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山の中は、日本のものとよく似ている気がした。と言っても、子供の頃に家族でハイキングコースを歩いたくらいのインドア派で、植物に詳しいわけでも何でもないが。
白夜の話では、今はちょうど春の時期だそうだ。豊かな新緑は美しく、目を凝らせば野草に紛れて可愛らしい花が咲いている。ふわふわと飛び交う蝶はのどかで、同じ世界に魔物が存在するとは信じられない。
「御遣い様、お手を」
先日の雨で、道が崩れたのだろうか。背丈程ある岩を登らなければ先に進めない場所で、前を歩く白夜が手を差し出してくれた。
両手を使ってよじ登れば、自力でいけそうに思えたが、ここは素直に甘えておく事にする。そうしないと、何故か三人とも残念そうにするからだ。
指先が硬く、鍛えられているのがよく分かる逞しい掌が、私の手をすっぽりと包む。現実生活では、こんな男らしいうえに、むさ苦しくない美丈夫はいなかった。相手に他意は無いと分かっていても、至近距離でのイケメンぶりに心臓が大きく脈打ってしまう。
後ろから手伝ってくれる二人の男手もあって、スルリと呆気ないほど私は岩の向こう側に到着した。
「御遣い様、お怪我は?」
ある訳がない。という言葉を飲込み、「ありがとう」と微笑んで返した。
そう、三人はとても過保護だ。白夜もヴィオラも、私を「御遣い様」と呼んで敬ってくるし、アルは一番フラットだけど、「プリンセス」呼びで、実際そのように扱ってくる。
まぁ、客観的に考えて、自分の国を脅かす魔物を浄化出来る、唯一の女の子だ。そりゃあ、大事にするだろう。私だって、日本がそんな状態になったとして、目の前に救世の乙女なる者が現われたら、助けてもらえるよう滅茶苦茶頼むし、感謝するし、貢ぐし、握手くらいして欲しいと願うだろう。
記憶の一部を取り戻すまでは、私もそんなものかと、戸惑いつつ受け入れていた。慣れないお姫様扱いに照れつつも、内心はイケメン三銃士に鼻血を吹いた。
だが、これが壮大な神の箱庭なのではと気付いた今となっては、視点も変わってくる。
彼等は、本心ではどう考えているのだろう?
1.純粋に世界を救うため、神の御遣いと共に100%善意で戦っている
2.私と同じような感じで、各々理由があって護り人役をしている
3.そもそも私の考えすぎで、単純に私は異世界召喚された救世の乙女である
3は、残念ながら無いような気がする。魔物から、あの神の気配がするのだ。それに、あれだけ強いエネルギーを持つなら、神が直接手を下せば一発だろう。まぁ、人間には分からない諸事情があるかもしれないので、完全に否定は出来ないけれど。
1なら、私にとっては安心だし、有り難い存在だ。疑って、本当にごめんね!だ。
2は・・・、もう考えるだに分からない。理由って何だよ!? 自分の契約内容さえはっきり思い出せないのに、他人のなんてお手上げだ。私は、元々そこまで頭が良くないのだ。推理小説も、推理なんてまったくせずに、単純にストーリーを楽しむタイプなのだ!
―――という事で、私は3日目には考えるのを放棄した。
私が御使い役を全うすれば、皆が助かるんだしHAPPYだ。彼等だって、何処まで信頼していいかは分からないけど、全力で助けようとしているように感じる。疑うに足る証拠が無いなら、信じた方が精神的に楽だ。
そう考えを変えれば、この世界は夢のようだった。
何せ、好きだったゲームの推しキャラそっくりのイケメンが、リアルで喋って動いて、そのうえチヤホヤしてくれるのだ♡ 最高じゃないか!?
開き直った私は、御遣い役を精一杯頑張った。
数日後、私達は碧の大地で、一番大きな国の首都に到着した。
自然豊かな山河を越えての、久々の街並みだ! と言っても、建っているのはコンクリートのビル群ではなく、数百年前の日本風というのだろうか? 分かりやすく言うと、広大な京都風都市といった感じだ。
瓦屋根に、木造の壁、漆喰の塀は昔ながらの雰囲気で、修学旅行に来たみたいでワクワクしてしまう。
「プリンセス、キョロキョロしちゃって可愛いね♡」
子供みたいだと思われただろうか? 年下の癖に、アルは余裕たっぷりだ。
「う~、だって、見るもの全部が珍しいんだもん。それに、私の居た世界に少し似てるから、懐かしくなっちゃって」
「御遣い様の世界・・・どんなの?」
ボーッとついてきていたヴィオラが、興味ありげに食いついてきた。街並みにはまったく無関心そうだったのに、御遣いに関しては別らしい。
いざ説明すると難しかったが、私はつっかえつっかえ説明した。自動車や飛行機、携帯電話とかの近代の発明器具はこの世界には無いので、考えて話さないとなのだ。そういえば、国がバラバラなのに言葉は全員共通なんだなと、今更ながらに気が付いた。これは、神様の補正が入っているんだろうか?
