ナナはなぜ壊れたのか⑤——誰も知らない場所で、また堕ちていく

nana

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第129話「みんなといるのに、ひとり」

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「ナイスターン!」

「ナナちゃん、ポンポンの持ち方めっちゃきれい!」

体育館に、
先輩たちの明るい声が響く。

チアリーディング部の練習。

私は、
スニーカーを鳴らして、
ポンポンを握り、
音楽に合わせて踊っていた。

笑顔。
掛け声。
ジャンプ。

鏡に映る自分の顔は、
ちゃんと「普通の大学生」だった。

「ナナ、動きキレッキレやん!」

同期の子たちが、
無邪気に笑いながら褒めてくれる。

(……うん)

(ナナ、……ちゃんと、普通にやれてる)

心の奥で、
小さくほっとした。

これが、
これこそが、
ナナが手に入れたかったものだった。

みんなと一緒に汗をかいて、
声を出して、
笑って。

「普通の青春」。

もう、
誰にも裸を晒したり、
涙を流したりしなくていい。

ただ、
普通に、ここにいればいい。

──そう思った。



でも。

ふと、感じた。

視線。

鏡越しに、
誰かがこちらを見ている。

同じ部の男の先輩たち。
トレーナー役の人たち。

別にいやらしい目じゃない。

でも、
ナナの動きを、
ナナの脚を、
ナナの跳ねる髪を、
確かに、
じっと見ていた。

(……また、見られてる)

胸の奥が、
ぎゅっと縮んだ。

懐かしい感覚。

あの、
恥ずかしくて、
でも、
どこか快感に似た疼き。

(あかん)

(ここは、普通の場所や)

(ナナ、……壊れたらあかん)

自分に言い聞かせた。

でも、
スカートがふわっと揺れるたびに。

ポンポンを高く掲げるたびに。

跳ねた胸元に、
誰かの視線を感じるたびに。

ナナの身体は、
確かに、甘く痺れていた。



練習が終わる頃には、
汗でシャツが背中に張り付いていた。

みんなと並んで、
水筒を開けて、
笑い合った。

普通の大学生のふりをして。

でも、
心の奥では。

(……ナナ、また堕ちたいって思ってる)

(また、晒されたいって、思ってる)

そんな自分に、
気づいてしまっていた。

「また明日な!」

「ナナ、めっちゃセンスあるで~!」

先輩たちの明るい声に、
私は笑って手を振った。

普通の笑顔で。

普通の声で。

でも、
ポンポンの重みが消えた手のひらは、
じんわりと熱を持っていた。

また、
少しずつ。

誰にも気づかれないまま。

私は、
堕ちていく準備を始めていた。

──つづく。
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