俺たちは、ナナを“見ていただけ”だった──笑いの裏で壊れてたもの

nana

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第三話:俺は、何も言わなかった。ただ、見てただけだった

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あの場で、
俺はたぶん、
一番しゃべってへんかったと思う。

笑いもせんかった。
拍手もせんかった。
スマホすら構えてなかった。

ただ、
ナナのこと、見てただけやった。



主が命令して、
誰かが笑って、
ナナがそのとおりに動いて──

それを、俺はいつも、
ソファの端で見てた。

笑うでもなく、
止めるでもなく、
ただ黙って。



それが、
一番“安全な場所”やと思ってた。

主でもない。
主友のノリ担当でもない。

「見てただけ」やから、
俺には責任ない。
ずっとそう思ってた。



でもある日、
ナナがこっち見て、笑って言ったんよ。

「〇〇くんは、いつも“見守ってくれてる”感じするなぁ」

そのとき俺、
なぜか言葉、返されへんかった。



ナナ、
“見守られてる”と思ってたんやろか。

それとも──
“見捨てられてないふり”してただけやろか。



あいつ、
命令されてるときより、
誰も声をかけへんときのほうが、
ちょっとだけ、寂しそうやった気がする。



俺は声を出さへんぶん、
ナナの変化には、
誰よりも早く気づいてた自信がある。

わさびを舐める前、
額にからしを塗られる前、
服の中に氷が入る瞬間。

ナナのまばたきの速さ。
息の浅さ。
膝のわずかな揺れ。

…全部、見てた。
でも、言わんかった。



それが、
ナナにとって何やったか。
今になって分かるんよ。

「黙って見てる人」が、
一番“逃げ場を奪ってる”ってこと。



あんだけのことが起きて、
誰かが止めるチャンスはいくらでもあった。

俺も、
一回くらい、「やめとけよ」って言えたはずやった。
でも言わんかった。

だって、
“空気を壊したくなかった”から。



俺が守ってたのは、
ナナやなかった。
あの場のテンションやった。



今、
ナナのことを思い出すたび、
俺の沈黙が、
一番“響いてた”んちゃうかって、
怖くなる。



言葉を発さんかった俺の目線が、
あいつの背中に何を刻んだのか。

もう、
聞く術はないけど──



「見てただけ」って、
いちばん残酷な態度やったんかもしれへんな。
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