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第一楽章 憑依

第十八話 リザードマン

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 俺達は最下層に向かっていた。
 ウォード曰く、そこでしか行えない儀式があるそうだ。
【錬成】でそのまま下まで行けると思ったが、ある所から魔力が通らなくなる場所がある。
 なので地道に走って階層を降りていく。
 ウォードはある程度階段の位置を覚えているらしく、最短距離で向かう。
 魔物と遭遇すると、俺が【憑依】を使って倒していた。
 ある程度戦うと、俺も慣れてきて反応速度が速くなっていた。

 俺達は地下10階まで来ていた。

「おい、ここは今までより強い奴がいる。気をつけろよ」
「ああ」

 階段を降りると、重厚そうな扉があった。
 その奥に明らかに危ない気配がした。

「【憑依】」

 俺は最大限の注意を張り巡らせてその扉を開けた。

 ▶▶▶▶▶

 中には1体の魔物がいた。
 二足歩行で龍のような鱗があり、尻尾もある。
 蜥蜴のような外見だ。
 そして手には槍を持っていた。
 そう、こいつは蜥蜴戦士リザードマンだ。
 俺は素早くリザードマンの背後に回り込んで、剣を引き抜いた。
 ガキィィィン
 俺の剣は鱗に薄く傷をつけただけだった。

「ガァァァァァァ」

 リザードマンは槍を突き出してきた。
 それを躱すと、そのまま横に槍を薙ぎ払ってきた。
 空中にいたため躱すことが出来なかった。
 俺は何とか受け身をとって、ダメージを減らした。
 ……速さも頭の良さもこれまでとは違う。
 まずは速いなら動けなくすればいい。
 俺はアキレス腱を斬りに行った。
 だが、やはり鱗に阻まれてしまう。
 やばい、どうしよう。
 攻撃が効きそうなのは、鱗がない目ぐらいだろう。
 しかし、あの速度でつけるわけがない。
 考えている間も、リザードマンは襲ってくる。
 今は避けることを優先しよう。
 リザードマンの槍は俺の喉を突こうとしていた。
 それを剣で逸らし、目を突こうとする。
 だが剣先がズレて、鱗にあたる。
 そこにリザードマンの蹴りが腹に入る。
 魔王の力のお陰でかなり強くなっているが、今のはやばかった。
 俺の身体と意思は繋がっている。
 なので身体にダメージがあると、意思もダメージを受ける。
 意志と身体のどっちが崩壊すると、終わりである。
 このままいくと俺の身体がもたない。
 ……そうか、錬成で脚を止めればいいんだ。

「…………」

 ……あれ?

「…………」

 嘘だろ。
 憑依中は錬成が使えないだと。
 解除しても俺が勝てるわけない。
 あれ? あいつどこ行った?
 辺りを見渡すがどこにも居ない。
 ……上から視線を感じる。
 俺はすぐさまそこから飛び退いた。
 と同時に上からリザードマンが降ってきた。
 どうすれば勝てる。
 こいつには剣は効かない。
 ……“剣は”?
 そうか、なんでこんなことに気が付かなかったんだ。
 俺はずっと剣でしか攻撃しなかった。
 “斬撃”は効かなくても、“打撃”なら効くかもしれない。
 俺は剣で攻撃すると、それを槍で弾かれる。
 だが、リザードマンは懐ががら空きだった。
 すかさず俺はそこに入り込み、顎に掌底をぶち込む。
 下手に拳で殴るよりは、掌底の方がダメージを伝えやすいからだ。
 リザードマンはそのまま空中に舞い上がり、ドサッと地面に倒れた。
 多分まだ死んでないだろう。
 軽い脳震盪になったのだろう。
 俺はリザードマンの目に剣を突き刺し、脳幹を斬った。
 やっと俺とリザードマンの死闘が終わった。
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