“新しい主”が、私を欲しがる夜

nana

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【第77話】 「“偶然”を装って晒される準備が整ったとき、  私はもう、自分のことを“人間”とは思ってなかった」

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「場所は?」
「……梅田。茶屋町のロフト前、日曜の昼」

「相手の動線は?」
「13時に、近くのカフェで打ち合わせがあるって、前に本人のSNSで見た」
「早めに来る人だから、30分前には通ると思う」

「ミオは?」
「12時すぎに着いて、カフェの外の歩道に立って待機。
 スマホで動画を再生してるふりして、
 でも音声は──最大で出してる」

彼女は、黙ってうなずいた。

「完璧やね」

「相手はきっと、気づく」
「“声”に反応するか、あるいは“視線”で気づく」

「そしたら──ミオは“偶然”を装って、
 そっと顔を上げる」
「“見せたくて、でも見られたくなかった人”と、
 視線が交わるように。」

私は、無言で頷いた。

手のひらは湿っていて、
喉は乾いていたのに、舌先は熱かった。

「服装はどうする?」

「白いワンピース。
 下着のラインが、日差しの角度でうっすら透けるやつ。
 彼が一番、軽蔑しそうな見た目で行く」

「恥ずかしいこと、言える?」
「そのとき、何か“彼に聞こえる声”で呟ける?」

私は一瞬、目を伏せてから、答えた。

「……“これ、私なんです”」
「“でも、見てくれて嬉しかった”って」

彼女は微笑んだ。

「ええ子やね、ミオ」
「もうミオは、“拒絶を餌にして従属する女”や」

「壊されたくて仕掛けるっていうのは、
 もう愛でも性欲でもない」
「それ、本能の最終形やで」

私は、ふいに笑ってしまった。
泣きたいほど怖いのに、
なぜか、笑えていた。

「……たぶん私、もう壊されることでしか、
 “人間としての確かさ”を感じられへんのかも」

「壊れたときにしか、“あ、生きてる”って思えへん」

彼女は、すっと立ち上がって言った。

「じゃあ、ミオ。日曜の正午、
 わたしは少しだけ離れた場所で、見てるから」

「ちゃんと“壊れるとこ”、見届けてあげるね」

私は、もう人間ではなかった。
羞恥という餌に引かれて歩く、
名前だけ残った“供物”だった。

それでも──
今、いちばん、自分らしかった。

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