「ねぇ、プリンセス。この服、似合うんじゃない?」
アルが不意に、呉服屋さんの店頭に飾ってある服を指差した。膝下丈で、単衣の着物だ。薄黄色の生地に小花柄が、可愛らしい。
此処は大国の首都なので、異国風の人も多い。なので、私達の格好が悪目立ちしている訳では無かったが、女の子として純粋に、その国の格好をしてお洒落を楽しみたいという気持ちはあった。
ちなみに、私の格好は呼び出された時の制服姿だ。悪路の多い場所を行くので、靴はスクール用から、旅人用の丈夫なトレッキングブーツに履き替えさせてもらっている。そして、スカートの下には薄くて丈夫な生地のレギンスを着用している。正直、すごく不格好だ。この姿で同級生に会えと言われたら、全力で逃走する。
だが、これを履いていたからこそ、この前みたいにすっ転んでもパンツは見られずにすんだ。・・・どちらにしろ、乙女としては終わっている気もするが。
「可愛いなぁ。でも・・・」
久々のお洒落グッズに、思わず声が出た。この着物に緑色の帯を合わせて、アクセサリーコーナーにある白い花の髪飾りを付けたら、現地民になったつもりで街歩きが楽しめそうだ。
でも、遊びに来たわけではなく、今は使命を背負っての道中なのだ。ここで、ウフフ、キャハハッと楽しんでいいものか?
「もう、真面目だなぁ! そんなところも魅力的だけど、可愛い娘が着飾って何が悪いのさ?」
心を読んだかのように、アルに手を引かれて、服を身体の前に当てられる。
「うん、やっぱり可愛いよ」
耳元でボソッと囁かれ、血液が一気に顔に集まったのでは!? と思うくらいに熱くなる。きっと、私の顔は真っ赤だろう。それを見てクスクス笑うアルは、きっと確信犯だ。
「御遣い様・・・可愛い」
ヴィオラにまで褒められれば、悪い気はしない。まぁ、この二人が私を悪く言う事は、決して無いのだが。
「ねぇ、プリンセス。オレにプレゼントさせてよ」
アルの声は、いろんな意味で甘い誘惑だ。任務の最中だけど良いかなと、私は白夜に目を向けた。
白夜は店に入らず、道に立ったまま何かをジッと見つめていた。心ここにあらずといった風だ。いつも自分に厳しく、気が張り詰めすぎているくらいの彼にしては珍しい。そういえば、この街に入ってから、普段よりも口数が少なくて、様子がおかしかったかもしれない。
「白夜、どうしたの?」
傍に近寄り、彼の目線の先を辿ってみる。その方角には、天守閣のある日本風のお城が小さく見えた。
「すごい、お城まであるんだ! あそこに、お殿様とか住んでるのかなぁ!?」
「よくご存知ですね。あちらには、月の国の君主である、大殿様がいらっしゃいます」
白夜の返答に、軽く驚いた。当然と言えば当然なのだが、お城=観光用のイメージなので、実際に使用されているという感覚が無かったのだ。
「それで、あそこに何か用事でもあるの?」
「いえ、そういう訳ではありません。少々、懐かしく感じただけです」
「懐かしい? 以前、働いてたの?」
私の問いに、何故か白夜は困ったように微笑んだ。
「月ヶ瀬殿・・・王様、護衛してる」
答えてくれたのは、意外な人物だった。白夜も一瞬目を瞠ったから、驚いたのかもしれない。
「・・・あぁ、そうでした。ヴィオラ殿は、水の国の貴族の出でしたね。他国の王族に詳しくても、おかしくない」
そうか、ヴィオラは貴族のお坊ちゃまの出だったのか。道理で、気品の良さが漂ってると思った。
そこで、ようやくピンときた。義理堅そうな白夜の事だ。主君に挨拶に行きたいけれど、お世話を任された御遣い(わたし)がいるから、気兼ねして言い出せないのかもしれない。そんなに遠慮しなくても、すぐに言ってくれたらいいのに。お役目とはいえ、身を挺して護ってくれている彼等に、私は役柄抜きで心から感謝してるんだから。
