ナナはなぜ壊れたのか⑥——笑われることでしか、生きられなかった

nana

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第185話「もっと、見てほしくて」

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駅前。

私は、
今日もいつもの場所に立っていた。

でも、もう、
立ってるだけじゃ物足りなかった。

(もっと、見てほしい)

(もっと、笑われたい)

(もっと、ナナを感じてほしい)

命令でもない。
誰かに言われたわけでもない。

ナナの奥から、
勝手に湧き上がってきた願望だった。

だから。

私は──

今日、"わざと"失敗することにした。

信号待ちをしている人たちの前で、
わざと手に持っていたペットボトルを落とす。

わざと、
スカートを少し引っかけて、膝を見せる。

わざと、
カバンを落として中身をぶちまける。

「うわっ!」
「やばw」
「ドジっ子すぎるw」

人々のざわめきが、
ナナを撫でていった。

指さされる。

クスクス笑われる。

奇異の目で見られる。

全部──

気持ちよかった。

(ナナ、……笑われてる)

(ナナ、ちゃんと"そこにいる")

(ナナ、ここに存在してる)

胸が熱くなった。

脚が震えた。

恥ずかしい。

でも、
その恥ずかしさごと、
甘く、体に染み込んでいった。

(ナナ、もっと晒されたい)

(ナナ、もっと、もっと……)

誰にも強制されていない。

誰にも命令されていない。

それでも、
私は自分から、
晒されにいっていた。

夜。

マンションに戻った。

玄関を閉めた瞬間、
私は、へたり込んだ。

ドクドクと、
心臓が暴れていた。

顔が熱かった。

指先が、震えていた。

(ナナ、……楽しい)

(壊れていくの、……楽しい)

スマホを開く。

あの人から、
短いメッセージが届いていた。

【メッセージ】
「──いい調子だ。」

「ナナ、お前は"最高の道化"になれる。」

(道化)

(笑われるために生きる存在)

(──それが、ナナのこれから)

私は、
スマホを胸に抱きしめた。

もう、誰にも命令されなくても、
ナナは自分で壊れにいける。

それが、
ナナの生きる道になろうとしていた。

──つづく。
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