異世界に飛ばされた少女が織りなす聖女ファンタジー!と思いきやリアル乙女ゲーでした!?

mai

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 大殿様が住む城は、青月城というらしい。青い瓦屋根が、陽光に照らされて美しく輝いている。

 城までは距離があったので、四人乗りの馬車で向かうことにした。日本で言うなら、タクシーっぽい感覚だ。バスみたいな、乗り合わせ馬車というのもあるそうだが、私に気を使ってくれたのかもしれない。

 ちなみに、機械で動く車のような乗り物は無いのかとそれとなく聞いたところ、王家用のが数台だけあるらしい。工業が発展している大陸があり、そこが主に製造しているそうだ。その大陸にも、いつかは行くんだろうか?



「プリンセス、お手をどうぞ」

 馬車から先に降りたアルが、手慣れた仕草で手を差し出してきた。最初はドギマギしていたが、アルにとっては深い意味は無く、ただの挨拶のようなものだと気付いてからは、流石に免疫もついてきた。

 手を借りて地に足を降ろした私は、目の前の景色に息を呑んだ。

 すぐそこには、たっぷりと水が張られた大きなお堀。その向こう側には、精密に高く詰まれた石垣の上に、見上げるほどの巨大な建造物。壮大にして頑強、そして白を基調とした城に、所々併せられたシンボルカラーの青が映えて美しい。

 一番大きな本館(?)の奥にも、大きな建物が二つ見えた。どれだけ、敷地面積が広いんだろう!? ここで働く人の数まで想像してしまい、規模の大きさにクラクラしてしまう。

「すごい・・・!」

 語彙力の無い私の感想は、たった一言。

「お褒めにあずかり、光栄に存じます」

 それでも、白夜は嬉しそうに微笑む。この国を、この城を誇りに思っているのだと、伝わってくるような満ち足りた笑顔だった。

「御遣い様のご来訪を告げて参りますので、少々お待ち下さい。」

 白夜は門番に何かを言付けると、すぐに私達を城内に案内してくれた。

 あっさりとしているようだけど、門番の人はこっちを見て焦っているようだったし、やはり急な訪問は迷惑だったろうかと、今更ながらに少し申し訳なさを感じた。

 お堀に架けられた橋を渡り、正門を潜った先には、幾通りもの道と、整備された低い生垣がそこかしこにあった。思っていたとおり敷地は広く、目的の本丸というらしいまで少し歩いた。足早に行き交う人々の姿に、お城=お殿様と単純な想像をしていたけれど、此処は月の国の中枢機関なのだと意識を改めた。 

 城仕えの人達の服装は、男の人は羽織袴か半纏と股引、女の人は薄い水色の着物で統一されていた。多分、女性が着ているのは制服みたいなもので、男性は身分によって着る物が違うのかもしれない。

 すれ違う度に皆が頭を下げるので、もう私が来たことが知れ渡っているのかと思ったけど、目線の先は白夜だった。そういえば、ヴィオラが「王様の護衛」だと言っていた。今更ながらに、それってかなり身分の高い人なんじゃ? と思い当たる。そんなスゴい人が、私なんかを護ってていいのかと、妙な罪悪感が湧いた。 





 大殿様へのお目通りが叶う迄の間と、私達は広々とした座敷に通された。障子窓を開ければ、緑豊かな日本庭園が広がっている。

 女性が静々と、お茶とお菓子を三人分用意してくれた。風流だなと、感嘆してしまう。百人一首でも口ずさみたい気分だ。

 白夜は用事があるらしく、部屋にはいない。久々の帰省だから、色々とあるのだろう。

 大殿様への挨拶は、数刻待てば出来ると言われた。アポ無しなので、本来は数日掛かったりするそうだ。今回が、かなりの特例なのだと分かる。それだけ、この世界での御使いは貴重で特別な存在なのだ。

 自分にそんな大層な価値があるとは、到底思えないけれど。

 魔物を浄化出来るのは事実なんだから、いっそ私は神に選ばれた尊き存在なんだと開き直れれば良いのかもしれない。でも、魔物自体が、同じ神によって作り出された存在なのでは? と疑っているので、ヤラせの片棒を担いでいるような気分なのだ。