「ねぇ、もしかして王様・・・お殿様に挨拶に行きたいんじゃない? 私の事は気にしないで、行ってきてくれていいよ! この街は、魔物も出なさそうだし。万が一出たとしても、二人がいてくれるもの」
「いいえ、今の私の役目は、貴女をお護りする事です。どうぞ、お気になさらないで下さい」
だが、白夜は取り付く島も無い程きっぱりと告げ、頭を振った。
・・・彼は、気付いてないのだろうか? 自分が切なそうな、寂しそうな表情で城を見上げていた事に。
「いいじゃん、行ってくれば。プリンセスには、俺達がついてるからさ」
グイッと私の肩を引き寄せながら、そう言ったのはアルだった。それは善意での申し出だから、二人の間で一瞬、火花が散ったように感じたのは気のせいだろう。
「アーランジュ殿、御遣い様に対して不敬が過ぎる」
白夜は、私からアーランジュを引き離すと、そっと息を吐いた。
「分かりました。それでは、御遣い様のご厚意を賜ります。大殿様にも、貴女を紹介したい。是非、城までご一緒戴けますか?」
「へ!? 私なんかが、行ってもいいの??」
殿って事は、この国のTOPだ! そんな雲上人に、自分のような女子高生が簡単に会っていいものかと怖じ気づく。だが、よく考えたら、今の私は救世の御遣い様だった。恐るべし御遣いパワーだ。
「勿論、オレもついていく。プリンセスの護り人だからな」
「・・・ボクも」
二人も白夜の了承をもらい、お城へは結局全員で行く事になった。
その際、いつの間にか買ってくれていた着物を、アルがプレゼントしてくれた。例の着物に、あの緑の帯と花飾りだ! 見つめてただけで何も言ってないのに、イイ男が過ぎるんじゃないだろうか!? そういえば、呉服屋にいた客の女の子達も、ヴィオラとアルに釘付けだった。ヴィオラはフードを被っていたけれど、イケメンは立ち居振る舞いやスタイルからも伝わるものなのだ。
白夜も私の着物姿を褒めてくれたけど、その目は私を見ていないような気がした―――。
白夜の話では、今はちょうど春の時期だそうだ。豊かな新緑は美しく、目を凝らせば野草に紛れて可愛らしい花が咲いている。ふわふわと飛び交う蝶はのどかで、同じ世界に魔物が存在するとは信じられない。
「御遣い様、お手を」
先日の雨で、道が崩れたのだろうか。背丈程ある岩を登らなければ先に進めない場所で、前を歩く白夜が手を差し出してくれた。
両手を使ってよじ登れば、自力でいけそうに思えたが、ここは素直に甘えておく事にする。そうしないと、何故か三人とも残念そうにするからだ。
指先が硬く、鍛えられているのがよく分かる逞しい掌が、私の手をすっぽりと包む。現実生活では、こんな男らしいうえに、むさ苦しくない美丈夫はいなかった。相手に他意は無いと分かっていても、至近距離でのイケメンぶりに心臓が大きく脈打ってしまう。
後ろから手伝ってくれる二人の男手もあって、スルリと呆気ないほど私は岩の向こう側に到着した。
「御遣い様、お怪我は?」
ある訳がない。という言葉を飲込み、「ありがとう」と微笑んで返した。
そう、三人はとても過保護だ。白夜もヴィオラも、私を「御遣い様」と呼んで敬ってくるし、アルは一番フラットだけど、「プリンセス」呼びで、実際そのように扱ってくる。
まぁ、客観的に考えて、自分の国を脅かす魔物を浄化出来る、唯一の女の子だ。そりゃあ、大事にするだろう。私だって、日本がそんな状態になったとして、目の前に救世の乙女なる者が現われたら、助けてもらえるよう滅茶苦茶頼むし、感謝するし、貢ぐし、握手くらいして欲しいと願うだろう。
記憶の一部を取り戻すまでは、私もそんなものかと、戸惑いつつ受け入れていた。慣れないお姫様扱いに照れつつも、内心はイケメン三銃士に鼻血を吹いた。
だが、これが壮大な神の箱庭なのではと気付いた今となっては、視点も変わってくる。
彼等は、本心ではどう考えているのだろう?
