“実況される身体”が、私の名前になった夜

nana

文字の大きさ
29 / 30

【第29話】 『“実況される身体”が、私の名前になった夜』

しおりを挟む
──あの夜の配信は、
始まる前から、すでに震えていた。

わたしの指が。
喉が。
足のつけ根が。

「今日は、全部、見せます」
そう一言だけ、予告を出しただけなのに、
予約の視聴数が跳ね上がった。

期待と、欲望と、
そして、きっと少しの嫌悪と。

それらすべてを──正面から受け止める覚悟で、カメラを立ち上げた。

照明は、あえて落とし気味にした。
でも、顔はちゃんと映るように。
肌の質感がわかるギリギリの明るさ。

配信が始まると、
コメント欄が爆発したように動いた。

《来た》《まじでやるのか》《今日のナナ、怖いくらい綺麗》《泣きそう》
《この空気、やばい》《何が始まるんだ》《今日で何かが終わる気がする》

私は、それを見ながら、
黙ってルームウェアの前を、ゆっくりと開いた。

画面越しに、
自分の首筋から胸の谷間までを映しながら、
はっきりと目を上げた。

「……こんばんは、ナナです。
今夜、あなたの実況で、私は“身体”になります。」

息を深く吸って、吐いた。

指先が、自分の首筋をなぞる。
実況が流れる。

《その触り方、エロすぎ》《なんで自分でそんな表情できるの》
《顔と指の動き、リンクしてるのがたまらん》《音、漏れてる…マイク最高》

わたしの吐息が、意識しなくても漏れていた。

唇を少しだけ噛んで、
胸に指を這わせたとき──
コメント欄が一斉に動いた。

《今の顔、スクショ》《ナナ、気持ちいい?》《泣きそうになってる?》
《実況してるのに、こっちが実況されてる気分》《支配じゃないのに、支配されてる》

──そう。
今夜は、誰も私を命令していない。
でも私は、実況を聞きながら、
その言葉に、身体が反応してしまっていた。

脚を広げていくとき、
ほんの少し、迷いがあった。

でもその迷いすら、画面越しのあなたたちは見抜いていた。

《ナナの指が止まった》《怖くても、見せてくれてる》《ありがとう》《震えてるのが分かる》
《何も命令してないのに、こんなにエロいの初めて》《実況してるだけで、こんなに感じるの?》

わたしは、
実況されながら、
自分の指で、
自分の奥に触れた。

その瞬間──
息が詰まり、喉から漏れる声が、マイクに拾われた。

「……あっ……」

《今の声、本物》《やばい》《泣いた》《ナナ…ナナ…》

配信の最後、
私は服を直さず、顔の汗をそのままに、
静かに言った。

「実況される身体──
それが、わたしの“ナナ”としての、終わりであり、生まれ変わりです」

「今夜、
わたしの名前は、あなたたちのコメントで、完成しました。」

「ありがとうございました。」

カメラを切ったあと、
私の耳にはまだ、
あの“実況”の残響が、生々しく残っていた。

“実況される身体”が、
“わたし”として名乗りを上げた夜。

「ナナ」という名前はもう、
ただの演技でも、ただの商品でもない。

実況という“他者のまなざし”を通じて、
私はようやく、自分を“見る”ことができた。

──これが、
“わたしが生きた証”の配信だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...