【完結】泣き顔に執着する学園の王子様との行末は

ルアミル

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30 近づく距離感

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 冬休みが始まり、お正月になると近所の祖父母の家に行って久しぶりに親戚と会いお年玉をもらった。
 これで俺のパソコン購入計画も大分現実的になり1人になってからほくそ笑んだものだ。

 三が日はまさに寝正月という言葉がぴったりな程ダラダラして過ごしていた。
 スマホ見てゲームしてご飯食べてゲームして寝て…流石に少し注意されてしまったけどこれから勉強が忙しくなるし少しは許してほしい。
 それからも冬休み中ダラダラとしていたらあっという間に三学期が始まってしまった。

 三学期が始まり退屈な始業式を終え席替えをしたのだが…なんと待望の一番後ろでかつ一番奥の席に移動することになり心の中でガッツポーズを掲げた。
 るんるん気分のままクラスの皆で一斉に荷物を持って席を移動して自分の席に座り右横を見た時、再び衝撃が襲った。右横が桜城だったのだ!

「桜城⁈」

 驚きのあまり思わず声を上げると桜城も驚いて言葉に詰まっていた。
 三ヶ月も桜城の隣でやっていけるだろうか?でも最近の桜城はあまり害がないしな。俺も桜城の罠に気安く引っかかったりしない様に警戒もしている。
 移動したら解散と説明があったため他の生徒はチラホラ帰り出していた。

 俺がじっと警戒した目で桜城を見ていたら、桜城はカバンに手を突っ込み何か取り出して「はい」と言いながら俺に手渡した。

「え、何?」
「正月に父親の実家に帰省してて福岡に行ったんだけど、…お土産」
「お土産?…俺に?」

 桜城が俺にお土産を渡すなんてそんな事あるのか?橘に渡すなら分かるけど。
 他の人に渡す予定だったけど休んでて仕方ないから俺に渡す事になったとかでなくて…?
 いや、それなら日を改めてその人が登校してる日に渡すよな。てことはまじで俺に…?唖然としてしまい言葉が出てこない。

「…要らないなら」
「いる、いる!…お前が俺に?って驚いて」

 一学期の頃ならお土産なんて渡されなかったに違いない。
 そう思うと散々な事があったけど関係性は良い方に向かっているのかもしれない。
 まぁ、その散々な事は全然許してねぇーけどな。

「…結人のついでだから」

 桜城は照れくさそうに俺は橘のついでだとポツリと言ったが、その「ついで」が中々に桜城にとって稀有な事だと思う。

「うん、ありがとう」

 なんだか俺まで照れくさくなって首をぽりぽり掻きながら礼を言った。
 桜城がくれたのは福岡の名物である明太子を使用した煎餅が数個セットになっているものだった。
 美味しそうだなー、ちょうどお腹減って来たし…。袋をビリビリと空けてカブリと齧り付いた。

「う、うま!食べた事ない味だわ~」
「お前…即行目の前で食べる?」

 桜城が呆れた顔で文句を口にした。

「別に会社とかじゃないし良いだろ、腹減ってて美味そうだったから」
「まぁ、美味しいなら良かったけど」

 そんなやりとりをしていたら橘もやって来て1人席が離れてしまった事を嘆いていた。

 席替え初日からこんな調子で桜城と隣という事が吉と出るか凶とでるかと思っていたが……想像以上に吉とでている。

 授業中に居眠りしてしまい、当てられたのだが全くどこの問題について言ってるのか分からず少しピリッとする先生だったためどうしよう!と困っていたら桜城がノートの端に答えを書いて見せてくれた。

 違う授業では教科書を忘れてしまい、机をくっつけて見せてもらった。って俺、ヘマをしすぎだな。それは反省するとして…。
 見せてもらっているのにも関わらずイタズラ心が働いて桜城が見てないうちにこっそり落書きをしてしまった。
 人の顔には変な髭をかいて眉毛をつなげておき、文章の終わりにはwマークを大量につけておいた。これによって人も文章も終始ふざけている教科書になった。
 これくらい俺が今までにされたことに比べたらなんてことに過ぎないだろう。

 落書きに満足して、数日後落書きしたことすらすっかり忘れて過ごしていた所俺の教科書を広げるとなんと俺の教科書も落書き三昧になっていた。
 バレたか…そりゃバレるよな。よく見てみると俺が髭をかいた人物の背後、写真の枠内が真っ黒に塗りつぶされていた。

 え…これどっち?ネタ…?ガチ…?こ、怖ぇ…。しかも触るとめっちゃ手黒くなるし!
 あと一部の文章のひらがなの「な」や「ま」などの丸くなっている部分が黒く塗りつぶされている。
 人物の方も文章の方も黒く塗りつぶすという所から狂気を感じる。隣のページにまで芯の黒さが写ってる…。

 これを見たら俺の落書きはなんて可愛いものだったんだと思い知らされる。
 まさにやられたら倍返しという所に桜城を感じるな。
 消しゴムで消そうと試みたが消しゴムも黒に染まり余計に汚くなってしまいもう諦めることにした。

