気持ち悪い令嬢

ありのある

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素晴らしい一日

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やっと次の街に着くことができたので、新しい衣服と食料を補充し、宿を探します。
その途中で、男性二人に話しかけられました。

「かわいいね、きみたち。今夜、一緒にどう?魚料理が美味しい店を知っているんだ」

少し迷いましたが、まあ良いでしょうと思い、誘いを受けます。すると、ヤナギヤが後ろで騒ぎ始めました。

「だめだってファルメン!男の人の誘いなんて受けたら、襲われちゃう!」
「このくらい、どうってことないでしょう?」
「だめだって!男は狼なんだから!」
「あなた、最初に出てきた時、王太子たちにちやほやされてふんぞり返っていたではありませんか。何を乙女ぶっているのですか」
「乙女なの!私は!」

だってあの時は興奮していたんだもん、とか、ゲームの感覚だったの!とかなんとか言っておりますが、全て無視します。
連れて来られたのは、この街では美味だと評判のお店でした。
感じの良い店員に案内され、広々とした個室に通されます。
私の背中にしがみついていたヤナギヤも、パン以外のものが食べられると分かり、少しずつはしゃぎ始めました。
談笑を楽しみ、食事も美味しく頂きながら、しばらくしたところで、男性二人はすぐ戻ると言い、部屋を出て行きます。二人きりになった瞬間、今まで黙っていたヤナギヤが話し始めました。

「美味しいね!来て良かった」
「その言葉は、あの二人が居る間に言ってあげればよろしいのに。あなた、ちっとも喋らないで食事だけ楽しんで、話を振られても一言だけで済ますから、あの二人も気まずそうにしておりましたよ」
「だから言ったでしょう。私は慣れていないの!生粋の乙女なの!」

生粋の乙女が、ちやほやされてふんぞり返るなど聞いて呆れますね。

「ファルメンこそ、どうしてそんなに慣れているの?あの二人、ファルメンの話術に夢中になっていたよ」
「異性との会話術は身につけておりますわ。食事中は、双方楽しく過ごせるような雰囲気作りがマナーですよ」
「へぇ、そうなんだ」

そんなことも知らないなんて。
彼女はいくつくらいなのでしょうか。アレンの体に入っているので、つい同年齢くらいを想像していましたが、本当はもっと幼いのでは?
まあ、どうでも良いことですが。

「そろそろ行きましょうか」
「行くってどこへ?」

察しが悪いとは思っていましたが、ここまでとは。
何故私がわざわざ誘いを受けたのか、全く分かっていなかったようです。
一人で二人分の荷物を漁り、財布から全ての紙幣を抜き取ると、自分のものにします。
それを見ていたヤナギヤから、だめだよなどと言われましたが、殺さずに奪わなかっただけ、ありがたいと思って貰わなくては。

「わざわざ席を外すのを待ってあげたのですよ。それか、殺してしまうのが良かったのかしら?ですが、そんなことをすれば、大きな騒ぎになるでしょう?少しは頭を使ってください」
「殺せなんて一言も言ってないのに、私なんで諭されてるの?」
「それでは失礼いたします」

ヤナギヤを担ぎ、窓を開けます。ここは二階ですが、まあ大丈夫でしょう。

「な、何するの。まさか、飛び降り」
「大丈夫です。アレンの体にはかすり傷ひとつだって付けませんから」
「できれば私も大事に扱ってほしい!」

ぎゃあぎゃあ騒いでいたヤナギヤも、飛び降りると一瞬で大人しくなり快適です。
着地の瞬間に風魔法で体を浮き上がらせて、衝撃を殺し、無事に逃げることができました。
美味しい食事を頂けて、これからの路銀も手に入れることができて、服は血で汚れない。今日は素晴らしい日でした。






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