ナナはなぜ壊れたのか④——晒されることに、私は生きた

nana

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第116話「普通の世界で、壊れていく」

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春の終わり。
私は、志望校の進学説明会に参加するため、
制服を着て、電車に乗ってた。

目的地は、駅前の市民会館。
全国模試の成績表を持って、
保護者も一緒に来る、ちゃんとした説明会だった。

(……ちゃんとせなあかん)

(もう、受験生やもんな)

心の中で、何度も自分に言い聞かせた。

でも、
足元は、妙に落ち着かなかった。

だって私は──

制服の下に、
彼氏に言われたとおりのものを、仕込んでたから。

白い制服シャツの下。
中には、
レースの透ける、
見たこともないくらい派手なランジェリー。

スカートの下も、
黒いレースの極細パンティ。

彼氏から、
「これ着て、真面目な顔して座ってろよ」
って、笑いながら渡されたやつだった。

(……なんで、こんなこと……)

でも、
私の中には、
断るという選択肢は、最初からなかった。

(見られへん、誰にも──)

(でも、……バレたら、どうしよう)

電車に揺られながら、
太ももをぎゅっと閉じた。

制服の下の、
むき出しにされた身体の一部が、
ヒリヒリと火照ってる。

普通の顔して、
普通の受験生のフリをして。

でも、
心の奥は、
ぐちゃぐちゃだった。

会場に着くと、
制服の生徒たちと、
保護者たちで溢れてた。

会議室みたいな場所に、
並べられた椅子。

前には真面目な顔をした先生たちがいて、
志望校のパンフレットが配られていた。

私は、
普通に見えるように、
おとなしく座った。

でも、
胸の奥がドクドクと跳ねてた。

(あかん……)

(汗、ヤバい……)

制服のシャツに、
じんわりと汗がにじむ。

制服の下に、
派手な下着を着けたまま、
誰にも気づかれずに、
真面目な顔をして座ってる。

それだけで、
身体の奥がびりびり震えた。

説明が始まる。

先生が、
「受験は情報戦です」
「正しい努力をすれば合格できます」
そんなことを言ってる。

でも。

内容なんて、
全然頭に入ってこなかった。

目の前の世界は、真面目そのものなのに。
私は、
誰よりも淫らな格好で、
この空間に混ざってた。

(バレたら終わりや……)

(でも……)

(バレたい……)

制服の襟元から、
少しだけ覗くレースを意識してしまう。

隣に座った知らない男子生徒が、
ふと私のほうに目を向けた気がした。

心臓が跳ねた。

(見られた?)

(……いや、そんなはずない)

でも、
そんな想像をするだけで、
膝の奥がぞわぞわと疼いた。

パンフレットを持つ手が、
小さく震えた。

(ナナ、もう普通には戻られへんな──)

制服を着て。
真面目な顔をして。
周りと同じフリをして。

でも、
誰よりも淫らに、
誰よりも壊れて。

私は、
「普通の世界」の中で、
静かに、甘く、
崩れていった。

──つづく。
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