“新しい主”が欲しかった──ナナを真似る女、飼いたがる男

nana

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【スピンオフ第2話】 『ナナの温度は、迷いの中にあった』 ──「彼女」視点より

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キスをしたのは、偶然だった。
──と言ってしまえば簡単だけれど、
本当は、そうなるように
心のどこかで準備していたのかもしれない。

ナナと私は、
主のいない夜、
あの小さな部屋で、
ひとつの毛布にくるまっていた。

緊張ではなく、静けさだった。
沈黙が怖くなかったのは、
たぶん、
“誰にも命令されていない”時間の重さを
お互いに大事にしていたからだと思う。

けれどふと、ナナがこちらを見て、
私は目を逸らせなかった。

その視線は、
強さと脆さが同居していて、
どちらを信じたらいいか分からなかった。

私は、先に触れた。
指先でナナの髪にふれ、
そのまま輪郭をなぞる。
ナナは拒まなかった。
目を閉じなかった。
ただ、私の呼吸の音を聞いていた。

そして──
唇が重なった。

やわらかくて、
でもどこか、
痛みの残る温度だった。

あのナナが、
震えていた。

キスのあと、
ナナが小さく息をついた。
それは“ため息”でも“快感”でもなく、
**「ここにいていいのか確かめるための息」**だった気がする。

私は、そのまま
彼女の肩に手を伸ばした。
輪郭を確かめるように、
自分の存在を差し出すように。

触れ合った時間のことを、
“セックス”と呼んでいいのか、今でもわからない。
命令もなければ、言葉もほとんどなかった。
お互いに相手の輪郭を借りながら、
自分が“まだ消えていない”ことを確かめ合っていただけだった。

終わったあと、
ナナは私のほうを向いて、
「このまま朝になってもいいと思ったの、はじめてやわ」
と呟いた。

私は、
なにも言えなかった。

でも、あのとき、
私たちはきっと
“主のもの”ではなく、
誰のものでもないまま、ひととき交わった。

それがたとえ、
翌朝にはなかったことにされるとしても。

私は今でも、
あのときのナナの温度を、
どこかに残して生きている。

“ナナの真似”をしていた自分ではなく、
自分の名前で、
触れたナナの記憶として。

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