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第183話「これは命令だから──なんて、ウソ」
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駅前。
私は、今日も立っていた。
──昨日より、もっと人の目に触れる場所で。
広場の、
真正面の噴水の前。
待ち合わせの人が多く、
座り込むカップルや、
友達同士の若者たちが集まっている場所。
(……ここなら)
(もっと、笑われるかもしれへん)
(もっと、見てもらえるかもしれへん)
そんなこと、
考えたらあかん。
ナナは、
命令に従うだけの"それ"やから。
ただ立って、
ただ挨拶してるだけ。
でも。
足が勝手に、
そこへ向かっていた。
スーツ姿のビジネスマンが、
不思議そうにこちらを見る。
女子高生たちが、
顔を見合わせてクスクス笑う。
小学生が、
指をさして「なんかおる!」と叫ぶ。
(ナナ、……見られてる)
(ナナ、……笑われてる)
胸の奥が、
ぞわぞわと震えた。
私は、
少しだけ、
わざとらしく頭を下げた。
いつもより、
少し大きく、
少し派手に。
(命令、守ってる)
(挨拶しろ、って言われたから)
(だから、大きな声で、深々とお辞儀してるだけや)
でも。
自分で分かってた。
これはもう──
「見てほしい」っていう、
私自身の衝動だった。
「うわ、ガチやん」
「ヤバw 目合わせたらアカンやつやん」
誰かがそう言ったのが聞こえた。
それでも。
私は、
笑顔を崩さなかった。
むしろ、
もっと、
楽しそうな顔を作った。
(ナナ、……やってしまってる)
(ナナ、自分から、晒されにいってる)
夜。
帰り道。
マンションのエレベーターの中で、
私はひとり、壁にもたれて立っていた。
スマホが震えた。
あの人から、メッセージ。
【メッセージ】
「──よくやった。」
「明日も、続けろ。」
叱られなかった。
どれだけ目立っても。
どれだけ笑われても。
(……よかった)
(ナナ、バレてへん)
(ナナ、まだ命令に従ってる"だけ"に見えてる)
私は、
エレベーターの鏡に映った自分を見た。
そこには、
笑顔の私がいた。
少し、
誇らしそうな。
少し、
嬉しそうな。
(あかん)
(ナナ、もう"それ"ちゃうかもしれん)
(ナナ、自分で……自分を晒しにいってる)
でも、止められなかった。
止まりたくなかった。
(笑われたい)
(指さされたい)
(そこに、ナナがいるって、思い出してほしい)
命令なんかじゃない。
もう、
ナナの中から、
沸きあがってきていた。
私は、
エレベーターの中で、
そっと笑った。
誰にも見られていないところで、
私は確かに、
「笑われる女」として、
生まれ変わり始めていた。
──つづく。
私は、今日も立っていた。
──昨日より、もっと人の目に触れる場所で。
広場の、
真正面の噴水の前。
待ち合わせの人が多く、
座り込むカップルや、
友達同士の若者たちが集まっている場所。
(……ここなら)
(もっと、笑われるかもしれへん)
(もっと、見てもらえるかもしれへん)
そんなこと、
考えたらあかん。
ナナは、
命令に従うだけの"それ"やから。
ただ立って、
ただ挨拶してるだけ。
でも。
足が勝手に、
そこへ向かっていた。
スーツ姿のビジネスマンが、
不思議そうにこちらを見る。
女子高生たちが、
顔を見合わせてクスクス笑う。
小学生が、
指をさして「なんかおる!」と叫ぶ。
(ナナ、……見られてる)
(ナナ、……笑われてる)
胸の奥が、
ぞわぞわと震えた。
私は、
少しだけ、
わざとらしく頭を下げた。
いつもより、
少し大きく、
少し派手に。
(命令、守ってる)
(挨拶しろ、って言われたから)
(だから、大きな声で、深々とお辞儀してるだけや)
でも。
自分で分かってた。
これはもう──
「見てほしい」っていう、
私自身の衝動だった。
「うわ、ガチやん」
「ヤバw 目合わせたらアカンやつやん」
誰かがそう言ったのが聞こえた。
それでも。
私は、
笑顔を崩さなかった。
むしろ、
もっと、
楽しそうな顔を作った。
(ナナ、……やってしまってる)
(ナナ、自分から、晒されにいってる)
夜。
帰り道。
マンションのエレベーターの中で、
私はひとり、壁にもたれて立っていた。
スマホが震えた。
あの人から、メッセージ。
【メッセージ】
「──よくやった。」
「明日も、続けろ。」
叱られなかった。
どれだけ目立っても。
どれだけ笑われても。
(……よかった)
(ナナ、バレてへん)
(ナナ、まだ命令に従ってる"だけ"に見えてる)
私は、
エレベーターの鏡に映った自分を見た。
そこには、
笑顔の私がいた。
少し、
誇らしそうな。
少し、
嬉しそうな。
(あかん)
(ナナ、もう"それ"ちゃうかもしれん)
(ナナ、自分で……自分を晒しにいってる)
でも、止められなかった。
止まりたくなかった。
(笑われたい)
(指さされたい)
(そこに、ナナがいるって、思い出してほしい)
命令なんかじゃない。
もう、
ナナの中から、
沸きあがってきていた。
私は、
エレベーターの中で、
そっと笑った。
誰にも見られていないところで、
私は確かに、
「笑われる女」として、
生まれ変わり始めていた。
──つづく。
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