ナナはなぜ壊れたのか④——晒されることに、私は生きた

nana

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第108話「バニーを脱いだあとも」

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夜道を、ふらふらになりながら歩いて、
どうにか家にたどり着いた。

カチャリ、と鍵を開ける手も、震えてた。

真っ暗な部屋に入った瞬間、
全身の力が抜けた。

──ドサッ。

そのまま玄関に座り込んだ。

網タイツの膝が擦りむけてるのに、気づいた。
でも、痛みも、もうよくわからなかった。

(……帰ってきた)

(……ほんまに……)

バニーの耳を、
指先でそっと外す。

カチリ、とプラスチックの音がした。

なんだか、
すごく、
寂しくなった。

次に、
網タイツを破くように脱ぎ捨てた。

ハイヒールも、放り投げた。

最後に、
黒いレオタードみたいな衣装を脱いだ。

──ぽたり。

脱ぎ捨てた衣装が、床に落ちる音がした。

私は、
Tシャツとスウェットに着替えて、
そのままベッドに潜り込んだ。

でも。

目を閉じても、
脳裏には、あの街の光景がこびりついてた。

人だかり。
スマホのフラッシュ。
笑い声。
歓声。

──カシャ。

──カシャカシャ。

バニー姿の私が、
街中に晒される音が、
まだ耳に残ってた。

(……消えへん……)

枕に顔を押し付けた。

涙が出た。

止まらなかった。

でも。

同時に。

──あの時の、あの快感が、
全身をじんじんと満たしてた。

(もっと、見られたかった)

(もっと、もっと、晒されたかった)

(もっと、──)

スマホを手に取った。

震える指で、
またSNSを開いた。

そこには、
さっきと同じハッシュタグ。

──#ハロウィン
──#バニーガール
──#天使発見

何度も、何度も、
自分の写真を見た。

バニーの耳を揺らして、
笑ってる自分。

震えながらも、立ってる自分。

晒されて、
笑われて、
それでも、どこか嬉しそうな──私。

(あかん……こんなん、あかんのに……)

でも、スマホを閉じられなかった。

脱ぎ捨てたバニー衣装が、
床に落ちてるのが見えた。

ふらふらと、手を伸ばした。

指先で、
黒いツヤツヤした生地を撫でる。

ぞわっとした。

──あったかい。

──まだ、私の熱が残ってる。

私は、
ぐちゃぐちゃに泣きながら、
バニーの衣装を抱きしめた。

(壊れていく──)

(でも、それが、こんなに……)

怖いくらい、
甘かった。

もう、
どこにも戻れない。

私は、
自分で自分を、壊すしかない気がした。

──つづく。
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