 授業前教科書が汚くなって肩を落としていた時に隣に桜城が着席した。

「おい、お前!やりすぎだろ、これ」

 教科書を見せながら詰め寄ると無言で首を傾けて知らないフリをしてきた。腹立つな~。

「教科書余計に汚くなってこのおじさんの顔見えなくなったんだけど?」
「それを言ったらこっちのおじさんもお前の筆圧が強くて髭とか消えないんだよ」

 話していたらいつの間にか、教科書のおじさんトークになっていた。
 確かに俺基本筆圧濃いからな。それにしても消しゴムで消しても消えないことに焦ってる桜城を思い浮かべたら面白くてスカッとする。
 このやり返し具合を見ているともしかして落書きしてる最中に気づかれていたのだろうか。

「俺の落書きいつ気づいた?」
「書いてる時にすぐ気づいた、すごいニヤニヤしてたから」

 うわっ、恥ず…。イタズラというのは仕掛けているところを見られているのが一番恥ずかしいものだ。

「つーことは分かってて、泳がしたのかよ」
「まぁ、やり返したら面白いかなと思って」
「うわ、腹黒っ!」

 眉間に皺を寄せ非難するように桜城に言うと鼻で笑われた。
 普段結構周りに気を使う方なので、こうやって配慮せず言い合えるのが楽で案外心地よい。
 桜城には遠慮なんてしてられなかったから、思う事をそのまま言っていたら自然とこうなった。

 俺が友達には言わないようなキツめな事言っても桜城ならそれを超えるようなムカつく反応を返してくるし。
 そんなやりとりをしてるうちにチャイムがなり仕方なくその教科書で授業を受けた。





 とある放課後、家にいるとゲームをしたくなるため図書室で勉強することにした。
 一年後受験が控えているかと思うと気が重くなってしまう。
 図書室の端の机で教科書とノートを広げて英語の問題を解いていく。やっぱり家だと気が散ってしまうが図書館だと集中できるな。

 勉強し始めて30分程経った時だろうか、後ろから肩をポンッと押されびっくりして肩が跳ね上がってしまった。
 振り向くと俺の反応に笑っている橘と桜城がいた。

「芦川驚き過ぎだってw」
「いや、背後から肩叩かれたら誰でも驚くわ」

 図書館に居るため小声でやり取りする。

「じゃあ、俺らもここで勉強しよ」
「うん」

 そう言うと橘は俺の目の前にどかっと座り桜城はその横に座った。
 座った後は2人とも静かに勉強し始めて時折橘が分からないところを桜城に尋ねていた。その様子を見ているとスラスラと教える事ができる桜城がすごいなと思った。
 よく理解していないと人に教えることはできないからだ。橘の話じゃもともと一番の進学校に進む予定だったらしいしな。

「はぁ、飽きてきた~」

 橘達がやって来て1時間ほど経った時、橘は飽きたと言うとぷつりと糸が切れたかのように机にうつ伏せた。
 うつ伏せたかと思ったら次は急にバッと顔を上げ俺の方を見て来た。

「芦川、何やってんの?」

 小声で俺に話しかけると上半身を乗り出して俺のノートを見て来た。

「ちょっ、やめろよ」

 急いで隠すように手で覆ったが間に合わず見られてしまった。
 実は、プリントの応用問題に詰まっていたため見られるのは恥ずかしくて嫌だった。

「もう、このプリントまでやったん?早っ」
「あ、そう?そんな事ないけど…」

 良かった、手こずってる事に気がつかれずに済んだ。
 別に良いんだけどやっぱり知られたくないと言うか…。
 安心して再びプリントに目を落とし考えていると橘はトイレに行ってくると居なくなった。

「それ…」

 声に顔を上げると斜め向かいに座る桜城が俺の方を見ていた。

「え?」
「その問題」

 厳密には俺ではなく俺のプリントを見ていたようだ。
 さっき橘に見られた時にこの問題に苦戦していた事がバレてしまったか?

「その単語の意味が違う。そう言う意味もあるけどここではもう一つの意味で…」

 桜城はペンの上の部分で俺の間違っている部分を斜め向かいから指し説明し出した。
 桜城の言葉は流れるように耳に入って来て説明は分かりやすく、すぐに意味を理解できた。

「あ、なるほど。そう言うことか!」

 もしかすると塾の先生よりも分かりやすかったかもしれない。
 それにしてもわざわざ教えてくれるなんて、桜城にも案外世話焼きな一面があったりして…?

「ありがとう、めっちゃ分かりやすかった!お前先生とか向いてるんじゃねーの?」
「先生?俺が?」
「先生っていうか講師とか」
「あー…?」

 教えるのが上手かったから講師とかが向いてそうだなと思って言ってみたのだが桜城はピンと来ていないようだった。
 そんなやりとりをしてる間に橘が帰って来て、橘が桜城に帰ろうと呼びかけると二人は持ち物をまとめて立ち上がった。

「芦川はまだやるの?」
「うん、後少しで終わりそうだから」
「そっか、がんばれ!」
「ありがとう」

 そう橘とやり取りすると最後には手を振り二人を見送った。
 桜城は手を振るのはおろか別れの言葉も言わずチラッと俺を見た程度だった。かく言う俺も桜城に対してはチラッと見ただけだったけど。
 まぁ、桜城が自分から手を振って来たりしたら違和感しかないしこれくらいの反応が俺達らしいかもしれない。

 全ての課題が終わった頃には夕陽の橙色の光が差し込見始めていた。
 よし、これで今日は久々にゲームができるぞ!頭にゲームの事を浮かべニコニコしながら荷物をまとめ、図書館から出た時には半分スキップ状態だった。
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