1.純粋に世界を救うため、神の御遣いと共に100%善意で戦っている
2.私と同じような感じで、各々理由があって護り人役をしている
3.そもそも私の考えすぎで、単純に私は異世界召喚された救世の乙女である
3は、残念ながら無いような気がする。魔物から、あの神の気配がするのだ。それに、あれだけ強いエネルギーを持つなら、神が直接手を下せば一発だろう。まぁ、人間には分からない諸事情があるかもしれないので、完全に否定は出来ないけれど。
1なら、私にとっては安心だし、有り難い存在だ。疑って、本当にごめんね!だ。
2は・・・、もう考えるだに分からない。理由って何だよ!? 自分の契約内容さえはっきり思い出せないのに、他人のなんてお手上げだ。私は、元々そこまで頭が良くないのだ。推理小説も、推理なんてまったくせずに、単純にストーリーを楽しむタイプなのだ!
―――という事で、私は3日目には考えるのを放棄した。
私が御使い役を全うすれば、皆が助かるんだしHAPPYだ。彼等だって、何処まで信頼していいかは分からないけど、全力で助けようとしているように感じる。疑うに足る証拠が無いなら、信じた方が精神的に楽だ。
そう考えを変えれば、この世界は夢のようだった。
何せ、好きだったゲームの推しキャラそっくりのイケメンが、リアルで喋って動いて、そのうえチヤホヤしてくれるのだ♡ 最高じゃないか!?
開き直った私は、御遣い役を精一杯頑張った。
数日後、私達は碧の大地で、一番大きな国の首都に到着した。
自然豊かな山河を越えての、久々の街並みだ! と言っても、建っているのはコンクリートのビル群ではなく、数百年前の日本風というのだろうか? 分かりやすく言うと、広大な京都風都市といった感じだ。
瓦屋根に、木造の壁、漆喰の塀は昔ながらの雰囲気で、修学旅行に来たみたいでワクワクしてしまう。
「プリンセス、キョロキョロしちゃって可愛いね♡」
子供みたいだと思われただろうか? 年下の癖に、アルは余裕たっぷりだ。
「う~、だって、見るもの全部が珍しいんだもん。それに、私の居た世界に少し似てるから、懐かしくなっちゃって」
「御遣い様の世界・・・どんなの?」
ボーッとついてきていたヴィオラが、興味ありげに食いついてきた。街並みにはまったく無関心そうだったのに、御遣いに関しては別らしい。
いざ説明すると難しかったが、私はつっかえつっかえ説明した。自動車や飛行機、携帯電話とかの近代の発明器具はこの世界には無いので、考えて話さないとなのだ。そういえば、国がバラバラなのに言葉は全員共通なんだなと、今更ながらに気が付いた。これは、神様の補正が入っているんだろうか?
「ねぇ、プリンセス。この服、似合うんじゃない?」
アルが不意に、呉服屋さんの店頭に飾ってある服を指差した。膝下丈で、単衣の着物だ。薄黄色の生地に小花柄が、可愛らしい。
此処は大国の首都なので、異国風の人も多い。なので、私達の格好が悪目立ちしている訳では無かったが、女の子として純粋に、その国の格好をしてお洒落を楽しみたいという気持ちはあった。
ちなみに、私の格好は呼び出された時の制服姿だ。悪路の多い場所を行くので、靴はスクール用から、旅人用の丈夫なトレッキングブーツに履き替えさせてもらっている。そして、スカートの下には薄くて丈夫な生地のレギンスを着用している。正直、すごく不格好だ。この姿で同級生に会えと言われたら、全力で逃走する。
だが、これを履いていたからこそ、この前みたいにすっ転んでもパンツは見られずにすんだ。・・・どちらにしろ、乙女としては終わっている気もするが。
「可愛いなぁ。でも・・・」
久々のお洒落グッズに、思わず声が出た。この着物に緑色の帯を合わせて、アクセサリーコーナーにある白い花の髪飾りを付けたら、現地民になったつもりで街歩きが楽しめそうだ。
でも、遊びに来たわけではなく、今は使命を背負っての道中なのだ。ここで、ウフフ、キャハハッと楽しんでいいものか?
