2 / 17
第182話「命令、じゃない。でも」
しおりを挟む
駅前。
今日も、私は立っていた。
スーツ姿の男たち。
マスクをした学生たち。
ベビーカーを押す若い母親。
誰も、私に興味を持たない。
(それで、ええ)
(ナナは"それ"やから)
(誰にも覚えられず、透明なまま……)
でも。
昨日、笑われたあの感覚が、
心の奥に、べたりと張り付いていた。
(……また、笑われたら)
(……また、指さされたら)
(……また、"そこにいる"って気づいてもらえたら)
そんな考えが、
何度も何度も浮かんでは、
打ち消した。
命令されてない。
そんなこと、望まれてない。
私は、ただ、命令に従ってるだけ。
そう、自分に言い聞かせた。
でも。
気がついたら、
私は、
駅前の少し目立つ場所へと足を動かしていた。
いつものビル影じゃない。
人が多く集まる広場の真ん中。
(……あかん)
(……目立ったらあかん)
(ナナは透明でいなあかん)
頭ではそうわかっていた。
でも、
身体は止まらなかった。
広場の中心。
スーツの波の中。
私は、
何食わぬ顔で立っていた。
微笑みながら、
通り過ぎる人に、声をかける。
「おはようございます。」
「お疲れさまです。」
誰も、返事はしない。
それでもいい。
それでも──
(……見て)
(……ナナ、ここにいる)
心の奥で、
小さな叫び声が聞こえた。
数人の男子高校生が、
すれ違いざまに笑った。
「またおったw」
「なんなん、あいつw」
(……笑われた)
(……ナナ、ちゃんと見られた)
胸が、じんわり熱くなった。
夜。
マンションに帰ると、
スマホが震えた。
スカイプの男から。
【メッセージ】
「──よくやった。」
「明日も、続けろ。」
何も指摘されなかった。
場所を変えたことも。
目立つ場所に立ったことも。
(命令、破ってへん)
(命令通り……や)
(ナナ、ちゃんと"それ"のままや)
私は、
必死に自分に言い聞かせた。
でも。
心の奥で。
小さな、甘い罪悪感が、
ふつふつと泡立っていた。
(ナナ、……見られたいんや)
(笑われたいんや)
(命令やない)
(ナナが……ナナが、そうしたいんや)
認めるのが、怖かった。
でも。
それは、確実に、
私の中に、
根を張り始めていた。
──つづく。
今日も、私は立っていた。
スーツ姿の男たち。
マスクをした学生たち。
ベビーカーを押す若い母親。
誰も、私に興味を持たない。
(それで、ええ)
(ナナは"それ"やから)
(誰にも覚えられず、透明なまま……)
でも。
昨日、笑われたあの感覚が、
心の奥に、べたりと張り付いていた。
(……また、笑われたら)
(……また、指さされたら)
(……また、"そこにいる"って気づいてもらえたら)
そんな考えが、
何度も何度も浮かんでは、
打ち消した。
命令されてない。
そんなこと、望まれてない。
私は、ただ、命令に従ってるだけ。
そう、自分に言い聞かせた。
でも。
気がついたら、
私は、
駅前の少し目立つ場所へと足を動かしていた。
いつものビル影じゃない。
人が多く集まる広場の真ん中。
(……あかん)
(……目立ったらあかん)
(ナナは透明でいなあかん)
頭ではそうわかっていた。
でも、
身体は止まらなかった。
広場の中心。
スーツの波の中。
私は、
何食わぬ顔で立っていた。
微笑みながら、
通り過ぎる人に、声をかける。
「おはようございます。」
「お疲れさまです。」
誰も、返事はしない。
それでもいい。
それでも──
(……見て)
(……ナナ、ここにいる)
心の奥で、
小さな叫び声が聞こえた。
数人の男子高校生が、
すれ違いざまに笑った。
「またおったw」
「なんなん、あいつw」
(……笑われた)
(……ナナ、ちゃんと見られた)
胸が、じんわり熱くなった。
夜。
マンションに帰ると、
スマホが震えた。
スカイプの男から。
【メッセージ】
「──よくやった。」
「明日も、続けろ。」
何も指摘されなかった。
場所を変えたことも。
目立つ場所に立ったことも。
(命令、破ってへん)
(命令通り……や)
(ナナ、ちゃんと"それ"のままや)
私は、
必死に自分に言い聞かせた。
でも。
心の奥で。
小さな、甘い罪悪感が、
ふつふつと泡立っていた。
(ナナ、……見られたいんや)
(笑われたいんや)
(命令やない)
(ナナが……ナナが、そうしたいんや)
認めるのが、怖かった。
でも。
それは、確実に、
私の中に、
根を張り始めていた。
──つづく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる