ナナはなぜ壊れたのか③——少女が、少女を脱ぎ捨てるまで

nana

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第80話 「堕ちていくのは、怖くなかった」

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別れてから、
私は、
誰とも深く関わらなかった。

学校では、
普通のふりを続けた。

夜になると、
自分で自分を慰めながら、
誰にも届かない欲望を抱えたまま、
ただ、
生きていた。

そんなある日だった。

駅前のコンビニで、
ばったり会った。

バスケ部の、
先輩だった。

彼の、
大学生の先輩。

少しチャラくて、
笑うとき目が細くなる男。

「ナナちゃんやんな。元気してた?」

最初は、
ただの軽いノリだった。

でも、
すぐに違和感に気づいた。

この人は──
普通じゃない。

軽い言葉の奥に、
刺すような鋭さがあった。

私のことを、
試すような、
値踏みするような目。

「彼とは、別れたんやろ?」

悪びれもなく、
そんなことを言った。

私は、
うなずくしかなかった。

すると、
彼は、
一歩だけ、距離を詰めた。

「じゃあ、俺にしとき。」

その言葉は、
冗談みたいに軽かった。

でも、
目は、
笑っていなかった。

ぞくりとした。

怖かった。

でも、
怖さの奥で、
何かが甘く疼いた。

私は、
何も言えなかった。

ただ、
彼に連れられるまま、
夜のファミレスに入った。

そして──
気づいた。

この人は、
私を”試している”。

言葉の端々に、
支配の匂いがした。

「飲み物、俺が決めたる。」

「こっち座れ。」

「ちゃんと目、見ろよ。」

全部、命令だった。

優しくもないし、
甘くもない。

でも、
私は、
従ってしまった。

心のどこかで、
求めていた。

命令されたい。
縛られたい。
抗えない力で、
ねじ伏せられたい。

それが、
どれだけ救いになるかを、
私はもう知ってしまっていた。

普通の優しさじゃ、
もう埋まらない。

痛みを伴う優越感でしか、
私は、
自分を満たせなかった。

──だから。

私は、
彼に従った。

「俺と付き合え。」

シンプルな言葉だった。

でも、
そこには、
絶対に逆らえない圧があった。

私は、
何も考えずに、
うなずいた。

それが、
この先の人生を、
大きく変えていく選択だとも知らずに。

堕ちていくのは、
怖くなかった。

むしろ、
ほっとした。

やっと、
自分の居場所を見つけた気がした。

私は、
この男に、
すべてを預ける。

すべてを許す。

この瞬間から、
ナナという存在は、
彼のものになった。

──つづく。
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