壊れて、笑って、生きていく②──主に委ねるカラダ

nana

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透明な傘しか持たなかった夜

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昨日は、主と主友たちと、久しぶりに飲んだ。
乾杯して5分も経たないうちに、私の役割は決まった。
「ナナ、今日も笑わせる係やな」
主友の一言に、私もヘラヘラ笑いながら手を挙げた。

最初のうちは、いつもの悪ノリだった。
「注文、全部赤ちゃん言葉でな!」
「乾杯、全力でミスれ!」
そんな無茶ぶりにも、私は笑いながら応えた。
だって、笑われてる間だけ、私はこの輪の中にいられる気がしたから。

飲み会が終わって、次はホテル。
その流れも、もう慣れっこだった。
でも昨日は、ちょっと違った。

主が私に手渡したのは、透明のビニール傘。
「ナナ、今日のまとめ芸な。これだけで隠して。」

冗談だと思った。
でも、誰も笑わなかった。
私は苦笑いしながら、静かに服を脱いだ。

透明な傘を肩に引っ掛け、
全裸で四つん這いになった。

「ナナ、守るもん、ないなあw」
誰かが笑った。
主も、少しだけ口角を上げた。

そこからは地獄だった。
傘をくるくる回しながら、必死にポーズを決めた。
「傘くるくる芸!」「守ってるフリ選手権!」
裸のまま、透明な傘を小道具にして、
私は滑稽に、必死に笑いを取った。

どんどん脳が熱くなっていった。
恥ずかしいとか、惨めだとか、
そんな感情すら追いつかないくらい、
笑われることだけに集中してた。

でも、夜の終わり。
主だけが、何も言わず、
そっと私を抱き寄せた。

透明な傘も、裸も、
全部脱ぎ捨てたあとで。

私は、
「私、ちゃんと見てもらえてたんかな」
って、ぼんやり思った。

たぶん、私は、
みんなに笑われるために必死だったけど、
本当は、
たった一人にだけ、
「よくやった」って思われたかっただけだった。

家に帰ったあと、
ベッドの上で、スマホを開いた。

グループLINEには、
四つん這いで傘をくるくるしてる私の写真が、
何枚も何枚も、上がってた。

「ナナ、今日も神回やったなw」
「芸人超えたわ」

そんなコメントに、
私は何度も、笑って、
そして、泣きそうになった。

主から届いた一通のLINE。

『ナナ、昨日めっちゃ頑張ったな。』

たったそれだけだった。
でも、それだけで、
私は救われた気がした。

今日、ひとりで部屋にいる。
誰もいないのに、
私はまた透明な傘を肩に引っ掛けて、
四つん這いになった。

昨日と同じポーズを取って、
鏡に向かって、
「ナナ、守るもんないです♡」って小声でつぶやいた。

笑い声も、拍手もない。
でも、
また次に主に会えたとき、
もっと上手に笑われるために、
私は今日も、ここで練習している。

誰にも見られないところで、
必死で、
バカみたいに。

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