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第191話 「駅前から、そっといなくなった春」
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卒業を控えた春休み。
駅前は、少しだけ空気がぬるんでいた。
街を行き交う人たちも、
どこか浮き足立っていて、
新生活に向かう期待みたいなものをまとっていた。
そんな中、
私はまだ、駅前でスケッチブックを持って立っていた。
でも、もう、
誰も私を見ていなかった。
一年前は違った。
酔っ払いが笑いながら絡んできたり、
カップルが動画を撮ったり、
通りすがりに拍手してくれる人さえいた。
「今日もナナちゃんおるやん!」
なんて言われることが、
私にとっては、生きてる証明やった。
だけど春の駅前で、
私はただの風景になっていた。
誰も、私を指差さなかった。
誰も、笑わなかった。
(ナナ、もうおしまいやな)
(でも──)
(なんでこんなに、胸がすぅすぅすんねやろ)
自分でも分からなかった。
「見られない」ことが、
こんなにも怖いなんて、知らなかった。
誰にも見られないと、
私自身が、私の存在を信じられなかった。
それでも、
最後の最後まで、私は駅前に立ち続けた。
誰にも頼まれてないのに。
もう誰も、私に期待してないのに。
自分で自分を突き動かして、
誰も笑わない世界に、必死で手を振っていた。
そんな春の日、
私は、駅前に立つのをやめた。
誰にも告げずに。
誰にも惜しまれずに。
自分の中だけで、そっと終わらせた。
駅前に行かなくなった最初の夜、
私は、家のベッドに仰向けになったまま、
天井をぼんやり眺めていた。
手のひらをぐっと開いてみる。
誰も、
私に拍手してくれなかった手のひら。
(ナナ、……存在しとる?)
(今ここに、ほんまにおる?)
誰にも笑われなかった私は、
まるで透明人間みたいやった。
でも、
同時にこうも思った。
(笑われるためだけに生きとったんか、ナナ)
(ほんまに、それだけの人間やったんか)
答えは、出なかった。
出るはずもなかった。
私はただ、
「笑われていた頃の私」を、
誰にも見せずに、そっと心にしまった。
誰にも気づかれないまま、
春が過ぎていった。
──つづく
駅前は、少しだけ空気がぬるんでいた。
街を行き交う人たちも、
どこか浮き足立っていて、
新生活に向かう期待みたいなものをまとっていた。
そんな中、
私はまだ、駅前でスケッチブックを持って立っていた。
でも、もう、
誰も私を見ていなかった。
一年前は違った。
酔っ払いが笑いながら絡んできたり、
カップルが動画を撮ったり、
通りすがりに拍手してくれる人さえいた。
「今日もナナちゃんおるやん!」
なんて言われることが、
私にとっては、生きてる証明やった。
だけど春の駅前で、
私はただの風景になっていた。
誰も、私を指差さなかった。
誰も、笑わなかった。
(ナナ、もうおしまいやな)
(でも──)
(なんでこんなに、胸がすぅすぅすんねやろ)
自分でも分からなかった。
「見られない」ことが、
こんなにも怖いなんて、知らなかった。
誰にも見られないと、
私自身が、私の存在を信じられなかった。
それでも、
最後の最後まで、私は駅前に立ち続けた。
誰にも頼まれてないのに。
もう誰も、私に期待してないのに。
自分で自分を突き動かして、
誰も笑わない世界に、必死で手を振っていた。
そんな春の日、
私は、駅前に立つのをやめた。
誰にも告げずに。
誰にも惜しまれずに。
自分の中だけで、そっと終わらせた。
駅前に行かなくなった最初の夜、
私は、家のベッドに仰向けになったまま、
天井をぼんやり眺めていた。
手のひらをぐっと開いてみる。
誰も、
私に拍手してくれなかった手のひら。
(ナナ、……存在しとる?)
(今ここに、ほんまにおる?)
誰にも笑われなかった私は、
まるで透明人間みたいやった。
でも、
同時にこうも思った。
(笑われるためだけに生きとったんか、ナナ)
(ほんまに、それだけの人間やったんか)
答えは、出なかった。
出るはずもなかった。
私はただ、
「笑われていた頃の私」を、
誰にも見せずに、そっと心にしまった。
誰にも気づかれないまま、
春が過ぎていった。
──つづく
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