車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

文字の大きさ
20 / 25
第二十章

「準備」

しおりを挟む
 学校祭の準備期間は今日から一ヶ月。平日は五、六時限目を使うことが可能であり、休日の活動も許される期間だ。
 良のクラスでは、「ステージ発表」をクラス紹介の動画に、「ダンス発表」を定番のよさこいにすることが決定していた。残念ながら良は自分からダンス発表に出ることを辞退し、応援に徹することを決めた。出店についてはまだ未定だが、一年目にしては早く決まったと浅間が感心している。
「小野寺~美術室から絵の具取ってきてくんね?」
 男子生徒に声をかけられた良は、頷いて教室を出ていった。そのあとを柊真がついてくる。
「柊真、俺一人で大丈夫だよ」
 良が苦笑いして言うと、柊真は首を横に振ってメモ帳に書いて見せる。
 "絵の具、確か抱えるほどのダンボールに入ってたはず。膝に乗せて走るのは危ないよ"
柊真の的確な説明に、良は思わず目を見開く。
「へぇ……よく知ってるね。柊真クラス旗の担当だったっけ?」
 良の学校では、ステージ発表やダンス発表の他にもう一つ審査の対象となるものがある。それが「クラス旗」だ。クラスで決めたテーマを元に大きな旗を絵の具などで作り、当日に体育館に貼り出す。基本的に毎年どのクラスも四字熟語からデザインを考えるらしい。
 今年の良のクラスのテーマは「百花斉放ひゃっかせいほう」。多くの花が一斉に開く事や様々なものがその本領を発揮する事を意味しており、この学校祭において自分の能力を発揮できるようにとの願いが込められている。
 "クラス旗じゃないけど、美術室に運ばれるとこ見てたから"
 柊真の記憶力に良はさらに驚く。どこかが欠けてしまっている人は凄い特技を持っているとよく聞くが、柊真の記憶力もそれに当てはまるのだろうか。
 良は考え込むが、廊下の壁にぶつかりそうになったのでやめた。

 ダンボールを柊真に抱えてもらい、良は絵筆の入った絵筆を洗うバケツを膝に抱えて教室に戻った。
「お、ありがとう小野寺。早速今日から始められるよ」
 そう言って爽やかに笑ったのは、クラス旗のイラストを担当する男子生徒だ。良から見れば羨ましいほどに整った容姿をしているが、漫画が好きで将来の夢が漫画家だと言う彼は、クラス旗を完成させるのにかなり重要な人物だ。良は密かに才能のある彼に憧れている。
「おい、飛鳥」
 やや乱暴な口調で柊真を呼んだのは、洋介だ。
「これからダンス練習始めるって言ってるからホール集合しろって」
 良の学校には、各階に一箇所必ず多目的ホールが設置されている。そこで今からダンス練習があるようだ。
「だってさ、頑張って」
 良は隣で嫌そうな顔をしている柊真を苦笑して励ます。柊真はどうやら運動が苦手のようだ。

 家に帰ってきた良は部屋に入るとベッドに横になってスマートフォンで小説を書き始める。
 ちょうど学校祭についての話を書こうとしていたため書きやすいのだが、自分の通う学校と似た内容にならないよう注意はしたいところだ。
 やはりオリジナルの小説。自分の独自の世界観を読んで想像してもらいたいというのが本音。オリジナルならではの発想を入れたい。
「学校祭、か……」
 歩けない自分は、きちんとクラスの役に立てるだろうか。迷惑をかけてしまうのではないだろうか。
 考えて少し苦しくなるが、休憩がてら好きな音楽を聴き始めた。
 そうしていると徐々に気持ちも安定してきて、少しは前向きに考えることができる。
 自分にできることをしよう。
 そう決意し、良は明日に備えて眠ることにした。

第二十章・終
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...