「もう、真面目だなぁ! そんなところも魅力的だけど、可愛い娘が着飾って何が悪いのさ?」
心を読んだかのように、アルに手を引かれて、服を身体の前に当てられる。
「うん、やっぱり可愛いよ」
耳元でボソッと囁かれ、血液が一気に顔に集まったのでは!? と思うくらいに熱くなる。きっと、私の顔は真っ赤だろう。それを見てクスクス笑うアルは、きっと確信犯だ。
「御遣い様・・・可愛い」
ヴィオラにまで褒められれば、悪い気はしない。まぁ、この二人が私を悪く言う事は、決して無いのだが。
「ねぇ、プリンセス。オレにプレゼントさせてよ」
アルの声は、いろんな意味で甘い誘惑だ。任務の最中だけど良いかなと、私は白夜に目を向けた。
白夜は店に入らず、道に立ったまま何かをジッと見つめていた。心ここにあらずといった風だ。いつも自分に厳しく、気が張り詰めすぎているくらいの彼にしては珍しい。そういえば、この街に入ってから、普段よりも口数が少なくて、様子がおかしかったかもしれない。
「白夜、どうしたの?」
傍に近寄り、彼の目線の先を辿ってみる。その方角には、天守閣のある日本風のお城が小さく見えた。
「すごい、お城まであるんだ! あそこに、お殿様とか住んでるのかなぁ!?」
「よくご存知ですね。あちらには、月の国の君主である、大殿様がいらっしゃいます」
白夜の返答に、軽く驚いた。当然と言えば当然なのだが、お城=観光用のイメージなので、実際に使用されているという感覚が無かったのだ。
「それで、あそこに何か用事でもあるの?」
「いえ、そういう訳ではありません。少々、懐かしく感じただけです」
「懐かしい? 以前、働いてたの?」
私の問いに、何故か白夜は困ったように微笑んだ。
「月ヶ瀬殿・・・王様、護衛してる」
答えてくれたのは、意外な人物だった。白夜も一瞬目を瞠ったから、驚いたのかもしれない。
「・・・あぁ、そうでした。ヴィオラ殿は、水の国の貴族の出でしたね。他国の王族に詳しくても、おかしくない」
そうか、ヴィオラは貴族のお坊ちゃまの出だったのか。道理で、気品の良さが漂ってると思った。
そこで、ようやくピンときた。義理堅そうな白夜の事だ。主君に挨拶に行きたいけれど、お世話を任された御遣い(わたし)がいるから、気兼ねして言い出せないのかもしれない。そんなに遠慮しなくても、すぐに言ってくれたらいいのに。お役目とはいえ、身を挺して護ってくれている彼等に、私は役柄抜きで心から感謝してるんだから。
「ねぇ、もしかして王様・・・お殿様に挨拶に行きたいんじゃない? 私の事は気にしないで、行ってきてくれていいよ! この街は、魔物も出なさそうだし。万が一出たとしても、二人がいてくれるもの」
「いいえ、今の私の役目は、貴女をお護りする事です。どうぞ、お気になさらないで下さい」
だが、白夜は取り付く島も無い程きっぱりと告げ、頭を振った。
・・・彼は、気付いてないのだろうか? 自分が切なそうな、寂しそうな表情で城を見上げていた事に。
「いいじゃん、行ってくれば。プリンセスには、俺達がついてるからさ」
グイッと私の肩を引き寄せながら、そう言ったのはアルだった。それは善意での申し出だから、二人の間で一瞬、火花が散ったように感じたのは気のせいだろう。
「アーランジュ殿、御遣い様に対して不敬が過ぎる」
白夜は、私からアーランジュを引き離すと、そっと息を吐いた。
「分かりました。それでは、御遣い様のご厚意を賜ります。大殿様にも、貴女を紹介したい。是非、城までご一緒戴けますか?」
「へ!? 私なんかが、行ってもいいの??」
殿って事は、この国のTOPだ! そんな雲上人に、自分のような女子高生が簡単に会っていいものかと怖じ気づく。だが、よく考えたら、今の私は救世の御遣い様だった。恐るべし御遣いパワーだ。
「勿論、オレもついていく。プリンセスの護り人だからな」
「・・・ボクも」
二人も白夜の了承をもらい、お城へは結局全員で行く事になった。
その際、いつの間にか買ってくれていた着物を、アルがプレゼントしてくれた。例の着物に、あの緑の帯と花飾りだ! 見つめてただけで何も言ってないのに、イイ男が過ぎるんじゃないだろうか!? そういえば、呉服屋にいた客の女の子達も、ヴィオラとアルに釘付けだった。ヴィオラはフードを被っていたけれど、イケメンは立ち居振る舞いやスタイルからも伝わるものなのだ。
白夜も私の着物姿を褒めてくれたけど、その目は私を見ていないような気がした―――。
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