車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第十章

「飛鳥 柊真の過去」

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 中学二年生、秋。十月三十日、月曜日……。

 今でもはっきりと覚えている。
 それは、飛鳥 柊真あすか とうまが医者から心因性失声症しんいんせいしっせいしょうと診断された日なのだから――。

 中学二年生に昇級した柊真は、特に クラス替えもなかったためいつものように教室に入り、慣れ親しんだクラスメイト達に挨拶をした。

 しかし、賑やかだった教室はしんと静まり返り、その場にいた全員が柊真を見る。
 ある者は怒りの色を含み、またある者は哀れみの色を帯びた視線を柊真に送る。

 当の本人はと言えば、もちろんそれらの視線に心当たりなどなかった。
 終業式の日は全員と笑顔で別れたはずだ。

 では何故――?

 柊真の頭には疑問しか浮かばない。
「来んなよクズが……」
 ぼそっと舌打ちの後に聞こえた声に、柊真の心臓はドクン……と大きく脈打ち、焦って教室を見渡す。
 この集団に紛れ、誰かが確実に柊真に心無い言葉を投げかけた。
 柊真は恐る恐る教室にいた者達に問う。
「自分がなにかしたのか? 」と。

 しかし、返事など返ってこない。
 その日を境に、柊真の学校生活は一変する――。

 翌日から学校へ行くと、柊真を一部のクラスメイトが「戦争ごっこ」などと称し、散々暴力で痛めつけた。

 腹、腕、足、背中。
 比較的見えにくい部分を狙って蹴る、殴るなどの暴力を実行。
 柊真は他の生徒に押さえられ、はたまた髪を引っ張られ、苦痛に顔を歪める。「やめて」と訴えるも、もちろん聞いてもらえるはずもなく……。

 そんな柊真をさらに追い詰めたのは、離れた所から傍観していた生徒だった。
 「助けて」と懇願しようが泣こうが、柊真を助ける者など誰もいない。
「助ければ自分が次のターゲットになる」と恐れる者。柊真がいじめられるのを楽しむ者。柊真は「何故だ」と疑問に感じるしかなかった。

 自分が一体なにをしたというのか。
 自分が知らずの内になにかしてしまったのならば謝りたい。
 何故――。

 担任が教室に来る前に生徒達は解散し、柊真もフラフラと自分の席に着く。暴力を受けた場所はズキズキといつまでも柊真を苦しめた。
 担任だってまさか自分のクラスで "いじめ" が起こっているなど思いもしないだろう。

 家に帰っても、柊真は両親になにも言わなかった。否、言えなかった。
言えるはずなどない。
 両親に心配はかけたくなかった。なにより、自分がいじめられているなど知られたくなかった。

 柊真自身でさえも、なぜ自分がいじめのターゲットになったかなどわからない。

 いじめとは、こんなにも突然始まるものだろうか……。
 いくら考えてもわからなかった。
 それから約半年、柊真はいじめに苦しむことになる。

第十章 終
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