車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第九章

「飛鳥 柊真」

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 誰かを評価するのは、必ず二種類に分かれる。
 肯定する者と、否定する者。
 例えば、運動会で頑張って走ったがビリになってしまった子供に、
「よく最後まで頑張ったな」
 と結果ではなく過程を褒める親と、
「どうしてビリなどになってしまったんだ」
 と過程ではなく結果を咎める親。
 それは
 " 過程を評価する "
 か、
 " 結果を評価する "
 かの違いだ。
 飛鳥 柊真あすか とうまはと言えば、どちらかと言えば結果を咎められるほうが多かった。

 宿泊研修三日目。
 柊真は大切な友達である小野寺 良おのでら りょうを危うく失うところであった。
 川で溺れた良は病院に運ばれ、そのまま一週間の入院を余儀なくされる。
 宿泊研修にはもう戻れないだろう。

 昨夜も結局一睡も出来ずに柊真は宿泊研修四日目の朝を迎えた。しかし、起床時間の六時半にはまだ二時間近く早かった。
「……」
 メールアプリケーションを開けば、父親から連絡が入っていた。

 " おはよう柊真
 今朝の調子はどうかな?
 母さんが寂しがっているよ。
 無理をしない程度に頑張れ! "

 応援する旗のマークが文末に付けられたメッセージを読み、柊真は嬉しそうに目を細める。
 寂しいのはこちらとて同じこと。自分は知らぬ間に友達に……良に依存していたのかもしれない。

 そもそも、柊真が良と友達になりたいと思ったのは、なにも彼が車椅子であるからだという訳ではない。

 彼が、すごく優しい人だとわかっていたからだ。
 「失声症」と診断をされて声が、言葉が発せなくなってから、周りの人間は彼を避けるようになった。

 それは、彼に声をかけても返事が返ってこないだろうという勝手な決めつけがあったからだ。
 周りが彼を避けるようになると、彼は " 観察" を始めた。

 人と人との繋がり。そこにある利害関係。もろいものから強いものまで様々だった。

 そうして観察をしている内に、人の表情が読み取れるようになり、言ってほしいことまで大抵わかるようになっていった。

 しかし、それが返って彼を「素直でいられる彼」から遠ざけてしまった。

「……ハァ~」
 長いため息をつき、柊真はスマートフォンを閉じて毛布を頭まで被る。
 せっかく二時間近く暇があるのだから、趣味であるゲームに没頭したかったが、過去に囚われ、沈んだ気持ちを浮上させる気力もなかった。

 しばらくぼーっとし、やがてゆっくりと目を閉じる。
 出来れば、今の気持ちを忘れさせる楽しい夢が見れたらと祈って……。

第九章 終
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