「ハァーッ、なぁんか堅苦しいよな、ここ。白夜が何人もいるみてぇ!」

 茶を一杯啜ったアルは、草臥れたというように、大の字になって畳の上に寝転がった。

 正直で飾らないアルに、私は苦笑した。男同士でそれなりに仲良くやっているように見えるけど、生真面目で堅い白夜と、自由奔放なアルはあまり合わないのだろう。

 ヴィオラは物静かで穏やかなので、良い緩衝材になっていると思う。

 そういえば、ヴィオラのいた大陸は水に恵まれており、水産業が盛んだった。公園には大きな噴水があり、山に入れば滝が流れていた。早朝の湖に、霧がかかって幻想的だった覚えがある。

「アルの国は、どんななの?」

 まだ、見た事のない土地に興味が湧いた。

「・・・砂漠の国だよ。何にもない、だだっ広いだけで、土地の痩せた荒廃した国」

 冷たく抑揚のない口調に、少しビックリした。

「なぁんてね! 砂漠は多いけど、オアシスの周りは栄えてて、フェスタもあって賑やかだぜ。一番大きな金砂の国にも、これくらい大きな宮殿があるんだ。高台から見下ろす、夕日に照らさた街並みは絶景だから、プリンセスにも見せてあげたいなぁ!」

 一転変わった、おどけた口調にホッとした。アルは明るくて、面白くて、強くて・・・ゲームの虎太郎君のイメージと重ねて見てしまっているから、違う面があるとビクリとしてしまう。彼らはこの世界で生きている別の人間なんだと知っているはずなのに、どうしても意外性を求める気にはなれなかった。

 ―――彼らも、自分と同じ生身の人間なんだと実感するのが、怖かったからかもしれない。



 しばらくして、お茶を運んできてくれたのとは別の女性が、案内役として迎えに来てくれた。

 水色の制服着物ではなく、柄入りの打掛を羽織って、下には袴をはいている。推測だが、多分身分のある女性なのだろう。仰々しい装いなのに、物音を立てずに滑るように廊下を歩いて行く姿が優美だ。

「御遣い様を、お連れ致しました」

 襖の前で女官が正座をして告げると、内側からスルスルと襖が開けられた。

 目の前には、50畳くらいありそうな大広間、両脇には向かい合うようにして数人の男性が正座している。一番奥の一段高い場所には、いかにも大殿様といった、立派な着物の四十代くらいの男性が座ってこちらを見ていた。

「御遣い様、どうぞ奥へお進み下さい」

 扉を開けてくれた入口の男性が、掌で先に行くよう指し示す。

 格式張った作法など何も知らない。お茶くらい習っておけば良かったと若干反省しつつ、私は頭をペコリと下げて大殿様の近くへと進んだ。アルとヴィオラも、無言のまま後を着いてきている。

「御遣い様、そちらでお座り下さい」

 大殿様の一番近くで控えていた男性が教えてくれる。聞き覚えのある声に振り向けば、白夜だった。

 いつもの直垂ひたたれに胸当てと小手を着けた旅装束ではなく、胸紐や袖括りの紐の装飾が付いた絢爛な衣装だ。頭には烏帽子まで被っていて、現代日本では珍妙な格好なのに、笑えないほどピタリとハマっていて、さぞかし有能な出世頭なのだろうと思わせた。どんな格好でも似合ってしまう、スペックの高さが恐ろしい。



 大殿様とのやり取りは、正直あまり覚えていない。

 周囲からの、殿に無礼な真似すんじゃねぇぞ!? という無言の圧力(思い込みかもしれないが)を感じてしまい、かなり緊張していたのだ。まかり間違っても私は御使いなのだから、多少受け答えを間違ったって打首獄門にはならないと信じたいが、時代劇で覚えた中途半端な知識に怯えてしまった。

 ただ、覚えていないという事は、逆に考えれば重要なやり取りも無かったのだろう。ヴィオラもアルも白夜も、後で何も言わなかったから。

 それよりも印象的だったのは、その次に会った人だった。
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