方がReNAの素が出ていて良い」とか「前までが無理してたんだよ」とか口々に感想を言い合っていた。
さて。身体は重いしこのまま帰っても文句は言われないだろうが、せっかく良いライブ見せて貰ったんだ、感想の一つくらい伝えてやらないと。
イベントの出演者は基本的に無名のアーティストばっかりだから、藤ヶ谷周辺を歩き回っていれば割と簡単に見つけられる。30分ほどすると玲奈から連絡があって、すぐ近くのコンビニの灰皿の前で彼女とナオヤを見つけた。
「お疲れさん」
「おっスおっスー。今日どうでしたー?」
「最高。周りの反応も上々だったぜ。本格的にこっちの路線に舵切った方が良いんじゃねえのか?」
「んー! 玲奈もそう思っていたところなんスよ! マジでもう、ここ一年の頑張りはなんだったんだって感じっス。ねーナオヤくん」
「え。あ、おん」
ライブ直後でまだ目がギラギラしている玲奈とは対照的に、ナオヤは随分とお疲れモードのようだ。まぁ玲奈の奴、ほとんどまともにギター弾かないで土台部分はベースとドラムに丸任せだったからな……そりゃ疲れるわ。
「……意外と元気そうじゃん」
「あぁ、ちょっとリフレッシュして来てな。迷惑掛けてすまんかった」
「……なら良いけど」
一昨日のライブを引き摺る気配も無い俺に、ナオヤは少しだけ呆れた顔で煙草の煙を吐き出すのであった。
まぁ昨日のすばるんとの会話通りだ。忘れるようにしているだけ。或いは玲奈のライブで頭がパーになっているかのどっちか。
でも良かったな、玲奈。ちょっと悩んでいるみたいだったけど、こないだの飲みを境に良い方向へ吹っ切れたみたいだ。俺もダラダラしてられないな……。
「おっ、不遇の八宮トリオ揃い踏みじゃーん! おいおいReNAちゃん、仮にもアイドルが人前でタバコ吸っちゃダメでしょーっ!」
すると、やたらデカい声で気分の悪い呼び名を叫ぶ人物。サングラス越しにニヤニヤ笑いながらこちらへ歩み寄って来る。
見ない顔だな。年齢は……神田さんと同じくらいか? 軽装備の若者に交じってアロハシャツとか、めちゃくちゃ浮いてるぞ。なんなんコイツ。
頭部の侘しさに反比例して無駄にハイテンションな中年男性。ナオヤも玲奈も知り合いではないようで、一同キョトンとした顔をしている。
「どちら様っスか?」
「おいおいっ! 八宮で活動しといて俺のこと知らないって不味いよ~! まさか「登坂Club Do」の名物支配人、二階堂まで知らないとか言わないよね~?」
登坂Club Do……隣の市にあるキャパ500人ほどのハコだ。この辺りで活動するミュージシャンで知らない者は居ないレベルの超有名ライブハウス。
俺たちみたいな無名ミュージシャンにとってはまるで縁の無い場所だ。最近は気鋭のアーティストを大勢呼んで自主企画とかやってるんだっけ。
「Club Doはモチロン知ってるっスよ。で、そんな凄いとこのオーナーさんが玲奈に…………まっ、まさかライブオファー!?」
「いやぁ~、声掛けるってなったらそれしか無いでしょ! ReNAちゃんのことは前からチェックしててさ~! あー、でもー、ただね~……!」
腕を組みうざったらしいため息を溢す二階堂。なんだ、ただの出演オファーってわけじゃなさそうだな。
「今までのな~、アイドルとポップロック掛け合わせた路線のReNAちゃんだからこそオファーしたかったんだよな~……! ああいう暑苦しいスタイルも嫌いじゃないけどね~?」
「えぇッ!? なっ、なんスかそれっ!?」
「いや~今どきああいうの流行らないよ~? コアなファンは作れると思うけどさ~、やっぱりメジャーの流れに乗るっていうか、万人受けを狙わないとこの先食っていけないって~!」
なるほど。ここ一年の玲奈の成長を見て出演オファーを出そうとしたら、今日のステージを見て方針転換というわけだな。
しかし……間違いなく玲奈がReNAとして階段を駆け上がるには、今日のスタイルが最も適している筈だ。一度くらい試させてみても良い気はするが……。
「ん~ReNAちゃんは様子見って感じかな~。で~、その代わりと言っちゃなんだけど~。篠崎くん、ウチで出てみな~い?」
「…………えっ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる