“実況される身体”が、私の名前になった夜

nana

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【第16話】 『ナナを保存する男と、ナナを更新する男──選ばれたくなかったのに』

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──私には、二種類の“観察者”がいる。
ひとりは、保存する男。
もうひとりは、更新し続ける男。

片方は、「昨日の私」を何度も再生する人。
もう片方は、「今夜の私」にしか興味がない人。
どちらも、私を“見ている”けれど──
見ているものは、全然違う。

《昨日の声、今日も聴きました》
《ナナのあの瞬間、何度もリピートしてます》
──保存する男は、私の過去に執着する。
“あの夜の声”“あの表情”“あの喘ぎ”を、
何度も巻き戻しては、“ナナ像”を完成させていく。

彼にとって私は、一度、完璧になった女なのだ。

一方で、
《今日の配信、まだ?》《昨日よりヤバいの見せて》
《新しいナナ、楽しみにしてるよ》
──更新する男は、私の“最新”しか愛さない。
そのときの温度、そのときの反応、
“新しいナナ”が常に欲望を刺激してくれる限り、
彼は私を見てくれる。

つまり、私は──
“過去”の幻想と、“今”の燃料として、
同時に存在している。

本当はどっちも、しんどい。

保存されれば、「あのときが一番よかった」と言われる。
更新を求められれば、「昨日より刺激的じゃない」と責められる。
どっちに転んでも、
私は「今の私」で許されることがない。

──選ばれるって、そんなに幸せなことじゃないんやな。
そう思った。

私はずっと、“誰でもよかった”の立場でいたかった。
“たまたま今夜は私”くらいのほうが、気が楽だった。

なのに。

《ナナじゃなきゃダメ》《ナナの新作、まだ?》

保存と更新、
記録と期待、
重ねられていく指名に、
私は“逃げ場”を失っていった。

配信を終えたあと、私はスマホの通知を消した。
どっちの彼からのメッセージも、見たくなかった。

「記録されることも」
「更新され続けることも」
どこかで、私が“私であること”から逸れていく気がした。

でも──
きっと明日も、私はログインする。

保存する男が、“また聴くね”と囁いてくれることを想像して。
更新する男が、“今夜のナナが一番エロい”と笑ってくれることを願って。

選ばれたくなかったのに、
選ばれてしまった私は、
もう、選ばれることから逃げられない。
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